華より団子
いつもは金がない。食材がない。残り物でやりくりだ、なんてジリ貧なんて茶飯事な万事屋の食卓。だけど、今日は違った。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい、ついでに食べてってくだしゃんせ!!このたび行われる男と男、職人と職人、甘味と甘味をかけた大勝負!!」
開催地の神社まで来ると、階段の向こうの境内から高らかな男の声が。
「四百年も続く伝統の味を守る老舗の団子屋「魂平糖」!遠く銀河の果てより未知なる甘露を広めにやってきた人気甘味屋「餡泥牝堕」!!新旧きっての甘味処が腕によりをかけてつくったこの団子。どうぞ皆さん、どちらか食べたいと思う方の団子を食べたいだけ食べてください」
なるほど。本当に食べ放題なんだな。
「といってる間に餡泥牝堕の前には行列が…さすが江戸で今一番人気の甘味屋!一方魂平糖の方は………まだ一人のお客もいません!!」
一人もいない?好都合としか言えないね。
「これは勝負をする前に決着がついてしまった感が…!あっ、あれはなんだ!?」
姿を見せた私らに司会者も列の奴らも注目。
「四人!!たった四人ではありますが、魂平糖の方へ確かに向かってきている!」
銀ちゃんに持ちかけられた文字通り美味しい話に、私らは二つと言わず五つ返事で今日を迎えた。もう、食費ヤバくて昨日の夜から水と酢こんぶでモチベーションは最高。
「旦那…」
「マジでタダなんだろうな」
じゃなかったら暴れて帰ってやる。
「ああ。恐らくこれでウチの団子食えんのも最後だ。たらふく食ってってくんな、ヘヘッ」
タダで、団子が、食べ放題…よし。
「あっ、時間です!それでは試合開始!!」
うっしゃァァァァ食うぞ!!銅鑼の音が鳴り響いたと同時に私らは手を伸ばした。
「餡泥牝堕に客が殺到!!次々と皿が無くなっていく!!一方魂平糖は…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!早い!なんとたった四人で、餡泥牝堕に対抗しているぅぅ!!」
うまァァァァ。
「てめーらァァァ三日は何も食わなくていい位たらふく食っとけェェ!!」
任せろォ!
「旦那…」
「飢えだァァァ!!彼等は甘味を味わいになど来ていない!ただ飢えを満たしに来ただけだ!!」
一時間の食い放題で味わう暇なんかあるか!詰められるだけ詰めて腹を満たす!
「すさまじい勢いで皿が積みあげられていくぅ!!一方「餡泥牝堕」これは…!!」
「違う違う、食べたら皿ここに戻すの!」
「多くの客に翻弄され、逆に皿がさばけなくなっているようだ!」
あんなんじゃ予定の半分も食えやしないよ。食べ放題は混んでる場所避けて少ないとこから攻めれば倍食えるきっと。
「これはわからなくなってきた!!信じられない事ではありますが、たった四人であの多勢と互角に張り合っております魂平糖!」
「旦那!!すまねェ、そんなにしてまでウチの店の事…」
何泣いてんのオヤジ。
「あーダメだ。こっちじゃ食えやしね。もうあっちでいいや」
「あーっと、あまりの混雑ぶりに妥協して魂平糖に流れる人たちが…」
はあ!?
「『坂田家の食卓に入ってくんじゃねェェェ!!』」
なに人の団子に手を出そうとしてんだゴラァァァァ!
「お゛い゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!何してんのォォアンタらァァ!!」
「おおーっと、なんという事でしょう!せっかく来た人たちをKOしてしまった!」
せっかく来た人たちだァ?
「ここはウチの食卓だァァァァ!!」
『何人たりとも入らせんわァァァ!!』
「食卓宣言!!ウチの食卓宣言です!勝負の事は一切考えていないようです!」
「旦那ァァァ!!チビ助ェェェ!!言ってる場合じゃないの!!コレは勝負なの!!んな事やってる暇あるなら早く団子食べてェェ!!」
「架珠!!ご飯とも合うヨ、コレェェェ!!」
「何してんだァァァァお前ェェェェ!!」
オヤジ血圧上がるぞ。
「何で団子をオカズにご飯食べてんの!オナカ一杯になっちゃうでしょーが!!」
「白米食べないとご飯食べた気がしないネ。欧米食なんかクソ食らえじゃ!」
「だからコレメシ食いに来てんじゃねーって言ってんだろーが!!」
「神楽ちゃん!炭水化物と炭水化物を一緒にとっちゃダメだって言ったでしょーが!!」
「お前は何タッパーにつめこんでテイクアウトしようとしてんのォォ!!」
よし。非常食も確保した。
「冷凍庫で氷らせて食べる時チンすればあとで食べれるでしょーが!!」
「今食ェェェェ!!あとじゃ意味ねーんだよ!なんだそのビンボくせー発想ォ!!」
だってビンボーだもん。
「これは両陣営もめ合ってなかなか皿がさばけなくなってきた!先に事態を収拾した方が有利だー!!」
だァーから坂田家の食卓に入んなっつの!!
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