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落ちてたからって何でも拾ってきちゃダメ





「喧嘩だ実戦だ。そんな事を声高に叫び、道場稽古を軽んずる貴様のような輩を、俺は今までたくさん見た。試合では負けたが我が流派は実戦向きだ、真剣勝負なら我が流派は負けません。全て、ただの言い訳だ」


池の中からメガネが立ち上がる。


「そんな戯れ言は聞き飽きた。そんな戯れ言は、稽古もロクにせん、根性無しの言い草」


眼鏡のないメガネの目は、逆3の形をしていた。


「どれだけ才能があろうと、どれだけ実戦をふもうと、努力した者には勝てん。俺はそう思っている。古い考え方などという輩もいるがな」


古いよ。デフォルメが古い。


「今、俺の眼を見て古いとか思った奴が一番古い」


いやお前のが古い。


「オイどーいう事だその眼は?なんでケツがついてんだ?」


お前は古い以前にバカ。


「貴様らが喧嘩だ実戦だと闇雲に剣を振り回す間、俺達は必死に稽古を積み、努力をしてきたんだ。貴様は俺に勝てん」
「いやいや、口喧嘩はなかなかに達者じゃねーか。今度はこっちでやろうぜ」
「たわけが。思いしるがいい!!」


木刀を握りしめ二人同時に振りかぶった。多串君も池の中へと着地し、メガネが多串君の皿へと打ち込む擬似を見せる。

ーーーーガォン.


「がっ」
「やっすいエサはもう食いあきたぜ」


今まで守りに転じていた多串君はメガネを真上から叩きつけた。


「俺を釣りあげてーなら、極上料理にマヨネーズぶっかけてもってきな」


やっぱマヨなのか。


「四の五の考えるのはもうやめだ!もう、後手には回らねェェ!!」


その宣言通り、メガネの擬似ごと巻き込む連撃で多串君は推していく。


「猛攻をかけ余計な小技すら出す暇を与えないつもりか。攻撃こそ最大の防御。ようやく奴らしくなってきやがった!!」


早く終わらせろー。


「一気にカタをつけるつもりか。だが、このような足場で無理に攻勢に出ても、動きは制約され体力を消耗するだけ。くわえて貴様には致命的な弱点がある」


弱点?


「俺には貴様の剣筋が手にとるように読める。勢いに任せるのみで、変化のない単純な剣撃。幾ら打ち込んできたところで、俺に一太刀たびせるのは無理な話」


ーーーーガッ.


「剣筋は読めても、水中の足の動きは読めねーだろ!!」


ーーーーガキィィン.

足払いで態勢をくずしたところに多串君が木刀を振り下ろすもメガネはそれを防ぐ。


「貴様は型にはまっていると言ったが、俺から見れば貴様も充分型にはまっている。俺達はあらゆる型を幾千幾万も身体に叩き込み、その対応策も幾千幾万と身体に叩き込んでいるのだ」


ーーーーヒュオッ.


「それは貴様の頼りとする、勘や直感よりも確かなもの。やり合えば、そこには寸毫の判断の差が生まれる。達人同士の立ち合いにおいて、その差は致命的なものとなる」


弾き返し突き出された木刀を多串君は掠めながらも避ける。


「それが貴様と俺の差。才能に溺れ努力を怠ったが貴様の敗因」


ーーーードオウ.


「これがお前が道場剣術と揶揄した者の力よ!!」


顔面にモロに木刀を喰らった多串君は、脳震盪を起こしてもおかしくない威力だ。


「!!ヤバイ!!あの人ホントにとんでもなく強い…架珠さん、近藤さん、助けに入りましょう!!」
『私としてはあのマヨが負けようが知ったこっちゃないんだよなー。大将はぱっつァんだし』
「言ってる場合ですか!」
『それに手ェ出したところでよけいなお世話でしょ』
「え?」
「チビの言う通りだ…スマン、お妙さんの身がかかっている戦いで言えた義理じゃないが、アレは人一倍負けず嫌いだ。手ェなんか出したら殺される」
「負けず嫌いって、このままじゃ負けますよ!」
「ただの喧嘩剣法じゃアレには勝てねーのは、アイツが一番しってるさ。なァ、トシよ」


ほォ?


「ーーーー昔なァ、まだ俺達が江戸に出てくる前、田舎で俺が剣術道場やってる頃の話だ。巷を騒がす、とんでもねェワルガキがいてなァ。滅法喧嘩の強ェ一匹狼で、近隣の道場の連中に片っぱしから喧嘩売ってしばき回してる暴れん坊よ」


うっわ黒歴史だね。


「田舎道場の連中なんざ、みんな血の気の多いチンピラみてーな奴らばかりだ。これじゃあメンツがたたねーってんで、みんなで協力してそいつをやっちまおうって話になったんだ。一対一の武士道なんて誰も持ち合わしちゃねェ。まァ、自業自得だがな…俺も物見遊山で見に行ったんだ。そしたら、コイツがなかなか太ェ野郎でな。大人数を前にしても、物怖じ一つせず、詫びいれるどころか、たった一人で多勢相手に大立ち回り。バッタバッタ敵をなぎ倒し、いや、強ェのなんの。まァ、でも、あの大人数相手に勝てるわきゃねェ。最後の最後ボロ雑巾みてーになるまで暴れ続けてたがな。俺ァどうしたもんか迷ったが、そいつを道場に連れて帰る事にした。そのまま捨て置けば死んじまいそうだったし、なにより、面白そうな男だったんでな」


稽古中は入り口から、誘いも断りただじっと、ゴリラ達の稽古を見ていたそうな。


「だがある日、傷も癒えてねーってのに、野郎、道場から姿消しやがってな。心配して捜しにいったら…」


ゴリラが多串君を匿っていたと聞き、殴り込みに行こうとした連中を、多串君はたった一人で相手にしていた。


「野郎は以前より強くなっていた。ケガが癒えてねェにも関わらず、その動きには以前にはない、しっかりとした骨格ができていた。だが、奴の戦いを見てられたのもそこまで。気がつきゃ周りは血の海。立ってんのは俺と野郎だけだった」


隠れて丸太の素振りしてた多串君の手は血豆でひどい有様だった。それを指摘された時の多串君の返事がこれ。


「四越デパートの自動ドアにはさまった」


はァ?


「人には決して見せねェ。ツラにも毛程も出さねェ。だが俺は知ってるよ。野郎は今も昔も、頭にゃ、剣の事しかねェ」


水中へと剣を腕ごと多串君は沈みこませる。


「こざかしい!!今さらそんなものが通じるか!!」


そろそろ決着つくか。


「誰にも努力してねーなんて言わせねェ。それは、確かに柳生の華麗な剣に比べりゃ武骨で歪な野刀かもしれねェ。だが、研ぎすまされた奴の剣は」


ーーーーガッ.


「鉄をも切り裂く」


防ぐ木刀ごとメガネの皿を突き砕いた多串君の威力は凄まじく、宙へ飛ばされたメガネは地面へと倒れ、決着がついた。


「土方さんんん!!」
「待たせたな」
『皿割んのにどんだけ時間かけんだよノロマの副長さんよォ』
「上等だてめーの皿も割ってやらァ」


やってみろや。


「…トシ。また派手にやられたもんだな」
「あん?これは奴にやられたんじゃねー」


じゃあその血はなんだよ。


「間留井デパートの自動ドアにはさまった」


はァ?



next.

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