「さあ、ドラマティックな走馬灯を…」
シネマティックレコードにうつったのは、のほほんとお茶を飲むタナカの姿。それにグレルが固まった。
そして、次々とうつるは使用人三人の失態の数々。
「ちょっ…ちょっちょっ…ちょっと!!なんなのヨ、コイツらあああッ」
「ここ一年程はそればかりの毎日でしたからねぇ…」
咳込みながらセバスチャンが言えば、グレルは苛立たしげに周りのシネマティックレコードを払いのけていく。
「こんな凡人共に興味ないのよ!もっとオイシイトコ見せなさいよッ」
「残念ですが」
素早くグレルの背後に移動していたセバスチャンは秘め事を言うように言った。
「ここから先は有料です」
「チッ」
ギリギリ体を仰け反らせて蹴りをかわす。
「嗚呼…また服がボロボロになってしまった…肩くらいなら繕えば、まだ着られると思っていたんですが…コレはもう駄目ですねぇ」
「こんな時に服の心配なんて余裕じゃない。傷が浅かったってコトかしら」
「何としてもアタシの花の顔を狙うのねこの悪魔…」とグレルはセバスチャンを睨む。
「でも、身だしなみに気を遣う男って好きよ。セバスちゃん!」
フーーーーッと長く息を吐くと、上着を脱いだセバスチャン。
「この方法だけは使いたくなかったのですが…仕方ありません」
今までにない気迫のセバスチャンに「ンフッ…」とグレルは笑う。
「ようやくアタシに本気になってくれるのね?」
風の音が、耳をかすめる。
「次の一撃でオワリにしましょうか、セバスちゃん」
グレルが一歩踏み出す。
「この世にさようならを」
セバスチャンが一歩踏み出す。
「あの世で結ばれまショ?」
同時に、二人が動いた。
「セバスちゃん!!」
ーーーー!!?
トドメを刺す勢いで振るったデスサイズに、セバスチャンの上着が絡まっている。
「…え?」
シンとなったデスサイズ。あれあれ、と上着を取ろうとするが取れないし、デスサイズもうんともすんとも言わない。
………。
「エエエエエエエーーーーーーーーーーーー!!?」状況を理解したグレルはまさかの事に絶叫。
「その武器が回転する事であの切れ味を生み出しているのでしたら、その回転を止めてしまえば良いかと思いまして」
「こんなモノすぐに取って…!!」
だが、なかなか取れない。
「その燕尾服は上質なウールで出来ています。ウールは布の中でも特に摩擦力が強い。一度かんだら中々とれませんよ」
「どんだけぇえ!!?」
「どうしても燕尾服だけは使いたくなかったのですが、仕方ありません」
「すでにボロボロでしたしねぇ」、と長いため息と共に呟く。
「全てが切れる死神の鎌。使えれば…ね」
クス…と笑うとグレルに歩み寄ったセバスチャン。
「さぁ…グレルさん。死神の鎌はもう使えませんよ?」
「あ…ああ…っ」
ヤバい、と怯えるグレルにフッ、とセバスチャンは笑うと、次には素敵な真っ黒い笑顔で指を鳴らし始めた。
「ただの殴り合いでしたら、少々自信がございます」
「あっ…ちっ…ちょっと待って…かっ…」
顔はやめてぇぇええええーーーーぎぃやーーーー!!!
*
「…ふう」
いい汗かいた、とでも言い出しそうなセバスチャンの足下には。
「お…おぼえてらっひゃい〜〜〜〜…ぐふっ」
ボロボロ(主に顔面)にされたグレルが。それでいい、それでいいのだが、見ていたダリアもシエルもえげつなっ!!!と顔をひきつらせていた。
「おや…流石死神。打撲では死にませんか」
「ですが…」とセバスチャンはあるものを拾い上げた。
「これではどうでしょう?」
「……!?」
セバスチャンが構えたのはデスサイズ。
「全てが切れる死神の鎌。という事はあなたも切れるのでは?」
ブチ、と燕尾服を簡単にちぎり取り、セバスチャンは再びグレルに近づく。
「な…何考えっ…やめなさいよっ…ギャッ!!」
「足蹴にされるのは御免ですが、するのはいい気分ですね」
『…ドS』
ふふっ、と笑いながら痛いと喚くグレルを手加減無しに踏むセバスチャンにダリアが呟く。シエルも微妙な顔だった。
「いだぁあぁいっっ」
「なかなかいい声でなくじゃないですか」
「セバ…ぁぎゃああああっ」
「ご褒美に」
デスサイズが動き始めた。
「貴方のお気に入りの玩具で、イかせて差し上げます」
「お願っ…お願いゼバズちゃ…やめてえっ」
「嫌です」
にっこり。笑ったセバスチャンだった。
「や」
悪魔さながらに(悪魔だけど)笑ってセバスチャンはデスサイズを振り上げた。
「やめ」
シエルとダリアは強ばった顔でじっと見つめる。
「てえええええ」
ーーーーガキィン.
「!?」
振り下ろしたデスサイズは突如のばされてきた棒によりグレルに届くことはなかった。さらにそれは何でも切れるデスサイズであるのに、切ることが出来ない。驚きながらセバスチャンは邪魔をしたその先を見上げた。
「あっ…!!」
「『!?』」
「お話し中失礼致します」
月明かりをバックに屋根の上に立つ男。
「私、死神派遣協会管理課のウィリアム・T・スピアーズと申します。そこの死神を引き取りに参りました」
黒スーツを着た死神、ウィリアムは屋根から飛び降りた。
「ウィル!ウィリアム!!助けに来てくれたの」
「ね」、と言っている時にはウィリアムがグレルの頭に飛び乗っていた。
「派遣員グレル・サトクリフ。貴方は規定違反を犯しました」
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