「ーーーーあれ?ジーメンス郷寝ちゃった?」
「そうみたいですね…」
もう夜も更け、会のような賑やかさも前のことのように思える頃。その声に、うたた寝していた伯爵が目を覚ます。
「セバスチャン、郷をお部屋にお連れしろ。僕も下がる…姉さんは?」
『私もさがるわ』
隣で本を読んでいたご令嬢も、栞を挟んで本を片手に立ち上がる。あんなに分厚い本…頭がいいのだろうか。何を読んでいるのかは、わからなかったが。
「申し訳ありません。僕と姉も先に失礼させて頂きます」
「あれっ、二人とももう寝ちゃうの?」
『私達のような子供は、もう寝る時間よ』
「あとは皆様でごゆっくり」
去っていった伯爵達に、軽く頭を下げる。ふと、目を向けると、何か思案しているようにグレイが見送っていた。
「……都合がいい時ばかり子供になられるのですね」
「うるさい」
『そのニヤニヤをやめろ』
ーーーー
午前1時、使用人達は後片づけをしていた。
「ひっ…ひどい目にあっただよ〜」
「ウダウダ言ってねーで働けッ」
机に突っ伏して泣いていたメイリンだったが、ベルが鳴ったことに立ち上がりどこの部屋か確認する。
「げっ!ジーメンス様の部屋ですだ!!」
「目え覚まして水でもほしくなったんじゃねーか?」
晩餐会での出来事が思い起こされる。
「ううっ…行くの嫌ですだ…」
「私も行きましょう」
横から聞こえた声に沈んでいた気分が上昇。
「セッ、セバスチャンさん∨心配してくれるですだか〜っ∨」
「心配なのはジーメンス様です」
ずっぱりとセバスチャンは言った。
「大分酔ってらっしゃいましたし…」
エプロンを外し上を着て、メイリンと一緒にジーメンスのもとへ向かう。窓に打ち付けるほどの雨に、鳴り響く雷鳴。
「ひでえ雨ですだね」
「あまりこの勢いが続かないといいのですが…」
時折稲光が起こるなか、二人はジーメンスの部屋の前に来た。
ーーーーコンコン.
「ジーメンス様、お呼びでしょうか」
「ぐッ、ぐわあああッ」ーーーーパリン.
「「!?」」
部屋の中から聞こえてきた悲鳴。驚きながらもメイリンは慌てて扉を叩く。
「どうしたですだがジーメンス様!ジーメンス様!!」
「どうしたの?何の騒ぎ?」
騒ぎを聞きつけ客人達が集まってきた。
「蹴破りましょう」
宣言通りセバスチャンはドアを蹴破る。
「ジー…!!」
ーーーー「!!!」
中を覗いた全員が表情を崩した。
「きゃああああああッ」
「うわああああッ!!」
部屋の主、ジーメンスは椅子に力無く、胸元を真っ赤に染めて座っていた。その様子にフェルペスが気絶。
「失礼!」
立ち竦む人の間を先生が横切り脈をはかる。
「…死んでる!!」
この時のわたし達は誰一人として想像していなかったーーーーいや、できなかった。
彼の死はほんの序曲に過ぎなかったということを。
唸る雷鳴と豪雨がまるで、悪魔の奏でるオーケストラのように祝福していたーーーー。
ファントムハイヴ
幽鬼 城殺人事件の幕開けを。
next.
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