考えたら人生ってオッさんになってからの方が長いじゃねーかっ!恐っ!!
『は?長谷川さんまた面接ダメだったの?』
「ああ、全滅だったと」
『やっぱグラサンのせいっしょ』
あーあ長谷川さん。一時のテンションに身を任せるから仕事クビになっちゃって。
「んで、俺の助言のおかげで、今長谷川さんは仕事を見つけたのよ」
『銀ちゃんの助言で?何の仕事なのさ』
「それは…ん?いたいた」
銀ちゃんは右手を挙げた。ゆっくりと停車したのは、タクシー。
「どこでもいいからよ〜、乗せてってくれや」
『へー、長谷川さんタクシーの運転手になったんだ』
てか、チャームポイントのグラサンがなくなっている。一瞬誰かと思ったよ。
「暇なんだよ〜タダでつれまわしてくれや」
「ふざけんなよテメー。こっちは仕事でやってんだよ!」
「いいだろお前。地平線の向こう側へ行ってみたいんだ」
「てめーは彼女かァァ!!」
『んで、仕事の方はどー?』
「てめーらが来るまで順調だったよ」
なんだと客に向かって。
「こないだは死人みてーなツラしてやがったが、ちったァマシなツラになったじゃねーか」
死人って、そんなになってたのか。
「ほざけよ。何も変わっちゃいねーよ。仕事変えたってだけで、目的も何もねェ。先なんて見えちゃいねーんだ……」
『そんなもんでしょみんな』
「地べたはいずりながら探してりゃ、そのうち見つかるさ」
「いや、違うよーな気がする。だってこのサイトで眼が濁ってんの、俺とお前らだけだもん」
失礼な。
「あ、客だ。もうお前ら降りろコノヤロー!」
ーーーーキイ.
「「『!』」」
ーーーーガタガタ!
「なんでアイツがいんだなんでアイツがいんだ!!」
手をあげていた人物は、なんといつぞやのバカ皇子。それを見た私らは慌ててしゃがみ込んだ。
「車出せ早く!!今すぐ!!」
『面倒事は御免だよ!!』
必死の形相で言っていた私らの後ろで、ドアが開く音がした。
「上野動物園まで頼むぞ!急いでくりゃれ」
てめっバカ、勝手に乗り込んでんじゃねェェ。
「ん、おぬしら三人どこぞで会ったかの〜」
げ。
「知りませんよ〜誰ですか〜アナタ。頭に卑猥なものつけちゃって」
「地球人なんてみんなしょうゆ顔ですからね、みんな」
『区別なんてつきゃしませんよ』
「そーか、それならいいんじゃが」
私ら三人は口すぼませて目を細めて言った。そのまま私と銀ちゃんは助手席のドアを開けた。
「じゃ、長谷川さん。僕そろばん塾あるんで」
『私ピアノ教室あるんで』
「『おつかれーっス』」
ーーーーガッ.ガッ.
「待てェェェェ!!一人にしないでくれェ!!オッさんを一人にしないでくれェェェェ!!オッさんはなァ、寂しいと死んじゃうんだ!!」
「『ハムスターかてめーは!!』」
その場を去ろうとした私らの手首を長谷川さんに掴まれ、私らは仕方なく同行する事に。後部座席に銀ちゃんが座り、助手席に私が座った。
「オイ、早く出してくれぬか」
「ハイ、スンマセン」
なんでこんな事に…。
「幸い奴は俺達に気づいてねェ。パーッと送ってパーッと帰りゃバレねーよ」
『だったら私らを解放して』
「ヤダ、コワイ、サミシイ」
『なんでそこだけ外人なんだよ!』
くそこの、まるでダメなオッサン…略してマダオがァ!!あれ、これよくね?
「…まったく、じいの奴めいい年して免停とは…何ゆえ皇子たる余がこんな汚いタクシーを使わねばならんのだ」
だったら今すぐ降りてよ。
「のう白髪。手があいてるなら余にサービスせい!」
あ、銀ちゃん話しかけられた。スゴいイヤそーな顔してる。
ーーーーしゃかしゃか.
