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その日は雨だった。灰色の重たい雲が広がる空から、大粒の雨が降っている。そんな日に沖田クンはやってきたのだが、告げられたのは道信の事。


「あ〜嫌な雨だ」


ソファに座る私らに背を向け、窓を眺めながら銀ちゃんが言う。


「何もこんな日に、そんな湿っぽい話持ち込んでこなくてもいいじゃねーか…」
「そいつァすまねェ。一応知らせとかねーとと思いましてね」
「ゴメン銀ちゃん、架珠」


向かいのソファの上で体育座りしたまま神楽が言い、続けて新八が口を開いた。


「僕らが最後まで見届けていれば…」
『アンタらのせいじゃないよ』
「野郎も人斬りだ。自分でもロクな死に方できねーのくらい、覚悟していたさ」


二人には道信を見張らせていたから、その分落ち込み度はハンパない。


『…ガキ達は?』
「ウチらの手で引き取り先探しまさァ。情けねェ話ですが、俺たちにはそれぐらいしかできねーんでね」


言いながら沖田クンは立ち上がる。


「旦那ァ、お嬢、妙なモンに巻き込んじまってすいませんでした。この話はこれっきりにしやしょーや。これ以上関わってもロクなことなさそーですし」


と、その時扉が開かれた。


「!テメーら、ココには来るなって言ったろィ?」


こいつら…道信のところのガキ達。


「…に、兄ちゃん。兄ちゃんに頼めば何でもしてくれるんだよね。何でもしてくれる万事屋なんだよね?」
「お願い!先生の敵、討ってよォ!」


泣きながら言うガキ達に私らが口を開けずにいると、銀ちゃんの前に一人のガキがシールを差し出した。


「コレ…僕の宝物なんだ」
「お金はないけど…みんなの宝物あげるから」
「だからお願い、お兄ちゃん」


風呂敷の中から出てきた、たくさんのガキ達の遊び道具。周りから見たらガラクタでも、コイツらからしたら、大切な思い出なんだろうに。


「いい加減にしろお前ら。もう帰りな」
「…僕、知ってるよ。先生…僕たちの知らないところで悪いことやってたんだろ?だから死んじゃったんだよね」
「でもね、僕たちにとっては大好きな父ちゃん…立派な父ちゃんだったんだよ…」


涙を流すガキ達に、道信がどれだけ慕われていたのか、どれだけ大好きだったのか、どれだけ必要な存在だったのか伝わった。


「オイ、ガキ!」
「!」


急に声出さないでよ銀ちゃん。びっくりした…。


「コレ、今はやりのドッキリマンシールじゃねーか?」
「そーだよ。レアモノだよ」


すると銀ちゃんは風呂敷の中身を見ていたかと思うと、お、とこちらを見た。


「おい架珠、お前これ集めてなかったか?」
『は?』


見せられたのは女の子に人気のキュアプリのキラキラしたカード。そんなもん集めてないけど…。


『うっわラッキー!これ幻のカードじゃん。誰の?』
「私のだよ」
「兄ちゃんも姉ちゃんも、何で知ってるの?」
「何でってオメー、俺もコイツも集めてんだ…ドッキリマンシール」
『私はキュアプリカードね』


シールとカードを手にガキ達に笑う。


「コイツのためなら何でもやるぜ」
『後で返せって言ってもおそいからね』
「兄ちゃん!姉ちゃん!」


面食らう一同と違い、ガキ達は笑顔を見せた。カードは懐にしまって歩き出す。


「ちょっ…旦那」
「銀ちゃん、架珠、本気アルか」
「酔狂な野郎だとは思っていたが、ここまでくるとバカだな」
「『!』」
「小物が一人二人はむかったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ…死ぬぜ」


ちょ、いつの間に多串君いたのさ。


「オイオイ何だ、どいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって。テメーらにゃ迷惑かけねーよ、どけ」
「別にテメーらが死のうが構わんが、ただ、げせねー。わざわざ死にに行くってのか?」
「行かなくても俺ァ、死ぬんだよ」


多串君と向かい合って銀ちゃんは言う。


「俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ。そいつァ見えねーが、確かに俺のどタマから股間をまっすぐブチ抜いて、俺の中に存在する。そいつがあるから俺ぁまっすぐ立っていられる、フラフラしてもまっすぐ歩いていける。ここで立ち止まったら、そいつが折れちまうのさ」


そこまで言って銀ちゃんはまた歩き出した。


「魂が、折れちまうんだよ」


ふ、と思わず自分も笑ってしまい、銀ちゃんに続いて歩き出す。


『心臓が止まるなんてことより、そっちの方が一大事でね。それは老いぼれて腰が曲がっても、まっすぐじゃなきゃいかないのよ』
「そういうこった」


さて、鬼退治といきますか。



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