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「#甘甘」のBL小説を読む
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「…イマイチ…」



ぼそりと聞こえたバイオレットの呟き。



「本当は呼びたくないんだが…」



今度こそ完成したのかとまたこっそり伺う。



「来ると言って聞かなくてな…」



絵を見た瞬間我慢ならず吹き出した。



「バイオレット!そ…そろそろ限界なんだが…ッ」

「もう少しだから動いちゃダメ」

「(またグリーンヒルを描いてない!!)」



バイオレットが描き上げたのは姉妹らしき女性や少女達に囲まれ憂鬱そうなブルーアーの姿だった。



「ファントムハイヴ。お前にも姉がいたな」

「はっ!?はい」



絵に思わず笑い出しそうだったシエルは我に返りレドモンドの問いに頷く。



「ダリア嬢は弟のお前がいるのだから来るだろ?」

「いえ、姉は人混みを嫌うので…(というかすでにいる)」



内心付け足しながら答えるとレドモンドがふーん。と笑った。



「是非ともダリア嬢のエスコートは願い出たかったんだが残念だ」

「「え!」」



本気か軽い冗談か、残念がるレドモンドにシエルだけでなくエドワードも面食らう。



「お目にかかった事はないが、その容姿の噂はよく耳にしてるからな。一度話してみたかったんだが…」

「いやいや!先輩がエスコートするほどではありませんよ!あいつなんて並みです並み!!」

「お前が言うな!」



必死で言うエドワードに思わずツッコむ。



「そういえばミッドフォードの妹はお前の婚約者だったな」

「えっ!?」



姉の話から婚約者の話になってしまった。



「呼ぶのか?」

「えっと「必ず来ます!!でもオレの応援であって断じてコイツの応援じゃありません!!」



先程よりも必死になって言うエドワードにハーコートがクスクス笑う。



「これはエリザベス嬢がどちらの応援席に座るか見物だな」



言っていたレドモンドは途端ににや〜と厭らしく笑みを向けて来た。



「で?二人はどこまで進んでるんだ?キスくらいしたか?」

「はっ!?」

「レレレレレドモンド先輩っ!!?」



シエルはぎょっと顔を赤くし、エドワードは血の気を失った顔に冷汗をこれでもかと流して狼狽える。



「お前も男なんだから何もないとは言わねーよな?」

「いやあの…っ」

「チェスロックゥウウウウウ!!!」



青くしたり赤くしたりで若干紫な顔色のシエルの肩を抱いて問い詰めていたチェスロックにエドワードが胸倉を掴み詰め寄った。



「リジーは天使だからそんなことはしない!!!」

「涙目になってんじゃねーよ!!ヒくわ!!」



ギャーギャー騒ぐ周りを尻目にシエルは溜息。

ーーーーはー…下らん…閉鎖された世界ってのはどこも一緒だな。



「たるんどる!!」



周りと意識を遮断していたが、皮切りのような怒鳴りに意識を戻す。



「前夜祭や後夜祭はあくまで伝統あるクリケット大会へ向け選手が鋭気を養うためのものだ!!女と踊るのが目的ではないぞ!!」



ゼーッ。ハーッ。極限まで走り回ったかのように息を乱すグリーンヒルは、息を整える暇なく喝を入れようとまだ怒鳴る。



「大体「動くなって」痛っ!?」



続けようとしていたグリーンヒルの頭に、バイオレットが投げた木炭用消しゴムフランスパンが直撃。



「何をする!?」

「せっかくいいかんじだったのに。超大作が台無しだよ」



一気にヤル気を失った。そんな盛大な溜息をするバイオレットに、懲りずにシエルは今度こそグリーンヒルを描いたのかとそっと覗き込んだ。そして盛大に吹き出す羽目に。



「む…す…すまん」



申し訳なく思い謝るグリーンヒルだが、その必要はなかった。バイオレットが描いていたのは最早人ではなく、捻くれ者が描いたかのような複雑怪奇な巨大迷路だった。確かにまあ、超大作ではあるが。シエルは声に出して笑いたいにを必死にこらえる。



「(結局一度もモデルを描かなかった。でも画力は天才的…なんなんだこの変人は!?)」



平時なら絶対関わりたくないタイプだが…少しでも会話して親しくしておかなくては。



「バ…バイオレット先輩もダンスするんですか?」

「目が回るから大っ嫌い」



会話終了。



「ソーデスカ…」



シエル自身も会話するのを好むわけではないが、ここまで頑なな態度はない。

ーーーー仕方ない、作戦変更だ。少々荒っぽいが…。



「僕も6月4日が楽しみになってきました!」



ぱっと楽しみな笑顔を浮かべる。



「でも他寮の人と仲良くなると、戦いづらいですよね」

「真剣勝負で手を抜く奴など真の友ではないぞ!」

「それはそうですが…やっぱり僕はファントムハイヴ君とは戦いづらいなあ…」

「僕もですハーコート先輩。あと紫寮にも友達がいるので戦いづらいな〜って」



ねー。とハーコートと頷きあうシエルにあー。とチェスロックは納得。



「だからお前紫寮に来たのか」

「はい。デリック・アーデンというんですけど」






ーーーーバキッ!!






「え…」



時が止まったかのような空間に、バイオレットの筆圧に耐えきれずクロッキーが折れた音が盛大に響いた。シエルの足下に、折れた欠片が乾いた音を立てて落ちる。



「デリック…だと…?」



こちらに視線を向けた人は悪魔だったのか。音が鳴るくらい力任せにクロッキーを紙に一直線に引きながら、瞳孔を目一杯開くバイオレットは、そう思わせる迫力を持ってシエルを凝視した。





next.
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