「いや…サービスだけれども、なんでよりによって洗髪?」
てか、水とシャンプーどっから出した?
「社長サン、地球へは何しに?」
「社長じゃねーよなんだよお前は!アレだよアレ、急にパンダが見たくなって…い、いだだだだ眼に入ってるって!お前ワザとやってんだろ!!」
うん、百パーワザとだね。
「あーパンダなんか見に来たの社長サン。だまされちゃいけないよ、奴ら笹しか食わねーとか謳ってるけどさァ、実際裏じゃ何食ってるかしれたもんじゃねーよ〜。しゃぶしゃぶ食ってっかもよ」
やっぱおろせば良かったみたいな顔をしている長谷川さん。だから私らを解放すればよかっ…!!
『長谷川さん前!!』
「うぉアアアアア!!」
ーーーーキイイイイ.
車の前に飛び出してきた男に驚き、慌てて止まったタクシー。あ、あぶねー!!
「バババババカヤロォォォ!!あぶねーだろ!!何考えてんだァァ!!」
すると男は長谷川さんにつかみかかった。
「オッさァァァん!!頼む、急用なんだ、乗せてくれェェェェ!!」
「うごっ!!苦しっ、止めろ!!」
な、なんだ?
「さち子がァァ。さち子が急に産気づいちまって!!」
男の指差す方を見れば、女が苦しそうに倒れていた。
「ギャアアアアアア」
後部座席からの悲鳴に振り向いて見れば、バカ皇子の額から血が出ていた。
「ア、やべ。急に止まるからとれちまったじゃねーか」
「余の…余のチャームポイントがとれてしまったァァ!!」
銀ちゃんホントにヤバいって思ってないっしょ。
「どーしてくれるんじゃ貴様ァァ!!それがなかったら余はただの人間じゃん!!係長じゃん!!」
「大丈夫ですって。課長クラスには見えますよ」
「そーゆー問題じゃねーんだよ!!」
「大体とれるってことはいらねーってことなんですよ」
そーだね。
「ちょっ、いいかいお二人さん!!今にもガキが生まれそーな娘がいんだ!!架珠さん!この辺に産婦人科あるか?」
『ないよ戻んないと』
「ふざけるなァァ!!チャームポイントもがれた上、引き返すだとォ!?なめてんのか!!」
また騒ぎ出したバカ皇子を私らは見る。
「こうなったら意地でもパンダを見るぞ!!早く車を出せェェ!!」
何この自己チュー。
「あんたよォ…パンダの一カケラでも地球人に愛情むけられねーのかィ?人間の赤ん坊もそりゃかわいいもんですぜ」
「知るかァァァ!!貴様らのよーな下等で生意気な猿に情などわくか!!地球人のガキが一人や二人どうなろーと知ったことではない!!余を誰だと思っておるんじゃァ!!」
ーーーーガッ.
「!!」
「誰なんだよ、ただの課長だろーがよォ」
『もしくは紫の物体だよね』
バカ皇子の顔面を片手で鷲掴みにした銀ちゃん。
「止めねーか。皇子様になんてマネすんだてめーは……」
ん?
「わかりました皇子様〜。要はパンダ見れればいいんですね?意外と近くにパンダいることに気づきましたよ」
「何!?本当か!?どこじゃ」
シートベルトを外した長谷川さんは後ろへと振り向いた。
「明日鏡で自分の顔を見ろォォォ!!」
「ぶァ!!」
おもっくそバカ皇子を殴り飛ばした長谷川さん。フロントガラスを突き破ってバカ皇子は地面へと落ちた。
「オラ、チンピラ夫婦。ちょーど席空いたぞ。乗るか?」
「オッさーん!!恩にきるぜ」
泣いて喜ぶ男。よかったね。
「ケッ。長谷川さんよォ、アンタやっぱアレだな…グラサンの方が似合ってんな」
笑みを見せながら銀ちゃんが言った。
「そーだろ」
やっぱ長谷川さんにはグラサンだね。
仕事はクビだろーけど。
next.
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