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「#学園」のBL小説を読む
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「とっ、とにかく!!他寮のことには首突っ込まない方がいいって!紫黒の狼寮は特にね」

「!?それはどういう」

「マクミラン!寮弟の時間だ」

「ハイッ」



気になる単語に詳しく問いただそうとしたが、呼ばれたマクミランは立ち上がると走り出した。



「僕の先輩だ!じゃあねファントムハイヴ」

「(何だあのポーズは…)」



ペカッ☆という効果音がピッタリな、顔横に手を翳すというポーズを輝かしい笑顔でして行ったマクミランに、しばし呆然。



「(ーーーーそれにしても、デリックの配属寮が変わっただと?これは絶対何かあるな)」



なんて思考に耽っていた時だった。



「ファントムハイヴ!!」



ーーーービクーッ!!



「クレイトン先輩」



いきなりの声に飛び跳ねそうになりながらも振り向くと、そこにいたのはクレイトンだった。



「お前は担当上級生が決まるまで食堂掃除だ」

「えっ…食堂って…」



と、振り向き食堂を見渡す。



「ここ全部…ですか?」

「そうだ!」



軽くパンくずが零れたテーブルにはずらりと何枚もの食器。床には分厚い本が何冊も重ねられている。ちなみに本棚は二階。



「手を抜くなよ」



ピッ、と人差し指をつきつけて、マクミランは食堂を去り、シエルは憂鬱そうにため息をする。だがまあ、大人しくシエルが自らこの食堂を一人で掃除なんてするワケがなく、シエルは眼帯に指をかけた。




「セバスチャン」



ーーーーストッ…



「ここに」



瞬きのうちに、セバスチャンはシエルのもとに現れた。



「デリックが寮を異動したらしいが…」

「名簿を確認しましたところ、確かに紫黒の狐寮にお名前が」

「今なら寮にいるハズだ。僕が行くからお前はココを片付けておけ」

「かしこまりました」



走り出そうとしたシエルだったが、ふと足を止めた。



「ダリアの方はどうだ?」

「お嬢様の方でしたら、それはそれは頑張っていらっしゃいますよ」

「………」



素晴らしい笑顔のセバスチャンにシエルは何とも言えないまま食堂を去ったのだった。



「さて」



パンッ、と柏手を打つと、セバスチャンは着ていたコートを取り払った。



「やりますか!」






【紫黒の狼寮(通称 紫寮)】



「……凄い外観だな…」



食堂掃除をセバスチャンに任せ、早速紫黒の狼寮にやってきたシエルは、その異質な寮に圧倒されていた。なんだか外観のせいか空気が重苦しい気までしてくる。



「(さすが一芸に秀でた生徒(変わり者)≠フ寮…)」



烏がギャアギャアと鳴いているのを横目に数秒眺めて、門をくぐると寮へと続く階段を歩き始めた。



「?」



ら、何やらヒソヒソ話し声が聞こえてきた。



「!?」



何かと思い半分も行かないところで足を止めたシエルは周りを見てぎょっとした。右にも左にも、紫黒の狼寮の生徒がシエルを囲むようにいたのだ。



「よそ者だ」

「よそ者…」

「あの紋章は青寮…」



ーーーーい…いつの間に!?



