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ーーーーガシャン.
「酒持ってこんかい!!」
勝男がテーブルを蹴り飛ばす。
「なんや、この店ホストクラブのくせに接客もようせんのか?」
「ヒ…ヒィ」
「ハーイ。今お持ちしまーす」
「!」
うし、行くか。
「今宵はホストクラブ高天原へようこそいらっしゃいました。当クラブ四天王ホストの一人、シンです」
「ギンです。ジャストドゥーイット」
『田代っス。チェケラッ』
「グラだぜ。フゥー」
スタッフルームから拝借したスーツでホストに。予想以上にこれ、イケてんじゃね?
「なっ…」
狂死郎の顔が引きつる。なんだその顔は文句あんのか。
「度胸あるやないか。こっち来い。ホンマはキレーなネェちゃんはべらかしたいトコやけどな」
「?」
バーさんと目が合った。
「アレ?架珠さ…」
ーーーードゴ.
「ぐぇふ」
神楽のボディーブローがバーさんに決まった。
「アレ?お客さん。アララ〜もう潰れちまっちゃったぜフゥー」
『レディには刺激が強かったかなチェケラッ』
「いや、オバはんまだ飲んでへんで」
いいんだよとにかく酔って気絶したんだよ。
「オイ、シン。ババ…お客さんをあちらに寝かせてジャストドゥーイット」
「オッケェイ、我が命にかえても」
「なんやウザイんやけど」
え。裏でなんて言うか考えたのに。
「まァエエわ。狂死郎はん、話を元に戻…」
「何飲みますか?」
「焼酎水割り7:3で。話を元に戻…」
『焼酎3ですか?水3ですか?』
「焼酎や。話を元に戻…」
『焼酎3ですか?』
「せやから焼酎3やて!話を元に戻…」
「焼酎さん何飲みますか?」
「焼酎さんちゃうわァァ!!」
急に叫ぶなよ。氷すっ飛んだじゃねーか。
「いや、焼酎3やけれども!この「3」は「さん」やのーて、スリーや!焼酎スリー水セブン、オッケー?」
『オッケェー、我が命にかえても』
「流行んねーからそれ!さっきから何か押してるけども!イラッとくるからそれ!!」
せっかく考えたのに。
「ゴホン…話、元に戻すでェ。狂死郎はん、もう面倒やからぶっちゃけて話さしてもらうけどな、オタクのツレケガさしとーないんやったら、ワシらの要求飲めっちゅー話や」
勝男がタバコを咥えたので神楽は火の準備。
「悪い話やないやろ、簡単や。いつものように甘いトークで女どもたぶらかして、金おとさせたらエエねん。クスリ買わせてな。それでワシらこの店の用心棒がわりしたるし、もうけもキッチリ7:3で分けたろーゆーてんねん。もう、こないな事もなくなるし万々歳やないの」
ーーーーカンカンカン.
「前にも言ったはずです。僕らはあなた達のような人達の力を借りるつもりはない」
ーーーーカンカンカン.
「僕らは自分達の力だけでこの街で生きてきた。これからも変わるつもりはない」
「ほう。ほな、ツレがどーなっても…いっ!」
ーーーーガッ.ゴッ.
「ちょっともう痛い!痛いしうるさい!」
石が顔にめり込むように当たり始めて話が中断。
「なんで火打ち石?さっきからガツンガツン当たっとんねん。ライターないんか。ほな、コレ使って」
「いや、いいです。プレゼントとか…重たい。なんか、付き合ってみたいな」
「お前にあげたんちゃうちゅーねん!ソレ使って火ィつけて言うてんの!!」
ーーーーガシャワン.
「火打ち石とコラボレーションすな!!」
石と石に挟まれてライターは粉々に。ドンマイ。
「お前何さらしてくれとんねん。高かったんやでコレ」
「狂死郎さん!!」
あ、八郎。
「オラに構うことはない!こんな奴らの言いなりになるな!!泥水すすって、顔まで変えて、それでもオラ達自分達の足で歩いていこうって、この街で生きていこうって決めたじゃないか!!」
ーーーーガッ.
「ええ度胸やないかァ。ほな、この街で生きてくゆーのがどんだけ恐いか教えたるで」
床へと倒れこんだ八郎の手を勝男は踏みつける。
「エンコヅメ、ゆーのしっとるか?ワシらヤクザはケジメつける時指おとすんや。とりわけ溝鼠組の掟は厳しいで〜。指全部や」
「やめろっ!!」
止めようとする狂死郎を他の連中が抑え込む。
「今さら遅いで。お前らとワシらじゃ覚悟がちゃうちゅーこと、思いしれやァァ!!」
ーーーーボキリ.
「なァ、オイ。切腹ってしってるかァ?」
抜刀した勝男の手首を骨を鳴らしてつかみ止めたのは銀ちゃん。
「俺達侍はなァ、ケジメつける時、腹切んだよ。痛そうだから俺はやんないけど」
私も無理。
「…お前、誰やねん」
「何しとんじゃーワレェェェ!!」
ーーーーゴッ.
銀ちゃんに拳を振りかぶった男を殴り飛ばす。
『お客様ァ〜。ご注文はお決まりっスかァ』
「…っざけんなよゴラァァ!!」
強面が一斉に向かってくんな!
「ドンペルィィィニョ5本入りまぁーす!!」
「はーい!」
新八が投げよこしたドンペリの瓶を両手にキャッチ。
ーーーーバガン.
「ぷがァァァァ!!」
組員共の顔面に銀ちゃんとそれぞれ瓶を叩きつける。見てて痛そう。
ーーーーパシ.
あ。最後の一本をキャッチした銀ちゃんの目の前へと、勝男が串の先を突きつけていた。
「そう、うまくはいかんで。世の中」
そうだね。さてどうするか。
ーーーーピルルル.
「ん…メール。あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
うるさッ。なんだよ一体。
「メルちゃんがァァァ!!ワシのいぬ間にママになってしまいよったァァ!!」
誰だよメルちゃんて。水につけたら髪の色イメチェンする女の子?
「あ、産まれたんですかついに。おめでとうございます」
「おめでとうであるかァボケェ!!こうしちゃおれん、スグ引き上げるでェ!!」
「へい!」
えー…。
「お前ら覚えときィ!次会う時はこんなモンやすまへんからな!」
………なんだあいつら。
「ハァーー〜」
溝鼠組の奴らもいなくなり、静かになったその場に八郎の安堵のため息が。
「あ…ありがとうございました皆さん、助かりましたァ」
「フー。ったく、手間かけさせやがって。母ちゃんの目の前で息子死なせるワケにはいかねーからな」
「母ちゃん?」
「とぼけてんじゃねーよ。どうして隠してたかしらねーが、もういいだろ。名乗り出てやれや、あのババアによー」
「いや、何を言っているのかよく…」
「いい加減にして下さい。お母さんがどれだけアナタを心配したと思ってんですか」
「え?…いや、でも、オラの母さんもう死んでるし」
は?
「……死んでるってなんだよ。僕の中では死にました的なアレだろ」
「死にました一年前に。ちなみにオラ、息子じゃなくてこう見えても元娘です」
『元娘だろうが母ちゃんにとっちゃ息子にかわりな……元娘?』
「はい。オナベですからオラ。八郎は源氏名、本名は花子です」
花子ォォォォォ!?
「銀ちゃん大変アル!!」
神楽、こっちも大変だよ。なんだよ。
「おばちゃんが……どこ捜してもいないアル!!ひょっとして連中にさらわれてしまったのかも…!」
はァ!!?
「!!母ちゃんが!!」
反応したのは、狂死郎。
「え」
え。
next.
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