春雨
ーーーーカ コ ン.
見事な庭でししおどしが音を響かせた。
「…いや、今までも二日三日家を空けることはあったんだがね、さすがに一週間ともなると…」
久々の仕事の依頼人に会いに、私らは立派な家へとやってきた。せっかく大金が期待されるってのに、銀ちゃんは二日酔いでボーっとしている。今だって茶ァこぼしてるし。
「親の私が言うのもなんだが、キレイな娘だから、なにかよからぬことに巻き込まれているのではないかと…」
そう言って見せられた写真には、お世辞にもキレイとは言えないガングロの巨体な女がピースして写っていた。
「そーっスねェ。なにか…こう巨大な…ハムをつくる機械とかに巻き込まれている可能性がありますね」
「いやそーゆうんじゃなくて、なんか事件とかに巻き込まれてんじゃないかと…」
「事件?あーハム事件とか?」
「オイ、たいがいにしろよ。せっかくきた仕事パーにするつもりか」
『でもさァ、コレ私らでいいの?警察に相談した方がいいんじゃない?』
「そんな大事にはできん」
由緒正しき家柄であるわが家で、娘が夜な夜な遊び歩いていると知れたら、一族の恥なんだと。
「なんとか内密のうちに連れ帰ってほしい」
えー…。まあ生活もままならないジリ貧な私らは首を縦に振ったけどさ。
早速家を出た私らは娘がよく来ていたという店に来た。
「あー?知らねーよこんな女」
カウンターにいた鶏の天人に写真を見せるも役立たずな。
「この店によく遊びに来てたゆーてたヨ」
「んなこと言われてもよォお嬢ちゃん。地球人の顔なんて見分けつかねーんだよ…名前とかは?」
「えーと…何だっけ?」
『えェ?……あ…ハム子だよハム子』
「ウソつくんじゃねェ。明らかに今つけたろ!!そんな投げやりな名前つける親がいるか!!」
「忘れたけどなんかそんなん」
「オイィィィ!!ホント探すきあんのかァ!?」
失礼な。ちゃんとありますよ。
「架珠、もうコイツでいいアルよ」
『んー?』
振り返って見た奴は、どうみても男だった。いやしかし体型的には…。
「お前ら人捜しむいてねーよ」
鶏に言われて思わず納得してしまった。とりあえずハム子ならぬハム男を銀ちゃん達の所へと連れてきた。
「新八〜!もうめんどくさいからこれでごまかすことにしたヨ」
「どいつもこいつも仕事をなんだと思ってんだチクショー!大体、これでごまかせるわけないだろ。ハム子じゃなくてハム男じゃねーか!」
「ハムなんかどれ食ったって同じじゃねーかクソが」
「何!?反抗期!?」
ーーーードサ.
ん?
「ハム男ォォォォ!!」
「オイぃぃぃ駄キャラが無駄に行使うんじゃねーよ!!」
見るとハム男が倒れていた。言っとくけど、私も神楽も手荒なマネはしてないから。
「ハム男、あんなに飲むからヨ!」
『いやアンタハム男の何を知ってんの?オーイハム男、大丈夫…、!』
コイツ…酔っぱらってるんじゃない…。しゃがみこんで顔を見れば、目は虚ろで鼻水やらよだれやらたらしながら笑っていた。
「あーもういいからいいから。あと俺やるからお客さんはあっちいってて」
さっきの鶏が来て、ハム男を運び出した。
「…ったく、しょーがねーなどいつもこいつもシャブシャブシャブシャブ」
「シャブ?」
「この辺でなァ、最近新種の麻薬が出回ってんの。なんか相当ヤバイやつらしーから、お客さんたちも気をつけなよ!」
新種の麻薬…?まさかハム子の奴…。
『新八神楽。ちょっと行ってくるけど勝手に動かないでよ』
「?はい…」
全三箇所。ここにあるトイレの数だ。片っ端からトイレの中を覗いて行ったが、どこにもハム子の姿なんかない。
『あり?私の思い過ごし?』
ハム子の奴、麻薬を買ってて絶対そーゆうんはトイレだろうと思ったんだけど…漫画の読みすぎかな。あとなんだ、路地裏とか?私は新八達の元へと戻ろうと歩を進めた。
あ。
『そーいや、男子トイレ見てない…』
引き返そうかと思ったとき、向こう側が騒がしいことに気づいた。あっちの方向って…。
『新八達のいる方向じゃ…』
慌てて向かうとそこには天人が大量に集まっていた。ちょ、多すぎて中心が見えねっ!
「なっ…なんだアンタら」
あ、新八の声。あーあ全く。何からまれちゃってんの?
「どほけてんじゃねーよ。最近ずーっと俺達のこと嗅ぎ回ってたじゃねーか、ん?」
知らね、なんのことだか。今日初めてここ来たっつーの。私は鉄扇を取り出すと構えた。
「そんなに知りたきゃ教えてやるよ。宇宙海賊春雨≠フ恐ろしさをな!」
私は一気に手近の天人を殴り倒した。お、前が見えた。
『なら私は、万事屋架珠ちゃんの恐ろしさを教えてやるよ』
「架珠さん!」
「…誰だァお前?」
こちらを睨みながら聞いてきた天人に、私はニッと笑って答えた。
『万事屋従業員、田川架珠だよコノヤロー』
next.
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