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男ならとりあえずカジキ!




ーーーーピチッピッチ.


「うわっ!またコイツだ。やっぱ天人が来てから地球の生態系もおかしくなってますね」


釣りに来て新八がやっと釣った魚は食欲をとてもじゃないけど掻き立てないものだ。


「いいからバケツ入れとけ」
「はぁ!?コイツも食べる気なの!?」
「あたりめーだろ。鮟鱇然り、納豆然り。見た目がグロいもん程食ったらうめーんだよ」
『鮟鱇も納豆もコイツ程グロくないけど』
「お前ね、どんな不細工にもイイ所の一つや二つあるもんだ」
「銀ちゃん!コレ、スゴイの釣れたアル。見て見て」
「?」


今まで静かに釣りに没頭していた神楽のはしゃぐ声に何を釣ったのかと確認する。


「いだだだだだだだだだだだた!!アレ?痛くないかも?あ゛っ!!やっぱ痛い!!いだだだだだだ!!」
「ねェねェ、これも食べれるアルか?」


………………河童だ。

――――ドゲシ.


「あぱァ!!」


ーーーードボン.

次の瞬間、私と銀ちゃんは神楽が釣った物体を蹴り飛ばし湖にリバース。


「あ゛あ゛あ゛あ゛夕食ぅぅ!!」
『ふざけんな、あんなの夕食なんかじゃない』
「今見たことは忘れろ、いいな…」
「…銀さん、今の河童じゃありませんでした?」
「んなもんいるわけねーだろ」
『どう見ても人だったって』
「そうそう。アレだよ、池に住んでるただのハゲたオッさんさ」
「池に住んでる時点でただのオッさんじゃねーよ。それになんか緑色でしたよ」
「それはアレだよ……アルコール依存症」
「アルコールにそんな成分あったら酒なんて誰も飲まんわ!!ん?」


ん?


「てんめーら眼鏡割れちゃったじゃねーかコノヤロー。親に電話しろォォォ!!弁償してもらうからなァァ!!」


新八の足にしがみつくさっきの河童。もちろんそれを見た私らは考える間も無くダッシュ。


「ぎゃあああああ!!出たァァァ!!あ゛あ゛あ゛!!待てェェお前ら!!」


新八お前の犠牲は忘れない!!


「逃がさん住所と名前を言え!!」


ーーーードシャ.


「「『むごォォォ!!』」」


河童の長い舌に足をとられ、呆気なく私らは捕まった。


「オッさんだってなァ、最初から謝れば怒んないよそんなに。悪いことしたら謝るのが筋だろ。違うか?ん?」


捕まった私らは河童のオッさんの前で四人揃って正座。端から見れば異様な光景だろーな。


「なんで逃げた」
「…いや、河童だったから」


おォ、銀ちゃんが言った。


「河童ァ?なんじゃそりゃ、訳のわからんことを言ってごまかそーとするな」
「おめーが一番訳わかんねーんだヨ」
『ホントホント』
「オッさんのどこが訳わかんねーんだ!!この小娘共ォ!!それからお前じゃなくて海老名さんと呼べェ!!」
「スンマセンでした海老名さん。あの、僕の眼鏡も割りますんで勘弁してください…」
「よ〜しよく謝ったなボク。ごほうびにほら、ビスケットだ」
「ありがた迷惑だよチクショー」


謝った新八に与えられたビスケットは水の中にいたからかふやけており、ビチャッとイヤな音をたてて新八の手に。気持ち悪〜。


「まァ、割れたのが眼鏡の方で良かったよ。これでお前、もし皿が割れてたら、流石のオッさんもキレてたね。お前ら全員ボコボコだったよ」


パンパンと拳を掌に打ちつけるオッさん。マジウゼーと私と銀ちゃんは話し合う。


「いいか。俺の皿だけは、この皿だけは何人たりとも触れさせね…」
「!」


ーーーーガン.


