【カンパニア号・一等旅客用喫煙室】
「こいつは一体…」
「心臓に命中したはずですが…」
『じゃあどうして動いてるのよっ!』
「私には解りかねる存在です」
三人の前には母親と自身の血にまみれながらこちらに手を伸ばす変わり果てたマーガレット。最早ゾンビのような感じだった。
「暁学会の死者蘇生はただのオカルトじゃない=B劉の話がまさか本当だったとはな」
『いつもいい加減だから半信半疑だったけど』
「くそっ…失敗か!」
マーガレットの様子にリアンは悔しそうに言うと部下に指示を出す。
「何をボサっとしてる!早く仕留めろ」
「「不死鳥!!」」
そのポーズ必要!?すぐさま(ポーズの時間を抜いて)銃でマーガレットに攻撃を仕掛ける。が、いくら銃弾を浴びようがマーガレットは倒れることなく二人に近づき、弾切れとなった男に襲いかかった。
「ぎゃあああああ」
「くっ…この役立たず共め!!」
「『!!』」
リアンは部屋を出て行ってしまった。
「待て…」
「坊ちゃん!」
「『!』」
リアンを追いかけようとしたシエルをセバスチャンが止めた時、男に食らいついていたマーガレットがこちらを向いた。
「一体アレはどう始末すればいいんだ!?」
『心臓にも頭にもどこにも効かないわよ!?』
「とりあえず動けないように解体してしまえばよろしいのでは?」
と、セバスチャンが再びナイフを構えた時だった。
「コイツらは頭潰さなきゃ殺せないよ」
「「『!?』」」
突如聞こえた声に誰かと驚いていると、こちらに向かっていたマーガレットに襲いかかる青年の姿が。
「こーんな風に」
言うや男は振り上げていた武器でマーガレットの頭を潰した。
「要領よくヤんないとね」
マーガレットは床に倒れ、今度こそ動かなくなった。
「貴方はーーーー」
「って、あーー!!やっぱコイツちゃんと死んでんじゃん!!だからちゃんと回収したって言ったのに〜」
何やら手帳を見ながら「マジありえねーー」と喚いている男。
「何者だ?」
『あの死体を倒した…』
「お二人もよくご存知のはずですよ」
どうやらセバスチャンには正体がわかっているようだ。
「こっちはちゃんとあるな」
ヒョイッ、と先程使った芝刈り機のような武器に乗ったまま棺が置かれた台に飛び乗る。
「よいしょっと」
機械を動かし男は死んでしまっているマーガレットの母親に振るった。
「シェザン・コナー、1841年7月23日生まれ」
直後現れるのはシネマティックレコード。
「1889年4月19日、出血多量によるショックにより死亡。備考ーーーー特になし」
「審査完了」と男は手帳に判子を。そこで二人ははっと気づいた。
『貴方もしかして…!』
「死神か…!?」
「ん?」と男はこちらを見る。
「その格好、もしやあんたが噂のセバスちゃん=H」
「その呼び方は非常に不本意ですが、いかにも私がファントムハイヴ家執事、セバスチャン・ミカエリスです。貴方は?」
「死神派遣協会回収課、ロナルド・ノックス。ウチの先輩がお世話んなってマース」
「先程頭を潰さなければ殺せない≠ニ仰っていましたが、死神(あなたがた)は死者が蘇る件について何かご存知なのですか?」
「いや、俺ら的にも詳しいことは何も」
「ただ…」とロナルドは続ける。
「魂を回収したはずの死体(ぬけがら)が活動してるって報告があって、管理課から回収課(オレら)のミス扱いでクレーム入れられたもんだから、こうして調査しに来たんだけど」
ロナルドはマーガレットに視線を向ける。
「やっぱり魂なんて入ってない、正真正銘の死体だよコレ。だって、マーガレット・コナーの魂は2週間前、俺が確実に狩ったんだから」
「死者が蘇ったのではない。死体が動いているだけというわけか…」
『魂が入っていない肉体が動くなんてありえるの?』
「上≠烽サんなことありえないって言うんだけど、実際こうやって動いちゃってるワケで、死神派遣協会的にも調査中ってワケ」
「つまり明らかになっている情報は殺すなら頭を潰せ≠ニいう事のみ…」
「正確には殺す≠カゃなくて動きを止める≠セけどね」
『じゃあ結局はわかってないってことね』
「やはりリアンに吐かせるしかないようだな。行くぞ!!」
三人が走り出した時だった。
ーーーーギャバババ.
「「『!?』」」
ーーーーガキッ.
背後でデスサイズが動き出す音がしたかと思うと、ロナルドがデスサイズを振り下ろしてきた。
「悪魔が乗船してたって管理課にばれたら、「害獣に魂を横取りされた事実を隠蔽しているのでは?」なんてイチャモンつけられてメンドーなことになりそージャン?」
デスサイズを止めるセバスチャンにロナルドは言う。
「そんで残業とかマジ勘弁なんで、ここで消えてくんない?」
「チッ」と二人はリアンが出て行った扉を見ると走り出した。
「僕らは先に行く!少し遊んでやったらさっさと来い!」
『くれぐれも遊びすぎたりしないでよ!』
「御意」
「うーわっ。カンジ悪ッ、イマドキの子供ってかんじ〜。あの女の子可愛かったのに」
「…よそ見をしていてよろしいのですか?」
目を細めるとセバスチャンは足を振り上げた。
「っと!」
*
「逃げ足の早い」
『それにしてもどこに行くのかしら』
シエルとダリアはリアンを追って下の階に下りてきていた。二人はそれぞれ銃を取り出すとそれを手に角まで動く。
ーーーーぬうっ.
「『うわっ』」
「きゃあっ!?」
背後から手を伸ばされた気配を感じて驚き銃を向けると、そこにいたのは思いもしなかった人物。
「『リジー!?』」
片手にケーキののったお皿を持つエリザベスは驚いていたがすぐにむう、と顔をしかめる。
「もうっ、二人して婚約者を撃つ気〜!?」
「そんなことより何故ここに!?」
「走ってるの見えたから追いかけてきちゃった」
『きちゃったって…』
「だってシエルったら待っててって言ったのに急にいなくなるんだもの。探したんだからね!」
唇を尖らせていたエリザベスはあ、とダリアを見る。
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