「オイオイ。ガリ勉寮の奴が紫寮になんの用だ?」



ハッとシエルは階段を見上げた。



「ココは勉強しかできねー奴が来ていい所じゃないぜェっ?」



そこには、髪型もメイクも独特な、紫黒の狼寮にピッタリな生徒がいた。



「そうだ…出て行け…」

「出てけ」

「他寮の奴は出て行け!」

「出てけ!」

「痛っ」



いきなり投げつけられた小石がシエルの頭に命中。



「出てけ!」

「紫寮から出ていけ!!」

「出てけ!」

「出てけ!!」

「うっ、うわっ!?」



次々と周りから小石を投げつけられ、たまらずシエルは紫黒の狼寮に背を向けて階段を駆け下りた。



「次は頭を守るぶ厚い辞書でも持って来るんだな、ガリ勉野郎!ヒャッハハハハハ」



階段上にいた生徒は親指を下に向けると笑い声をあげて逃げ帰るシエルを見送った。



「なんなんだ一体!!」



シエルの方は様々な、だがどれも一様に不気味な笑い声を耳にしながら寮へと帰ったのだった。



「何騒いでるの?」



あ、とあの生徒は振り向いた。



「バイオレット先輩」



寮から騒ぎを聞きつけ、バイオレットがやってきた。



「ガリ勉寮の奴が来たんスよ」

「ンン?」



腰を曲げて目を凝らすようにしていたバイオレットは姿を認めるとピクッと眉をはねた。



「新入りか…」



それから寮に戻ったシエルは門前で走りっぱなしだった足を止めて一息つく。



「(えらい目に遭った…)」

『ファントムハイヴ君?』



あ、とシエルは顔を上げた。



「ダリア!」

『ちょっと!』



慌てて人差し指を口元にたてたダリアにシエルは口を閉じた。互いにきょろきょろと辺りを見渡し、誰もいないのを確認する。



「…で、あいつの下で働くのはどうですか?シスター・アンジェ」

『神の下で働く身ですもの。どんな方とも上辺ぐらいは良い付き合いをしなくては』

「よほど嫌なんだな」

『当たり前よ、あいつの下でシスターとして働くなんて反吐が出る』



イラッと青筋浮かせたダリアは疲れ切ったように頭に手をやる。



『シスターなんて面倒よ。祈りなんて無縁な私がすることになるなんて、思いもしなかったわ』

「いい経験になったじゃないか」



からかうように笑えばダリアは軽く睨み舌打ちするが、すぐに顔を戻した。



『それで?セバスチャンを呼んだって事は、早速デリック・アーデンに会いに行ったんでしょう』

「無駄足に終わったがな」

『そのようね。その様子だと』



ボロボロのシエルにため息。



「他寮生への敵対心は思っていた以上だな。校長はおろか、デリックにすらすんなり会えないとは…」

『紫寮のシスターに話を聞いたけれど、何せ生徒が多いから全員を把握してないそうよ』

「シスターのお前が紫寮に行くのは?」

『さすがにボロボロにはならないでしょうけど、あまりいい顔はされないだろうし、目立って何かしらの噂になるわ』



シスターも他寮の事にはあまり干渉しないそうだ。



『やっぱりシエルが一番ね。調べるのに最適なのは』



残念そうに舌打ちしたシエルは考える。



「この学園では爵位も金も通用しない。一般生徒でいる限り、情報収集すら難儀する」

『ーーーーとなれば、事件の核心に迫る方法は一つ』



ーーーー学園内の特権階級(プリーフェクト・フォー)≠ノ取り入るしかない!!



「『(でも、どうやって?)』」



その問題に行き着き、考え込みながら寮内に入ると何やら食堂の入口が人で溢れかえっていた。



「『?』」



ひょっこり人の隙間から覗こうとしたシエルの姿を見つけたクレイトン。



「ファントムハイヴ!!」

「ハイッ!?(マズイ!サボリがばれた!?)」



いきなり詰め寄り両肩を掴んだクレイトンにシエルもダリアも身を堅くした。



「僕は気軽に人を誉めない主義だ。しかし」



大真面目な顔で、クレイトンはピッと人差し指を立てた。



「今日だけはお前を褒めてやってもいい!」

「は?」



何がなんだかで間抜けな声がでる。とりあえず、食堂の中を見た。



「『!!』」



なんと、食堂は朝食の時間とは打って変わり、光り輝くように綺麗になっていた。まるで改装工事でもしたのかと思うくらいで、テーブルセットもきちんとされていた。



『こ、これは一体…』

「ファントムハイヴですよシスター・アンジェ!」

『シ…ファントムハイヴ君が!?』



ぎょっとしていたダリアだったが、恐らくセバスチャンだろうと合点がいく。シエルはそう考えるダリアに小さく微妙な顔で頷いた。



「古い…いや、伝統ある我が寮の食堂が見違えるようだ!!やるなファントムハイヴ」

「いえ、それ程でも…(あいつ〜ッやり過ぎだ!!)」



「あっ」とクレイトンは現れた影に顔を上げた。



「ミカエリス先生!」

「どうしました?」

「ご覧くださいこの食堂を!ファントムハイヴが片付けたんです!」

「それはそれは…」



得意気にシエルの肩を叩くクレイトンだが、シエルは疲れきった顔をしていた。



「お疲れ様ですファントムハイヴ君」

「先生こそ」



ニコ、と白々しく笑ったセバスチャンに「(余計なことを…)」と内心毒つく。が、ある考えに行き当たった。



「(確かアイツはブルーアーの寮弟…これは使えるぞ)」



監督生に近づくには、まずこいつからだ!!



「喜んでもらえて嬉しいです!!実は僕、家事とかスッゴク得意なんですよ」



額に手のひらを翳すようにつけ、輝かしい笑顔を浮かべたシエルは弾んだ声で告げた。



「用事があればな〜んでも言いつけてくださいね。クレイトン先輩!」



効果音をつけるとしたら、まさにペカッ☆…それに、ダリアはドン引きしながら何なんだあれは、と眺めていた。





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