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「アニキ、おりましたわ。コイツが八郎です」
「ほーかィ。ほな、早うこっち連れてきて。店に迷惑かかるやん」
入り口を見るとどう見てもカタギの人間ではない連中がぞろぞろといた。
「八郎!!」
「オイオイなんだありゃ?」
「あれは溝鼠組の…」
は?溝鼠組?
「エライ騒がしてすんませんでした。皆さん気にせんとどうぞ続けて下さい。ほな、これで」
いやいやいや…こんなん見せられて楽しめるかよ。案の定客は全員悲鳴をあげて店から逃げて行ってしまった。
「アララ、みんな逃げてもうた。すんまへん、狂死郎はん。営業妨害で訴えんといてな」
「…胴元さん、またあなたですか」
オーナーたる狂死郎が前に出る。
「八郎を離して下さい。いやがらせはもう止めて下さい」
「ちゃうねんちゃうねん。今日はあの件ちゃうねんって狂死郎はん。ホンマ、ワシもこないな事で出張るの正直しんどいんやで」
なんかよく分からんが様子見で私らは床に伏して隠れる。
「今ウチのダックスフント産気づいてまんねん。立ち合いたいねん出産に。ホンマ、ガキの喧嘩に顔つっこんでる暇ないんやでオッさん」
「ガキの喧嘩?」
「おたくの用心棒はん、昼間なんや往来でガキしばき回しとったろ。アカンでそんな乱暴な事したら。ホンマきょうびのホストはヤクザより恐いわ〜」
「アレはウチの若いモンです。バカやらかしたんでケジメつけただけの事。おたくには関係ない」
「それが大アリやねん。のう勘七君」
「勘吉です」
あ。昼間のチャラ男。
「実はこの勘吉くん、ウチのオジキの親戚やねん。ほな、こっちはこっちでケジメつけないう話や〜正直しんどいわ〜」
「溝鼠組の親分の?そんな話は…」
「そら、しらんわ。親戚ゆーてもものごっつ遠いから。なんや親戚の親戚の親戚の親戚ゆーて」
なんだそれもはや他人じゃねーのか!?
「言いがかりはよして下さい」
「言いがかりちゃうよ。のう勘八君」
お前マトモに名前覚えてねーじゃねーか。
「ハ…ハイ。親戚の親戚の親戚です」
「親戚1個足りひんやんんん!!」
「げふっ」
ーーーードゴォン.
「「『うおっ!!』」」
蹴り飛ばされた勘吉がこっちにまでぶっ飛んできて思わず声を出してビックリ。真横のソファに後頭部強打して勘吉気絶。恐ァ。
「アカン。オジキの親戚の親戚の親戚の親戚の親戚蹴ってもうた」
「アニキ、親戚1個多いです」
「まァ、エエわ。要するに人類皆たどれば母なる海から生まれた親戚ゆーこっちゃ」
結局他人じゃねーか。
「銀さん、架珠さん、ヤバいよ八郎さんが…何ですか連中?」
「ありゃ恐らく、溝鼠組の黒駒の勝男。かぶき町四天王の一人、侠客、泥水次郎長んトコの若頭だ。アブネー奴とはきいていたが、また厄介な奴と何モメてやがる?」
「ヤクよヤク」
「うわっ!」
突然現れないで神楽。恐いから。
「チャラ男どもが言ってたアル。溝鼠組の連中、自分達が持ち込んだヤクをこのクラブでさばけと何度も店に来てたみたいヨ。それを狂死郎が断ってから嫌がらせしに来るようになったって」
「…ったく、次から次に、手のかかる息子だぜ。なぁ、母ちゃんよ…アレ?」
ん?
「そういやババアは?」
『アレ、いないな』
…………ん゛!?
「ちょっとォォォォ!!何やってんのォォ!!」
お前が何やってんのォォォォ!!
「血だらけじゃないのちょっと!どうしたのコレェェ!!」
「なんや?このオバはん」
「ちょっとォォォ!コレっ…あのっ…ちょっとォォォ!!」
「何回言うねん」
ババアまさかの騒ぎの中心にいた。なんで大人しくしててくれないのほんとにもううううう!!!
ーーーーガッ.
銀ちゃん?
ババアを止めようとした私らを止めた銀ちゃんが、向こうの方を指で示す。なんだ?見るとそこはスタッフルーム。
「確かに柿ピーはお酒と合うけれどもォォ!食べ過ぎちゃダメって…」
「ピーナッツの食い過ぎでこない血ィ出るワケないやろ!!」
「柿とピーナッツは6:4の割合でイケと言ったじゃないのォォ!!」
「オイ、オバはん。ええ加減にしいや、どっからわいて出たんやしらんけど、ワシら遊びに来たんちゃうねん。ナメとったらアカンど…」
大丈夫かなババア。
「柿とピーナッツの割合は7:3に決まっとるやろーがァァ!!世の中の事は全てコレ7:3でビッチリうまく分けられるよーなっとんじゃ!!7:3が宇宙万物根元の黄金比じゃボケコラカスぅ!!」
うん大丈夫そう。
「7:3ってそれ柿ピーじゃなくて柿の種食いたいだけじゃろーが!!テメーは一生猿カニ合戦読んでろボケコラクズぅ!!」
「アホか!!この比率が柿とピーナッツ双方を引き立たせる黄金比なんじゃ!!ボケコラブスぅ!!」
「テメーはその黄金比という言葉に酔ってるだけで考える事を放棄しただ明日を死んだように生きていけボケコラナスぅ!!」
くだらね。
「上等やオバはん。今夜は朝まで柿ピー生討論や」
「白黒ハッキリつけようじゃないのさ」
「アニキ、ワシら何しに来たんですか?」
ほんと、何しに来たのか。
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