間違いは誰にでもある
「え?…ちょ、女って」
目の前の坊ちゃんがまさかのお嬢様という真実。
「九兵衛さんが女って…どういうことっすか」
「お前にあるもんが無くて無いもんがあるっつーことだよ」
確かにそういう事だ。
「…え…だって…姉上と結婚するとか言ってて…そんなバカな事が…」
結婚するとか言う坊ちゃん、もといお嬢様に喧嘩売りに来たのにどゆことこれ。
「!!アンタ…まさか…ひょっとして…そんな…」
え、なに。
「姉上を男と勘違いしているのか!?確かに姉上は胸が…」
ーーーーダコン.
『違うだろ』
当たり前だがお妙の回し蹴りが新八に炸裂した。
「九ちゃんは、身体は女の子。でも心は…男の子なの。女の人しか愛せないのよ」
あー…なるほど、そういう事か。
「ふっ…ふざけるな!!女の身でありながら、姉上と結婚!?そんなことが通ると思っているのか!!姉上!!なんで今まで言わなかったんですか!?知ってたんでしょ!?それともそれを知った上で九兵衛さんと…!?」
「…………」
目をそらすお妙。そんなの答えてるも同然だけど。
『ちょっとは落ち着けよ新八。カルシウムほんっと、足りてないなお前は』
「お、落ち着いてられますか!」
『ま、ここまできたんだ。説明ぐらいしてくれんでしょ』
「…我が柳生家の家督は、代々、男が継ぐしきたり。だが、母は僕を生んですぐに亡くなってしまったと聞いた」
眉ひとつ動かさず、九兵衛は語り出した。
九兵衛が柳生家で立場を失い居場所をなくさないよう、父親とジジイが男として育てた。勿論、本当に男として育てるつもりは無く、ただ、女の九兵衛に柳生家を継がせるためには名実ともに本当の強さが必要だった。
そんな生き方を強いられた九兵衛は、女の身で当たり前だが男の中だと線も細いし泣いてばかりで、いじめの対象だったらしい。
「最初は、ただの憧れだったのかもしれない。同じ女の身でありながら、強く生きる女の子」
いじめられる九兵衛を、お妙が拳ひとつでいつも助けていたらしい。さすが、お妙。ガキ大将かよ。
「とても強い女の子。でも、その笑顔の裏に抱えるものを知った時、この人を、護りたいと思った」
父親を亡くし、借金取りのあのキノコ共がお妙達のところへ押しかけたある日。九兵衛は、お妙達を護るためにその左目を失った。その時、お妙は九兵衛の左目になると涙ながらに言ったらしい。
「僕らは男も女も越えた、根本的な部分でひかれ合っている。僕はお妙ちゃんとのあの時の約束を守る。お妙ちゃんの隣にあるべきは僕だ」
お妙を見ると、顔をそらし目を伏せてしまっている。
「男だ女だとつまらん枠にとらわれる君達に僕は倒せんよ。この男を見ろ。僕を女と知るや途端に剣が鈍った…そんな脆弱な魂で大切なものが守れるか」
「「勝手なことを、ゴチャゴチャ抜かしてんじゃねェェ!!」」
木刀を振るった新八の声に誰かの声がハモった。
「笑顔の裏に抱えているもの!?それを知りながらなんで今の姉上の顔は見ようとしない!?」
「愛の形!?相手の気持ち一つ察せねーで気持ちワリーこと言ってんじゃねェェ!!」
「男も女も越えた世界!?」
「「んなもん知るかァァボケェェェェェ!!」」
塀の向こうの竹藪から徐々に近づいてくるこの声は、銀ちゃんか?
「惚れた相手を泣かせるような奴は」
「男でも女でもねェ」
「「チンカスじゃボケェェェ!!」」
大将とやり合っていたらしい銀ちゃんと新八が背中合わせにまさかの集合。
「だからモテない奴は嫌いなんだ。ねっ?銀さん」
「まったくだ新八君」
お前らもそのカテゴリーだからな。なに自分は違いますよ感出してんだ。
「貴様らァァァ!!」
あ、ちっちゃいオッさん。
「バカ騒ぎを止めろォ!!これ以上、柳生家の看板に泥を塗ることは許さん!!ひっとらえろォォ!!」
うわぁ…働かなくていいかと思えばこれだよ。お妙もろとも捕らえようとしてくる門下生達を木刀で軽く薙ぎ払う。
『やんのかゴラァ』
「ぎゃああ!!」
『!!』
え、庭の方?
「邪魔をすんじゃねェェェ!!男と男…いや男と女…いや、侍の決闘を邪魔することは、この悟罹羅勲が許さん!!」
「近藤さん!!」
庭の方には暴れるゴリラの姿が。
「旦那ァ!片足じゃもって五分でさァ。早いとこ片付けてくだせェ!!」
「なんで乗ってんだテメーは!!」
じゃあ乗せる前に断われよ。
「………」
「ふァちょォォ!!」
「ぎゃあああ!!」
あ、神楽。
「アネゴォォ!!男どもが頼りないから、私が来たアルヨォ!!銀ちゃん、おめっ、今までドコ行ってたアルかァ!?」
「チャイナぁ、俺より目立つな!!それからお前んトコの大将ずっとウンコしてました!」
「何ィィ!?ウンコ!?てめっ、俺がどれだけ苦しい戦いしてたと思ってんだ!!」
「うるせェェ!!てめーんトコの大将もデケーのたれてたんだよ!」
「デカクねェ!見たのかお前、俺のウンコ見たのか!!」
アホらしいわァ…。門下生蹴り飛ばしながら思う。ほんと、アホらしい。
「…たい」
『お妙?』
「…私、みんなの所に帰りたい」
涙を目にためるお妙の、やっと出た本心にニカッと笑みが浮かぶ。
『んじゃ、早く終わらせて帰ろっか』
頷いたお妙はとうとう涙を溢れさせていた。
next.
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