一日局長に気を付けろッテンマイヤーさん
鼻歌まじりに意気揚々と家事をこなす新八を、私らは遠巻きに眺める。
「なんだアイツ。春か?」
「朝からずーっとあの調子ネ」
「不愉快極まりない鼻歌って俺初めて聞いたわ」
音痴だもんね新八。
『…ん』
あー、なるほど。
読んでいた新聞の一面を見て、新八の機嫌の良さの理由がわかった。
『これじゃね理由』
銀ちゃんと神楽に新聞を見せる。
「連続婦女誘拐またも犠牲者…」
「その記事で新八が浮かれてんなら怖ェよ」
うん、引くわ。
スパン、と銀ちゃんが神楽の頭をひっぱたく。
「寺門通レコード大賞で新人賞受賞ねェ。あいつまだ追っかけてんの?重症だなオイ」
「もうワン、トゥー、スリー、ダーッ!はやらないアルか?転職は?」
「スキャンダルで干されてたみてェだけど、よくまァのし上がってきたもんだ」
『ラーメン屋のカレーの二の舞にならなくてよかったねェ』
ーーーーピンポーン.
「はいはーい。どなたですか〜」
ルンルンと足取り軽く玄関へと向かった新八。きも。
「あああああああ!」
うるさ!なんなんだよ!
「お、お通ちゃん!!」
え?
目を瞬かせた私らのもとへ訪れたのは、新八の幻でもない本物のお通だった。久々だな。
話を聞くと、今度仕事で真選組の一日局長を務めるらしい。その時真選組のイメージアップのためのマスコットキャラを演じて欲しいとのこと。真選組だしぶっちゃけ気乗りしなかったが、新八は受ける気満々だし前金ももらったし、私らはやることに。
「マスコットキャラってどんなだよ?」
「お通ちゃんはコテコテの万人受けするようなものより、斜め上の視点を見るような馬がいいって言ってましたよ」
「なんだよ斜め上の視点を見るような馬って。分かんねーよ。もう馬でいいじゃねーか」
「嫌アル。もっとインパクトのあるオシャレな馬がいいネ」
『なんか武器持ってたらいいんじゃね?インパクトあるよ』
「なんだっけほら、上は人で下は馬なアレ。アレをパクろう。なんかマスコットっぽいだろ。俺は人やるから新八、お前馬な」
「銀ちゃん私は?」
「お前は死体でもやっとけ」
「ちょっと待ってなんで死体!?マスコットキャラに!?」
「武器持ってるからだよ。武器=死体だろ」
「んな=成り立つの初めて聞きましたよ」
「架珠はどうすっかな…お連れ様Aにするか」
『なにその脇役感。飼い主でいいじゃん、スナフキン的な』
「飼い主は死体だ」
『死体は森の中で猪と間違ってやっちゃった少女Aだよ』
「なら仕方ねェ」
「仕方ないんだ。え、待って!死体決定なの!?」
「私、女優顔負けの演技で奴らをあっと驚かせて見せるネ!」
「死体がいる事実に驚くと思うよ」
インパクトって大事だからね。前金からマスコットキャラの衣装を用意して、お通に指定された場所まで向かう。
「こっちこっち」
真選組と集合していたお通に呼ばれて私らは前に出た。
「真選組マスコットキャラ、誠ちゃん」
下半身馬の中身新八、上半身付け髭した銀ちゃんで武器は弓矢に決定。馬の背中に死体の神楽。私は手綱を引くスナフキン。
「だーから全然カワイクねーし!コレ真選組と何のつながりがあんだよ!!」
はァ?お前らには勿体無いマスコットキャラじゃん。私ならいらないけど。
「なんで死体背負ってんだ!?なんでスナフキンいんだ!?どれだ!?どれが誠ちゃんだ!?」
「馬の方だようかん」
見りゃ分かるだろ。分かれよ。
「こんな哀しげな眼をしたマスコット見たことねーよ!カワイイどころかお前っ…うっすら悲劇性が見え隠れしてるじゃねーか!」
「あー、やっちゃったなー」
「やっちゃったって言ったよ今!何?そういう事?」
そういう事だよ。
「トシ、今の時代ストレートにカワイイだけじゃ通用しないんだよーグルト。よく見てみろ、なかなかキモカワ…」
ーーーーパン.
顔を近づけたゴリラの頬を引っ叩いた銀ちゃん。分かるよ。
「てめー何しやがんだっふんだ!!」
「あーやめてん津丼!」
ワーギャーと騒がしかった。
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