昨日から降り続く雨。食堂には全員が揃っていたが、空気は重かった。
「奴がしっかり下準備を済ませていて助かったな」
奴とは、セバスチャンを指すのだろう。つい、心配になり二人を見つめるが、少しは立ち直ってくれたのだろうか…いや。この短時間で、あんな子供達が無理だろう…。
「いーにお〜い!いただきマース。朝食べてないからお腹空いちゃった」
笑顔で食べ始めたグレイを見て、周りも促されたようにとりあえず食べ始める。
「どうしたアイリーン、手をつけてないじゃないか?」
「ごめんなさい」
『アイリーンさん、大丈夫ですか?顔色が優れませんが』
「ええ…食欲がなくて…」
顔色悪く口元にハンカチを当てるアイリーンは、具合が悪そうだ。まあ、それが普通の反応だろう…女性には、あまりにも衝撃が大きいものだったはず。
「ねえ」
フォークを指で器用に回しながら、グレイはアイリーンに言う。
「それ、余ってるならボクもらっていい?」
「ええどうぞ「違うよ」
差しだそうとしたアイリーンだったが、グレイはその隣をフォークで示す。
「君のじゃなくて、隣のやつ」
「え?」
隣?アイリーンは「あら…」と隣の空席を見る。
「本当、一人分余ってますわ。シェフの方が人数を間違えたのかしら」
「朝食を用意したのはセバスチャンだ。奴が数を間違えるなんてありえない」
「え?それじゃ誰が?」
「全員揃って…あ!フェルペスさんがいらっしゃいませんね」
それにあぁ、と全員が気づく。自分も、失礼だけど全く気づかなかった。いや、朝から色々あったからであり、決してその、フェルペスの存在を忘れたとかでは…。
「いつも影薄いから気付かなかった」
…そんな、ハッキリ言うものだろうか。
「そういえば朝から見てないね」
「確かに随分と朝寝坊ですな。はは…」
「……」
なんだか、気になる。昨夜に続き、今朝の事から神経質になっているのか…けれど、第六感というのか…告げるのだ。何かあった、と。
「あの!!」
声を掛けると、全員の視線が集まった。
「見に…行きませんか、ご令嬢の寝室」
「『!』」
ただならぬ様子が伝わったのか、周りもざわめく。
「ーーーーご案内します。姉さん」
『ええ』
伯爵とご令嬢は頷きあうと立ち上がる。劉は目を開けており、ウッドリーは酷くおびえた様子だった。廊下を進み、階段を駆け上がり、また廊下を進んでいく。
『そこを右です!!』
角を曲がって先頭を走りながら、後ろからのご令嬢の案内を頼りに部屋を見つける。すぐに、ご令嬢の部屋の扉を何度も拳で叩く。
「フェルペスさん!!フェルペスさん、いるなら返事してください!!」
中からの返事は、無い。最悪な展開が頭をよぎり焦りが。
「くっ…鍵が!!」
ノブを回し開けようとするが開かない。怯えていた様子だから、用心して鍵を掛けたのだろう。
「ご令嬢!鍵はどこに?」
『わかりません』
困った顔で首を横に振ったご令嬢に「えっ!?」と驚く。ここは、彼女の部屋だろう。すぐにご令嬢が説明してくれた。
『私の部屋もシエルの部屋も、鍵はセバスチャンが管理していて、保管場所は奴しか知りません』
「奴が死んだ今、僕らもどこにあるのか…」
「…っ下がってください坊ちゃん!お嬢様!僕がっ「どいて」
庭師が前に出た時、背後から声が。
ーーーービッ.
「わあッ!!!」
ーーーービシッ.
ドア付近にいた全員が驚き慌てて避けると、ドアがパズルのようにバラバラに。な、なぜ…!?なにが!?
「さっさとしてよね」
驚きに庭師が伯爵を抱きしめるが、伯爵は苦しそうだった。
「デザートがまだなんだからさ」
そう言ったグレイの手には剣が。ああ…剣でバラバラに…。どんな芸当だ。流石女王の秘書武官ということか…。劉は一人だけおー、と拍手を送っていた。
「い、行きましょう!」
『グレイ伯爵、ドアの修理代頼みますね』
「君って僕にはいつも厳しいよね」
会話をしながら走り出し、寝室へと向かう。
「フェルペスさん!!」
寝室の扉を開け放つと、足元に何かが当たった。なんだ?
「えっ…」
下に視線を向けて、驚いた。
「フェルペスさん!!」
泡を吹いて苦痛の顔でフェルペスは死んでいた。
next.
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