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ーーーーガラガラガラガラ.
「なんか…」
「違くね?」
全身顔まで黒タイツのトナカイが引くリアカーに私らは乗っている。ジーさんは黒服に黒いほっかむりへ衣装チェンジ。
「いや、いいよ、シックなカンジで。やっぱ締まって見えるよ黒は。落ちついた印象を受ける。そして何故かソワソワする」
『うん。戸締まりちゃんとしなきゃっていう、何故か』
「それ泥棒に見えてんじゃねーかよ!!」
周りの奴らの視線が痛いね。
「アレだよお前、ちょいワル親父だよ最近流行りの。片足泥につっこんでる位の方が今の時代ちょいモテ親父だよ」
「ちょいワルじゃないよコレは!片足どころか全身泥につかってるよ!泥だらけの棒だよ!!なんか勝手に着てっしよ!!」
ジーさんの赤服はダンボールの妖精が着てた。
「ちょっ、マジ返して下さい!お願いしますよ!」
「この冬は赤でキメるんじゃああ!!」
「もうキマってるって!そんなん着なくてもアンタもう完全にキマっちゃってるからさァ〜!!」
とにかく夜が明ける前にプレゼントを配ろうとその格好のまま目的地まで。私なら絶対嫌だわァ〜。
「とりあえずこの区域いくか。ここは貧しい人が多い。救ってやらんと」
木造平屋が建ち並ぶ区域までやって来た。
「ヤバイよコレ、誰かに見つかったら一発でアウトだよ。即通報だよ」
「なんで悪いことしてるワケでもないのにこんなにドキドキしなきゃならねーんだ」
その格好じゃね。
「で、どいつからプレゼント配ってくんだ?」
銀ちゃんは奪った名簿を開いて見る。
「XBOXとかそーいうの期待してるずうずうしい奴はナシ。けん玉とかそーいう大人の事情をわかってる奴」
「お前らホントに夢を与える資格あんの?」
その辺の親の考えじゃんそれ。サンタじゃないよ。
『今時そんな素朴な…』
「あ」
え?
「いたぞ。月島百合ちゃん」
まじでか!
「今時珍し…」
ほしい物欄を見ると、「けん玉と優しかったお母さん」とあって私らは言葉をなくした。
「……おっ…お母さんはちょっと無理だな」
「百合ちゃん…死んじゃったのかなお母さん」
「ベン!やめなさい!深入りするのは!ふ…二つも希望があるなんて反則だ、この子はナシ!」
初っ端から重たいよほしい物が…。
「他は?けん玉関係」
「だからなんでけん玉なんだよ」
「アレだよ、けん玉ブームが来ると予見して多めに持ってきた。ヤマ外れたんだよ…去年の韓流ブームは当たったんだけどね」
「韓流ブームなんてどうやってプレゼントしたんだよ」
『あ』
ほしい物欄にまたしてもけん玉!
「オイオイ。意外にけん玉ブームきてんじゃねーの」
『子供って分かってんだねェ』
ページをめくると、けん玉の後に「明日へはばたくための翼」と付け足してあった。
「………俺もほしいよ」
私も……。
「ハイ次…けん玉関係」
「もういいだろけん玉は」
『けん玉に固執しすぎでしょうよ。ふざけんな、もっと他の物にも目を向けろ』
「うるせーな!ぶっちゃけ今年はけん玉しか持って来てねーんだよ!もうけん玉にかけるしか俺にはねーんだよ!」
「おめーらただのけん玉くれるオッさんじゃねーか!!あっ!あったけん玉!!もうこれ最後な、これにかけるぞ!」
めくれば「けん玉」とだけ書かれていた。
「「「『きた!』」」」
その下には「みんなで一緒にやったっけ……もう戻らないあの夏」なんてあったからもう爆発。ふざけんな!!
「だからけん玉いらねーだろコレェェェ!!」
『紛らわしいマネばっかしやがってクソガキがァァ!!』
「つーかコイツら何歳!?」
ーーーーパッ.パッ.
「!!」
あ、電気ついた。
「ヤベェェェ!!でけェ声出し過ぎた!」
「その声がでけーよ!この声もでけー!」
名簿を足蹴にしていたら騒ぎにここら一帯の家の明かりがつき始めた。
「早く逃げ…」
「あっ…あれ!」
ん?
「百合ちゃん!!「けん玉と優しいお母さん」の百合ちゃんだ!!」
トナカイの示した先には、窓から不安そうにキョロキョロと見渡す百合ちゃんの姿が。
「待ってんだよあらァ。クリスマスてめーらが願いを叶えてくれるって楽しみに待ってんだよあらァ」
『まァ、死んじゃった母親と並べる位だからね』
「よっぽどけん玉がほしいんだろ。何か思い出でもあるのかもしれねェ。母ちゃんは無理だがけん玉なら………いってやれよ」
銀ちゃんがそう後押しすると、ジーさんとトナカイは百合ちゃんへと駆け出した。
「「百合ちゃああん!!」」
百合ちゃんが二人に気づく。
「ギャアアアアアアアア!!お母さん泥棒ォォォォォ!!」
え?
ーーーードッ.
百合ちゃんが叫んだ直後、その家のドアが吹っ飛んだ。
え?え?
「「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」」
出てきたお母さんは日曜日の夕方に見かける財布を忘れて陽気な誰かさんみたいな髪型だけど、類似点そこだけだよ。なんかオーラが怖い。あと西郷さんよりデカくね?怖くね?てかアレ、お母さん?
「ちょっ、待っ、お母さん!?お母さん、え?」
ーーーードオオオン.
「優しいお母さんに戻ってェェェ!!」
拳をふるった母親の渾身の一撃を喰らった二人に、私と銀ちゃんは巻き込まれないよう尊き犠牲に合掌した。
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