「ぐはっ」
「「『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』」」
「皿割れたァァァァ!!」
『大変だァァァ!!皿割れたよ!!』
「何が大変なのかしらんけど!!」


言ってる傍から池の中に戻ろうとしたオッさんの皿が、とんできたゴルフバットで割れた。そのせいで池にプカーと浮かぶオッさんに私らは焦る。なぜか焦る。


「あ、ゴッメ〜ン。ゴルフの素振りしてたら手ェすべっちゃった〜」


何?


「だから早く出てけって言ったじゃ〜ん。ここはあんたの家じゃない。俺の土地なんだよ〜」


誰だこのオッさん達。


「この池もそこの草も土もぜ〜んぶ、俺が買いとったんだからさァ」
「やかましーわ」


あ、オッさん復活。


「こちとらなァ、てめーらが親父の金玉に入ってる頃からここに住んでんだ!!何で出てかなきゃならねェ!!っていうかあんまこっち見んな恥ずかしーから!!」


あれ、皿割れてちょっぴりシャイに?っていうか意味あんのかよあの皿…。

どうやらあのオッさん達はここら一帯にゴルフ場を作るらしく、それにはこの池が邪魔なんだと。


「アンタの住む池なら他に用意してやるから、ここからは出ていってくんない?」
「そうゆう問題じゃねーんだよ!!ここはなァ、俺だけの池じゃねーんだ。ここはアイツの…」


アイツ?


「なんかよくわかんないけど、これ以上俺の邪魔するならそれ相応の覚悟はしといてよ。どっからゴルフボール飛んでくるかわかんないよ…」





先程釣ったグロい魚を焼くついでに、オッさんの皿を直す私ら。


「オラ、直ったアルヨオッさん」


ーーーーバリン.


「アレ?今バリンっていわなかった?」
「気のせいですよ」


テープで皿をはっつけた上から神楽が叩いたせいでまた割れたけどごまかす。


「オッさんよォ、引っこしするってんなら手伝うぜ」
「よけいなお世話だバカヤロー」
『ね、そこまでここいるワケは何なのさ?さっきもアイツのとかなんとか言ってたし』
「……………アレ見ろ」


私らはオッさんの視線の先を見る。


「妙なもんが見えるだろ。ありゃ昔、俺が乗ってきた船だ」
「海老名さん、アナタ天人なんですか?」


河童じゃなかったのか。


「俺達の種族は、清い水がねーと生きられねー」


その昔、天変地異で水を失ったオッさんの星。新天地を求めてオッさんがたどりついたのがここ地球。


「だが、俺の姿は地球人にとっちゃ化け物以外の何者でもねェ。迫害され、俺は池に戻り孤独に生きるようになった」


まァ、昔は天人なんて珍種だったしね。まさかそれで河童伝説ができたとかないよね?


「人はよォ、他人の中にいる自分を感じて、初めて生きてる実感を得るんだ」
『ねェ銀ちゃん、マジで食うの?』
「何事にも挑戦心が大事だ」


いい感じに焼けたあのグロい魚を手に取った銀ちゃん。ちなみに私はそんなチャレンジャーではない。


「俺は生きる場所を得たが、死んでたも同然だったんだ。あいつに会うまではーーーー」



…そいつは、いつの間にか池のほとりにいたんだ。なーんにもせずに、ただずーっと池眺めてんだよいつも。俺も最初は隠れてたんだが、そのうちバカらしくなってな。

ーーーーお前、いつもそこで何やってんだ?

