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鍋は人生の縮図である







今年の年末は万事屋に新八も呼んで鍋を囲むことに。



「今年ももう終わりですね」

「早ェーな、もう嫌んなっちゃうな。年をとるごとに早くなっていくよ一年過ぎるのが」

『この調子じゃジジババになった時はF1カーが通り過ぎる並みのスピードで一年が過ぎるんじゃね』

「いやいや恐い事言わないでくださいよ」

「いやいや俺なんかもうベンジョンソンが走り去る位の速さまで来てるからね。もう来てるからね、そこにベンが。お前らもな、若いからって調子に乗ってるとスグ来るよベンが」

「マジかヨー、ベン来るのかヨー。私ベンよりカールの方がいいネ、カッケーアル」

「まーまー。要は充実した一年を送ったってことじゃないですか。今年も色々ありましたもんねー」

「そーさなァ。百回記念ということもあるし、ちょっと振り返ってみるか」

『ということで、百回記念。「あんな事もこんな事もどんな事もあったね」総集編スペシャルスタート』



で、箸構えて鍋を凝視する私らは一切誰も振り返らない。おいおい…。



『…ちょっと…総集編って言ったじゃん。振り返ろうって言ったじゃん。誰か振り返れオイ』



人がせっかくタイトルコールしたっつーのに。



「いやでも鍋の火加減見なきゃいけないんで。僕鍋見てるんで三人で振り返っちゃってください」

「鍋は俺が見るから新八お前いけって。お前司会向いてるって自信持てって」

「うれしくねーんだよ、司会向いてるとか言われても。神楽ちゃんいってよ」

「イヤアル。だってよそ見してる間に肉食べられるモン」



…はァ?



「ちょっ…もうホントさァ。いい加減にしろよお前は」



構えていた手を私らは下ろす。



「そんなさァ、そんなしょうもない事俺達するワケないだろ。ホントさァら年の終わりにさァ、哀しくなるような事言わないでくれない?確かにスキヤキなんて俺達滅多に食えないけどもね、一年の区切りにさァ、奮発してみんなで楽しくつつこうって時にさァ、お前って奴は…ホント俺情けなくなってきたわ」

『あーあ、なんか萎えた。どーしてくれんのさこの空気』

「………」

「…今のは神楽ちゃん悪いよ。ホラ、謝って」

「…んだよチキショー」



ペコ、と神楽が頭を下げた。



「悪かったヨ、ビンボくさい事言っ…」



今だァ!!!!

ーーーードフッ.

考える事はみな一緒。神楽が謝ってる最中に肉を奪おうとすれば、銀ちゃんと新八の邪魔も入り肉は鍋から飛び散った。チッ。



「あーあ。貴重な肉が四散してしまいましたよ」

『どーしてくれんのさ私の肉』

「何言ってんだバカ。俺の肉だろ」

「みんなの肉ですよ」

「てめーらが強く引っぱるからだよ。はしゃぎ過ぎなんだよスキヤキ如きで」

「チッキショー、だましやがって。お前らのせいで私の心はどんどん薄汚くなっていくネ」

「そうやって人は大人になっていくんだよ。よかったな、また一歩大人になれたじゃん」



あーあお肉…。



「大体食卓は戦場だって教えたろ、忘れたかコラ」

「銀ちゃんの言うことなんてもう信じないネ。もうみんな敵ネ、誰も信じないネ」

「いい心がけだ。もっと俺を憎め。その憎しみのパワーを糧にこの腐った世の中を生き抜いていくんだよ」

「腐ってんのはお前の頭アル」



いーから早く鍋食おうや。勝手に食べ始めればまた肉飛び散るだろーしなァ…肉ゥゥゥ。

ーーーーカラン.

ん?



「僕、もういいっすわ」



は!?



「喧嘩してまで食べたくないですもん、こんなん情けない」



箸を放り投げた新八が言う。



「実は昨日姉上と二人で焼肉食べたんですよ。もう飽きたっていうか…いつでも食べれるっていうか…どうぞ三人でとりあってください」



えー…つか、焼肉食ったとか初耳なんだけどマジかよ。



「しょうがねー」



なに?



「まァ俺も別に肉食べたかったワケじゃないしィ。みんなに食べてもらおうと思ってやったことだしィ。こんなんなるんだったらやめっか。俺はいいけどマジいいの?お前ら」



嘘でしょ!?銀ちゃんマジで言ってんの!?



「上等だヨコルァァァ!!私だって別に肉なんて食べたくないモンね!ベジタリアンだモンね!!」



神楽まで!?ええええヤダよ!肉食べたい!!



「やめだやめだスキヤキなんて」

「やってられっかヨチキショー」



……なにこのおひらきムード。嫌だって!肉食べたいんだって!だって何ヶ月ぶりの肉だ!?



『食わないなら私一人で食うけど』

「!ふざけんな架珠。言ったよな俺は、みんなに食べてもらおうと思って用意したんだ。なのにお前はガキ二人が食わずして自分だけ食うなんていう暴挙を平気ですんのかよ」

『食べないっつったの本人達じゃん。私肉食いたい。腹減った!食わないなら食わなきゃいいよあんたらは』

「架珠さん、いい大人がみっともないですよ。そんなに言うならやっぱりスキヤキ再開します?」

『食わないって言ったじゃん。私一人で食う。肉は私のもんだ』

「ふざけんな俺の肉だ」

「だからみんなの肉だって」

『いただきまーす』

「「待てェ」」



ーーーーぐう〜.



「「『!!』」」



腹の音?神楽?



「ア…アレェ?オ…オイ神楽、何お前?腹減ってるの?」

「減ってないモン。屁だモン」

「いやいや、今のは腹の音だった。間違いないよ何?そんなにおなか減ってるの?」



鍋に突っ込もうとしていた箸を一旦止める。つか、止めざるを得ない。



「そ…そんなにアレならやっぱりやるか?聞いたろ架珠も。年頃の娘が腹空かせた音を盛大に鳴らしたんだぞ。俺は別にどっちでもいいけど」

「神楽ちゃん無理しない方がいいよ。架珠さんも食べたがってるしちょうどいいしさ。僕もどっちでもいいけど」



なんだこいつらうぜェ。



「…すいてるけどいいモン。酢昆布あるから」

『じゃあやっぱ私一人で…』

「バッキャロォォォォォ!!」

『ぐふァ!』



肉を摘んだ直後銀ちゃんに殴り飛ばされた。いってェェェ!!



「育ち盛りがあんなモンばっか食ってメシ食わねーとどーなると思ってんだァァ!!お前には思いやりってモンがねーのか!あ!?」

『だからって殴ることないだろ!!DV被害で訴えるぞ!!』

「銀ちゃんいいヨ。私酢昆布食べるから」

「何言ってんの!ホラッ!架珠さんなんか気にしないで!僕がよそってあげるから」



なんかってなんだ。新八の分際で。



「いいの?」

「いいって。テメーらのために買ってきたつってんだろーが。早く食えボケ、殺すぞ」



なんで脅してまで食べさせてんだよ。隣の神楽のお椀を見ると、白滝とか野菜類ばっかで肉は見当たらない。



「ウホン…しゃーねーな、じゃっ、食うか。別に俺は食いたくねーけど。メンドくせーなオイ」

「もぉー、別に肉は食べたくないんスけどね。腐らせるのも勿体ないですからね」



お前らの方がメンドくせーよ。やっぱ本心は食いたいんじゃねーか!







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