「おっと君達!始まるよ」
肩を抱いてきたドルイットに三人はえ、一緒にいるの?と不意を付かれた。その時扉が開き、四人の男達が棺を抱えてきた。その後ろから白衣を着た男が。
「彼が創立者のリアン・ストーカーさ」
「あれが…」
手を振っていたリアンは手を振るのを止めると少しの沈黙の後静かに口を開いた。
「完全なる胸の炎は、何者にも消せやしない。我ら…
不死鳥!!!」会場内で何人かのその声を聞いていたが、一番の気合いの入りようのかけ声だった。
「皆さん!本日は暁学会「医学による人類の完全救済」研究発表会にお集まり頂きありがとうございます。完全なる救済とは何か?それは…完全なる健康です!!」
一礼したリアンは元気よく言う。
「健康な肉体・健康な歯・健康な肉体に宿る健康な精神、そして健康な天気。健康は実に素晴らしい!!」
元気っていうか暑苦しいような感じのリアンの力説にシエル、ダリア、セバスチャンはついて行けずうへえ…とドン引き。
「しかし我々にはどんなに努力しても克服できない最大の不健康がある。それは何か?」
リアンは運ばれてきていた棺に手をおく。
「死です!」
「「『!』」」
適当に聞いていた三人は顔を引き締めリアンの話を聞く。
「我々をその厄災から救ってくれる素晴らしい力…それこそが、暁学会の医学なのです」
するとまた扉が開かれ男達と黒服に身を包んだ夫婦がやってきた。
「これから皆さんに我々の研究成果。「医学による人類の完全救済」をご覧入れましょう」
棺が男達により開けられ、中には目隠しをされた女性が横たわっていた。
「マーガレット・コナー17歳。彼女は不運な事故で若くして命を落としました。実に痛ましい。あってはならない事故です」
マーガレットの皮膚には所々に痛々しい傷を縫い合わせた痕がいくつもあった。
「彼女の死は彼女だけでなく、ご家族の心まで不健康にした。私は彼女達を完全救済してさしあげたい!」
先程一緒に入ってきた夫婦はどうやら両親だったようで、棺の傍らで涙していた。
「死体は本物か?」
周りに聞こえないように小声でセバスチャンに問う。
「おそらく」
すん、とセバスチャンは匂いを嗅ぐ。
「鼻が曲がりそうな、馨しい死臭が致します」
その間に部下らしき白衣を着た男達がマーガレットの体に装置からのびた吸盤をつけていく。
「では皆さんにお見せしましょう!医学の力を!」
三人の後ろでドルイットはドキドキと楽しみそうに見つめている。
「完全救済を!!」
リアンが機械のスイッチをいれると凄まじい電流が流れた。
「さあ蘇れ!不死鳥のごとく!!」
直後、ゆっくりと棺の中から手が出て、マーガレットの体が起き上がった。
「ご覧ください!我々の医学は死をも克服できるのです!!」
死者が蘇った。観客達はもちろんまさかのことにざわめきだつ。
「マギー!ああマギー!!」
「先生ありがとうございます!!」
母親は感激しながら娘に抱きつく。
「これが「完全救済」です」
ワッと会場内は拍手喝采。
「一体どういうことだ。本当に死人が蘇るだと!?」
『信じられないわ…』
考えていたセバスチャンは異変に気づいた。その異変は、今まさに生き返ったマーガレットによるものだった。
「あなたさえ生きていてくれたらお母さーーーー」
ーーーーゴリッ!!「きゃあああっ!?」
皮膚を切り裂き骨に噛みつく音が拍手をものともせず会場内に響いた。それと一緒に響いたのは母親の悲鳴。
「マッ、マギー!?」
蘇ったマーガレットは母親の首に獣のごとく噛みついたのだ。
「どうし…痛ッーーーー」
断末魔と共に骨が折れていく音。あまりの光景に立ちすくんでいた者達は一斉に走り出した。
「『セバスチャン!』」
「御意、ご主人様!」
変装をとき、セバスチャンはどこからともなくナイフを構えマーガレットに向かって投げた。見事にそれは命中。
「やったか?」
「お下がり下さい」
少しばかり気を緩めていた二人は信じがたい光景に目を見張った。
「あ゛、あ゛う゛う゛う゛う゛」
「なっ…!?こいつは一体…」
「心臓に命中したはずですが」
『じゃあ…どうして!?』
ダリアは声を荒げる。
『なんであいつは動いているのよっ!』
セバスチャンは化け物同然のマーガレットを見据えたまま言った。
「私には解りかねる存在です」
その存在は、船上を地獄へと変えるーーーー。
next.
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