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「やっぱり、ありませんでしたね…」



疲労や落胆に、ついつい長いため息が出てしまう。女性の方も特に何もなく、再び応接室に腰を落ち着ける。



「こうなるともう、セバスチャンが他の場所に隠したとしか…」



そう言う伯爵も困りきった様子だ。安全としての行いが、この状況で仇となってしまった。高難度の宝探しというところか…鍵はどこにあるんだ?



「それか窓から捨てちゃったとかね。小さい物だろうから、この嵐で流されたり埋れたりしたら、もう見つかんないだろうし」



なるほど…その可能性は高いかもしれない。この天気なら、自らが保管したり隠すよりも手っ取り早いし。しかし、ならばこれ以上探すのは…。



「あのっ!」



背後からの、声。顔を上げると、庭師が切羽詰まったような顔で伯爵を見つめていた。



「僕、外に探しに行きます」

「ワッ、ワタシも行ってきますだ!!」



探しにって…この嵐の中を!?思わず面食らってしまう。庭師と共にメイドも名乗り出て、伯爵やご令嬢の方も驚きに面食らっていた。



「見つかれば犯人の手掛かりになるのは確かだが、そこまでしなくても…」

「僕ッ、この事件を解決したいんです!!」



力のこもった庭師の声が、伯爵の言葉を遮る。



「僕は頭が悪いから、坊ちゃんやお嬢様みたいに考えて犯人を見つけるなんてできません。でも、鍵だったら見つけられるかもしれない」



呆然と面食らい、伯爵とご令嬢は庭師を見つめる。



「鍵が少しでも解決のきっかけになるなら探したいんです!」

「あっ、オイお前ら…すいやせん、失礼します!!」



庭師とメイドは互いに頷き合うと、シェフの制止も聞かず応接室から出て行ってしまった。その二人をシェフも追って部屋を出て行く。



「『……』」



慌ただしく、閉じられた扉の外で足音が遠ざかった。伸ばしかけた伯爵の手はおろされ、頬杖をつくとご令嬢と二人、仕方ないというように、軽く息を吐いていた。



「ーーーーなぁ」



静まり返っていた部屋に、恐る恐るというようにキーンが口を開いた。窓辺にいた伯爵が振り向く。



「ずっと黙りこくってるだけなのも息が詰まるし、カードゲームでもしないか?」



どうやら、この部屋の空気に耐えられなくなったようだ。確かに、身動き一つすら、なんだかしにくい空気だもんな…。



「トランプ持ってきてるから、部屋に取りに行ってくる」

「待ってください。行くなら皆で行きましょう」



立ち上がったキーンに慌てて言う。この屋敷で、単独行動はオススメできないし、見過ごせない。



「すぐ戻るって」

「犯人がわからない以上、被害者をこれ以上出さないためには、団体行動が一番安全なんです」

「確かに犯人がこの中にいるならそれが最善だよね。いれば、だけど」

「ーーーーどういう意味だ?」



煙管の煙を燻らせた劉の言葉に、キーンは訝しげな顔をする。



「どうもこうも、そのままの意味ですよ」

「この中にいないなら、どこにいるっての?」

「例えば嵐になる前に到着していて、外に身を隠しているーーーーとか?」

『いたとしても密室に入ったりこの嵐の中を歩いた足で、足跡もつけずに屋敷内を徘徊するのは不可能では?』



変な緊張感が全員に走る中、ご令嬢や伯爵は表情一つ変えない。



「もしその不可能を可能にする13人目が存在するとしたら?」

「バカバカしい!!そんなもの絶対にいるわけがない」

「絶対に?この世には絶対なんてものの方こそ、存在しないんですよ」



否定したウッドリーに対し、劉は笑みを浮かべる。なんだか、独特の空気を劉から感じる。



「絶対を覆す何者かがこの城に潜んでいて、虎視眈々と我々の命を狙っているとしたら…もうすぐ傍まで来ているのかもしれませんよ」



そんな、まさか…。

狼狽える我々に、劉は閉じていた瞼を開けて、漆黒の瞳で見据えた。



「存在しないはずの13人目がーーーー」





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