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「これは我が一族が背負う業だ。この指輪と共に代々受け継がれてきた」

「その指輪はまるで首輪のようだねぇ。業という鎖で君を女王に繋いでいる。それが続く限り、ダリア嬢も繋がっている」



笑みを浮かべて肩に手をおいていた葬儀屋に振り返るシエル。



「その首輪をこの首にはめると決め、覚悟を決めたのは僕らだ」



ーーーーグイッ.



「!」

『!』

「小生はいつか、君がその首輪で首を吊ってしまわないように祈ってるよ」



シエルのネクタイを掴み引き寄せ葬儀屋は言う。



「そんなのは、つまらないからね」



チェシャ猫のような笑みを浮かべながら言うと、葬儀屋は手を離した。



「また何かあったらいつでも店においで」



ゴホッ、とせき込みながらシエルは背を向ける葬儀屋を見る。



「伯爵と執事君ならいつでも歓迎するよ。ダリア嬢は棺を用意して待っているよ。ヒッヒッ…」



足取り軽く、葬儀屋はその場を去っていった。もうその頃には、空は夕暮れに染まっていた。



「ーーーーお優しいのですね」



持っていたマントをシエルにかけながらセバスチャンが言った。



「お二人とも、そっくりですね」

『貴方までどーしたのよ』

「何度も言わせるな。僕は優しくなど「お優しいですよ。でなければ…」



遮るとセバスチャンは嘲るような笑みを浮かべた。



「弱虫≠ナすかね?」

「『っ!』」



ばっと二人が弾かれたように振り向けば、セバスチャンはクス、と笑う。



「貴様…」

「何故撃たなかったのです?」



その問いに二人は、文句の一つでも言おうとした口をつぐんだ。



「肉親さえ見殺しに=H嘘は感心しませんね。あの晩、お二人は銃を隠し持たれていた。撃とうと思えば彼女を撃てたはずです」



悪魔が追いつめていく…。



「けれど坊ちゃん。貴方はためらった」



一度、手が動きかけたがシエルの手は銃に動くことはなかった。



「お嬢様も、私が促しても銃をとらなかった。危ないまねをして、割って入るような行動をしてまで…何故です?」



見つめる二人に悪魔は囁く。



「マダムを自分の手で殺すのが、怖かった?誰とも知れない女は殺せても、やはりお身内は殺せないとでも?」

「……」



しばしの沈黙のあと、シエルが口を開いた。



「お前の仕事だからだ」



揺るぎなくシエルが言ったあとにダリアも続ける。



『貴方が死んでも私達を守ると思ったから。だから私は前に出たし、私もシエルも撃たなかった』

「…!」

「おまえと僕達の契約は、僕達が目的を果たすまで僕達の力となり∞僕達を殺さず守り抜くこと=v

『どちらかでも死んでしまっては契約違反よ。二人ともなら尚のこと』



二人はセバスチャンから視線をはずし、再び墓石を見る。



「契約に従うことが悪魔の美学だと言うのなら、お前は死んでも僕達を助けに来るはずだ」

『悪魔には信念≠竍忠誠≠ネんてありはしないんでしょう?あるのは美学≠フみ。それなら己の美学のために、貴方は私達を守る』

「だから、僕らがわざわざ手を下さずとも、黙っていればお前がマダムを殺してた」



「違うのか?」とシエルは横目にセバスチャンを見上げた。



「では何故…止められたのです?」



眉根を寄せながらセバスチャンは理解できないというように問う。



「マダムは表の世界を裏の力で汚した。ならばしかるべき場所に出て、裁かれるのが道理」

『ヤードのメンツを立ててあげるのも役目だしね』

「……僕を殺そうとしたマダムの目には、迷いがあった。マダムには、僕を…肉親を殺すことはできない。ダリアが前に出た時を見て、確信した」

『一瞬でも迷えば、命取りになる。チェスと一緒よ。彼女は迷い、次の一手を見失った。それだけのこと』



「だから」と二人はセバスチャンの両脇を通り過ぎざま凛とした声で言った。



「『僕/私は迷わない』」



ーーーーぞくっ.

セバスチャンは衝撃を受けたように呆然としながら二人に振り向いた。



「…そうでなくてはね…いつでも王と女王(あなたたち)は駒を上手に使い、生き残ればいいのです。騎士(わたし)も他の駒(マダム)も利用して」



ニ…とセバスチャンは口元を歪めた。



「その玉座の下に駒の亡骸が積み上がろうと、決して倒れてはいけない。チェスと違い、王も女王も倒れればこの「ゲーム」は終わりなのだから」

「立ち止まったりなどするものか」

『踏み出した一歩に後悔もしない』

「『だから…』」



二人はセバスチャンに向き直り、真っ直ぐに見つめながら言った。



「『命令よ/だ』」

「騎士(おまえ)だけは僕達を裏切るな」

『私達の傍を離れないで』

「『…絶対に!』」

「ーーーー御意、ご主人様」



跪き、恭しく頭を垂れたセバスチャン。

ーーーー貴方がたが望むのなら、どこまでもお供しましょう。

踵を返し歩き出した二人に続くセバスチャンは、その口元に力が込められていることに気づいていた。



ーーーーたとえ玉座が崩れ、輝かしい王冠が朽ち果て

ーーーー数え切れない亡骸が積み上がろうと

ーーーー積み上がる亡骸の上

ーーーーそっと横たわる小さな王と女王の傍らで


















さいごのコールを聞く、その時まで。





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