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「本当?よかった〜。じゃあ…」



ちょうどその時、ダリアとセバスチャンが廊下の曲がり角からやってきた。



「明日午後4時に、白鳥宮で待ってるね!」



キラキラとした笑顔で手を振ると、またねーとモーリスは曲がり角に消えた。会釈していたシエルは、直後聞こえてきた背後からの地響きに振り向く。

ーーーーワッ!



「すごいよファントムハイヴ!!」

「いいなあ俺も行きたいっ!」

「白鳥宮ってP4組しか入れないんだぜ!!」

「スゲーッ!!」

「後で話聞かせてくれよ〜」

「仲良くしようぜーっ!」



一気に取り囲まれて騒がれていたシエルを横目に、セバスチャンとダリアは隣を通り過ぎていった。

その夜。



「ここは初めから≠ナはなく当初は≠ニ訳すべきですね」



寮に帰ったセバスチャンは部屋で生徒に勉強を教えていた。



「ここは間違え易い所ですから気をつけて。他は大丈夫ですか?」

「はい!ミカエリス先生の教え方、すっごく解り易いです。ありがとうございますっ。お休みなさい先生!」

「はい、お休みなさい」



にこやかに手を振り生徒を見送ると、すぐに扉をノックする音が。



「ミカエリス先生!解らない所があるので教えてくださいませんか?」

「…どうぞ」



ゆっくりと、扉が開かれ二つの影が中に入った。



「フン。随分と人気者のようじゃないかミカエリス先生」

『連日連夜ご苦労様』



皮肉と共に部屋に来たのはシエルとダリアだった。



「ええ。教え方が解り易く優しいと、皆さん誉めて下さいますよ」



はっ、と二人は鼻で笑う。



『猫をかぶっているだけあるじゃない』

「お前の本当の教育方法をあいつらに教えてやりたいくらいだ」



立ち上がったセバスチャンはシエルの上着を受け取る。



「明日午後4時にP4の集まりに呼ばれた」

「存じております」

『またとないチャンスね。なんとしても、P4とその取り巻きに気に入ってもらわないと』

「ああ。必要なのはまず茶菓子か」

「仰る通りです」

「なんで僕が子供相手に茶菓子なんぞ…」



苦々しい顔をするシエルにセバスチャンは笑いながら振り向く。



「可愛いものではありませんか。ニセモノではなく本物の茶菓子で懐柔出来るんですから。しかし、明日の午後4時は私クリケットの指導があるのですが…どちらを優先させますか?」



シエルとダリアの前に紅茶のカップを置く。



「ご命令とあらばお傍に控えます」

「殴り合いをするわけじゃないんだ。僕一人で問題ない」



そう言ったシエルに、ダリアは少し考えた。



『…待った。私が一緒に行く』

「?どうしたんだ急に」

『あいつの去り際の嘘臭い笑顔が気になるだけよ』

「お嬢様自身もそうですからね」

『私はほっとけ。セバスチャンから茶菓子を受け取ったら届けに行くわ』

「ああ」



二人は笑みを浮かべると、セバスチャンを見上げた。



『命令よセバスチャン』

「P4が驚くような茶菓子を用意しろ!」



胸に手を当て、いつものようにセバスチャンは頭を垂れた。



「御意、ご主人様」



ーーーーコンコンッ.



「ミカエリス先生。教えてもらいたい所があるんですが」

「どうぞ」



すぐに扉が開かれた。



「失礼します」

「教えて頂いてありがとうございました!」

「いいえ」

『ミカエリス先生、明日までにこちらの書類に目を通していて下さいね』

「はい」



切り替えの早さに、生徒は中でどんな会話が行われていたかなんて何も気づかない。



「『それじゃあミカエリス先生』」

「ファントムハイヴ君、シスター・アンジェ」



互いに含んだ笑みを浮かべながら、挨拶を。



「「『お休みなさい』」」






その翌日、事件は起こったのだった。






「えっ?」



白鳥宮に茶菓子の入ったバスケットを手にやってきたシエルだったが、尋常じゃない空気に包まれており目を瞬かせる。監督生はブルーアーとグリーンヒル、そして寮弟のクレイトンと、レドモンドの姿はないがモーリスがいた。モーリスは背を向けているが、ブルーアー、グリーンヒル、クレイトンはシエルを睨んでいた。



「2時間も遅刻するとはどういうことだファントムハイヴ!!」

「えぇ!?ぼっ…僕は4時と伺って…」



こっそりと、モーリスが口元に笑みを浮かべたが、振り向くと素知らぬ顔で言った。



「え〜?僕ちゃんと伝えましたよ?2時にって!」

「(!!そういうことか…コイツ!!)」



ハメられたとシエルも気づいた。



「この期におよんで言い訳とは見苦しいぞシエル!」

「エドワード!?」



柱の陰から出てきたエドワードに、シエルは目を見張った。



「(この学校にいることは知っていたが…監督生の寮弟だったのか!)」

「少しでもお前を信じた俺が馬鹿だった…!」

「え…?」



ギリ…とエドワードは拳を握りしめ、あまりの力にその拳は…身体は、小刻みに震えていた。



「お前は…っ俺のみならず先輩方の期待をも裏切った!出ていけ!」



後ろで、モーリスはうまくいったことに笑みを浮かべていた。



『……』



離れた場所から見ていたダリアはモーリスの企みと起こった出来事に絶句していた。













「『くそっ!!やられた!!』」



バスケットをシエルは床に叩きつけるように投げ落とす。



「これだから口約束は嫌なんだ!!」

『書面でよこしなさいよ!!』

「おやおや坊ちゃん、相手が学生と思って油断なさいましたね。お嬢様も何かしら感づいていながらもまんまと騙されてしまって」



うがああああっっと怒り心頭な二人にセバスチャンはのどを鳴らして笑う。



「ヒトは秀でた他人を妬むもの…ご経験がないわけではないでしょうに」

「『ーーーー〜〜〜〜っ』」



バカにしたような顔に何か言ってやりたいが何も言えない。



「エドワード様には弁明を?」

「あいつみたいなタイプにはするだけ無駄だ」

『シエルがすっぽかしたことは事実だしね』

「ではこのまま泣き寝入りなさるので?」

「『まさか!!』」



白々しく問いかけたセバスチャンにはっきりと否定する。



「僕は必ず監督生に取り入ってみせる。そしてキッチリ借りも返す!」

『ファントムハイヴの者に労力の無駄遣いさせたこと、後悔させてやるわ』

「『モーリス・コール!』」



悔しそうな素振りはもう見せておらず、何かを企んでいるような怪しい笑みを浮かべていた。





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