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その執事、徒労





「これはまずい事になりましたね坊ちゃん、お嬢様」

「『まずいで済むか!!』」



二人そろって即座に言う。



「一匹ですら厄介な化け物だぞ。それが…」



二人は周りに積み上がるソレらを見る。



「この…10倍だと!?」



考えたくもない数だった。



「ーーーーじゃあ今頃船内は…」

「おそらくあいつらが大量に徘徊している」

「そんな…」

『エリザベス』



震えるエリザベスの肩をダリアは少しでも安心させようと抱く。



「セバスチャン。お前は先に行って叔母様達を安全な所へ」

「坊ちゃん達は?」

『私達は足手まといになるわ。銃もあるししばらくは大丈夫よ』



言いながら二人は新しく弾を装着する。



「安全を確保したらすぐ戻れ!」

「御意」



返事を返しながらセバスチャンは素早くその場を去っていった。それを見届けて「さて」とシエルは蛇に拘束されているリアンに銃口を向ける。



「話を聞かせてもらおうか?」

『ただし手短にね。私達は気が長い方じゃないわ』

「まず奴らをなんとかする方法は?」

「え?」

「こんな危険性が高いものをなんの保険もなしに輸送するはずがない。頭部の破壊以外にも、止める方法があるんじゃないのか?」

「……あ、あるにはあるが…」

『どんな?』

「完全救済をした患者に特別な超音波をあてることによって、再び活動を停止させられる装置があるんだ」

「それはどこにある?」

「……一等の私の部屋に」

「案内しろ」

「わ、わかった!」



銃口を押さえつけられ慌ててリアンは頷く。



「この奥のボイラー室の貨物用エレベーターで上まで行ける。それを使おう」



リアンを先頭にシエル達はボイラー室へと向かう。



「次の質問だ。何故死体が動く?」

「死亡した人間の脳に微弱な電流を発生させる特殊な装置を埋め込む手術をし、その装置から脳の各部位に信号を送ることによって再び死亡する前の健康な身体を取り戻すという「『もういい』」



理解できないし長くなりそうな話だったので二人はさっさと終わらせる。



「本当にそんなことで人間が蘇生するのか?」

『まあ、実際に蘇生…とは言えないけど、動いてはいるわよね』

「質問を変える。大量の被験体をアメリカに運ぶ目的はなんだ?」

「それは…言えない」

「なるほど」



シエルはリアンの耳に銃口を押し当てる。



「大きめのピアスを開けたいようだな?」

「ひ…っ!?待て待て!私を撃てば例の装置が使えなくなるぞ!?」

『仕方ないわ。面倒だけど、奴らは頭を潰して駆除しましょう』

「そうだな」



グ…とシエルは引き金にかけた指に力を入れる。



「あっ、ある企業に完全救済の技術を買われたんだ!!」



降参してリアンは慌てて大声で言った。



「ある企業?」

「ああ…なんでも新薬開発をしてるらしいオシリス≠ニいう会社だ」



リアンの話に二人は視線を交わらせる。



『(取引用のダミー会社でしょうね)』

「(陸地に着いたら調べ上げるとしよう。それに、女王に害をなさなければ、僕らにとっては関係のない話だ)」

『(それもそうね)』

「この中だ」



立ち止まったリアンの前を見ると、そこには鉄製の扉が。開けると同時に一瞬熱を持った突風が吹き抜けた。



「スネーク、リアンの蛇を外せ。仲間を装った方がスムーズだ」

「わかった。ってウェブスターが言ってる」






【カンパニア号・タービンエンジン室】



「すごい音〜っ」



機械音が部屋に大きく反響する。するとそこに整備士らしき男が近づいてきた。



「おい!ここは客が来る所じゃねーぞ!!」



その男にすぐさまリアンは言った。



「“完全なる胸の炎は!”」

「!“何者にも消せやしない…我ら…”」



“不死鳥!!”



「同志よ、例のエレベーターを使わせてほしい」

「わかりました…後ろの方は?」



呆れていたシエルとダリアはまさか、と顔をひきつらせる。



「彼らも学会の同志だ!さぁ、君らも!」



断ることなんてできなかった。



「「「『ふ…不死鳥!!』」」」



四人そろってあのポーズ。二度としないと誓ったのに…とシエルとダリアは顔を真っ赤にさせる。そんな二人をエリザベスとスネークはどうしたのかと心配する。



「この奥です!」















【カンパニア号・エレベーターホール】



「くっ…」



背後に他の乗船者を庇いながら、フランシスは剣を握りソレらと向き合っていた。



「はッ」



胸に剣を突き刺したフランシスだったが、ソレは倒れることなくまだ動く。



「な…何っ!?」

「侯爵夫人!!」



声と共に現れたセバスチャンはソレの頭を潰して着地する。



「お怪我はございませんか?」

「執事!!」



セバスチャンとフランシスは背中合わせに立つ。



「奴らは何者だ!?」

「詳しくは…ただ彼らを倒す方法は一つ。頭部の破壊のみ!!」



襲いかかってきたソレらを二人はそれぞれ頭を破壊して倒す。



「ふん」



動かなくなったソレからフランシスはセバスチャンに視線を向ける。



「話は本当のようだな。これに免じて今日のところはそのふしだらな顔と髪型を許そう」

「ありがとうございます(顔…?)」

「フランシス無事か!?」

「あなた!」



曲がり角からアレクシスとエドワードがやってきた。



「執事!!リジーとダリアはどうした!?」

「お二人共に坊ちゃんとご一緒です。三人共ご無事でいらっしゃいます」



その言葉にミッドフォード夫妻は安心したように笑いあう。



「三人一緒なら心配ないな」

「ええ。あの子は必ず姉と婚約者を守り抜く」



フランシスの顔には不安も心配も微塵もなかった。



「必ず…と仰っていました。私は主達のご命令で皆様を安全な場所へご案内するよう「それはできん」



遮って言ったエドワードに「えっ」とセバスチャンは不思議そうにする。



「我がミッドフォード侯爵家は、代々英国を守護せし騎士の一族。民の危機を見過ごすことなど騎士道に反する」

「我ら英国騎士、弱者を守る盾であれ」



剣を構えた二人はキラキラと期待に満ちた顔でフランシスに顔を振り向かせる。



「「ーーーーだろっ?フランシス!/母さん!」」

「うむ!!」



フランシスは満足そうに頷く。



「お前はさっさとあいつらの所へ戻れ」

「しかし…」

「私達の剣の腕が信用できないと?」

「……分かりました」



あまり納得はしていないが、これ以上言っても時間の無駄にしかならないだろうとセバスチャンが折れた。



「どうぞご無事で」

「シエルに伝えておけ!妹とダリアに何かあったら許さんと!」

「承知致しました」



一礼してセバスチャンは踵を返して走り出した。





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