俺を見て娘は少し驚いた風だったが

ーーーー部屋にいても一人だからつまんなくて。どうせなら自然(ここ)で一人でいようと思ったんだけど…二人だったんだね。

娘は肺を患っていた。人に伝染る病だ。はれ物扱いされて部屋に隔離されていたところを忍んで出てきたのさ。



「誰でもいいから話し相手がほしかったのさ。俺もアイツもな」
「オ゛エ゛」
『やっぱマズいんじゃん』
「それからアイツと語る時間だけが、俺の生きる時間になった。たわいもない話しかしなかったが、楽しかったよ」



ーーーーおじさんはいいね。
ーーーーなにが?
ーーーーこんなキレイな水の中自由に泳げて。私、小さい頃から身体弱かったから、泳いだことなんてないんだ。一度でいいから、自由に泳いでみたいよ。透明な世界を…。
ーーーー……身体治しゃいい
ーーーー無理よ、もうずっとだもの
ーーーーバカヤロー、人生は長いんだぜ。オメーが身体治すまで、ここは俺が護っといてやるよ。キレーなままでな。だから、さっさと身体治してきな。
ーーーーわかった。約束だからねおじさん。
ーーーーおおよ。



話し終えたオッさんは、池の中へと帰って行った。でも私らはその場を離れなかった。


『…約束って言ったって、何年前の話なのさ』
「さあ、乗ってきた船があんなになるくらいですから、少なくとも、その娘さんはとっくに…」
「…粋狂にも程があるぜ。つきあいきれねーや」


とか言いつつ、私らは緑のスーツやら皿やらを用意していた。





「よーし準備いいな。じゃ、頼むわ」
「へーイ」
「クク…腐れ河童。俺ももう我慢の限界だよ。池ごと土の下に埋めちゃうもんね〜」
「でも、大丈夫なんですかね、河童のたたりとか」
「バカかお前は!河童なんているわけないだろ。ありゃただの天人だ」


いやいや、あながち河童はバカにできないよ。


『神楽』
「オウヨ」


声をかけると、神楽は工事中のオッさんのもとへ行き、素手で動きを止めた。


「私、三郎河童アル!おじさんキューリちょうだい」
「ぎゃあああああ!!」


ホント、夜兎って恐ろしいね。今は河童の格好してるけど。


「なにやってんだ野島の奴?」
「新八」
「ハイ」


木刀を持ってもう一人の男のもとへ。


「オイどーした?キャタピラに金玉でも巻きこまれたか、!!」
「二郎河童推参!!」
「ぎゃあああああ!!」
「なーにギャーギャー騒いでんの?キャタピラに金玉でも巻きこまれたか。小東!ちょっと見てこ…」


ーーーードシャ.

オッさんと一緒にいたチビ眼鏡を殴り倒した私。


「小東…、!!」


驚いていたオッさんの首に、背後から腕をまわした銀ちゃん。


「てめーらは…」
『蝦夷は洞爺湖から参上つかまつった河童4兄弟が次男、一郎河童!!』
「そしてその長男太郎河童!!この土地から今すぐ手ェ引いてもらおうか?さもなくば河童のたたりが…」
「かっ…勘弁してくれ。河童といえばなんだ?キューリか?好きなものを言え。俺は髪の毛はあまりないが、金だけはあるぞ!」
『好きなもの…だってよ』
「そーさな」


ゴキバキと折れない程度に首に絡めていた腕に力をいれていく銀ちゃん。あ、オッさん泡吹いて気絶したし。


「甘いものと、粋狂な奴かな…」





翌日、私と銀ちゃんはまた池へと釣りに。


「んだてめーら、また来てたのか」


池から顔を出したオッさん。


「よォ、きーたぜ。この土地売りに出されたらしーな」
『これでしばらく大丈夫じゃないの?』
「オゥ、なんか本物の河童が出たらしいぞ」
『ヘェ』
「そいつァ恐ェな」
「………ひょっとしてお前ら…」


ーーーーピチャ.


「!」
「おっ」
『わァ』


オッさんの隣で跳ねた小さな魚。池の淵に近づき覗き込んで見ると、自然と笑みがこぼれた。


『ヘェ〜。こんなキレーな魚、この池にいたんだ』
「ハハッ。楽しそーに泳いでらァ」


next.

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