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変な二人組に殴り返して橋の下に構える屋台で一息つく。
「…ったく、いい加減にしなさいよ。こんな夜中にさァ、ご近所の迷惑も考えなさいよ」
ほんとほんと。
「何があったかしらないけどさァ」
「いやアンタらにボコボコにされたんだけど」
「とりあえず飲みましょうや」
「つーかおたくら誰?」
「酒は人間関係を円滑にするための潤滑油ってかの徳川家康も言ってたような気がしたけど気のせいだわ」
結局気のせいかよ。
「オイ親父、熱燗四本。あとオデン適当に。お代はこのヒゲがもつから」
「へい」
「ヒゲって誰。まさか俺?」
「へい」
他にいねーだろ。
「もう剃っちまうかな〜こんなヒゲ」
「で、何?なんであんな喧嘩してたの?」
『つかさ、おたくら何?』
「え?」
「運送業か何かやってる方ですか?」
「いや…え?けっこう丸出しじゃ」
丸出しって何が?まァクリスマスにヒゲ生やした赤い服のジジイなんてアレだろーけど。
「あの…規則であんまハッキリ言えないんだけど、ソリに乗って子供達に夢を届ける…」
「義賊っぽいカンジ?」
「そーそーそー。そーいうカンジ」
『「サ」のつくアレ?』
「そーそーそー」
「サタン?」
「惜しい!!けど遠い!意味合い的には!!」
程遠いな。
「フフッ。旦那、余計な口挟んですいやせんが俺はもうわかりましたよ。ホラ、あれですよ、ヒントは股の間にぶらさがってる…」
「違うから!!何そのヒント?一体どんな答えに結びつくわけ!?」
私にもわからん。
「まァ、まァいいや。サンコンでもサンタでも」
「いや今一回言ったよ。今一回正解言ったよ」
「要するに夜中にあのソリに乗って子供達に何かするおっさんか」
「そうなんだけどなんかヤなんだけどその言い方」
同じようなもんだからいーじゃん。
「旦那、余計な口挟むようですが俺はもうわかりやしたよ。ホラ、この方達はソリに乗って通り過ぎざまに恥部を露出するあの方達ですよ」
「違ェェって言ってんだろ!お前何!?ダンディな顔して頭ん中そればっかか!!」
人は見かけによらないね。
「プレゼント!プレゼントだよ。ソリに乗ってよい子のみんなにね、プレゼントを配るのが仕事なわけ。でもそのソリがさァ、大破しちゃってさ、どーにもこーにも」
「ソリなんてなくたって仕事くらいできるだろ?」
「ダメなんだよ!ソリ、トナカイ、赤い服は三種の神器なの!イメージ壊したくないの!伝説になりたいの!」
『トナカイ?え、トナカイなのコレ?』
「ただの化け物じゃねーか」
「あ゛ん!?」
隣の茶色い人型がトナカイとか夢壊れるわ。悪夢だわ。
「何だかよくわかんねーけど、そんなに困ってんなら力になろうか?」
私らは名刺を差し出す。
「俺らァこういうモンで。頼まれればなんでもやる万事屋ってのをやってる。払うもん払えば力になるぜ」
「ああ!?なにができるってんだよ」
「今スグ、ソリを用意できるってのか!?」
『もちろん』
「お安い御用だ」
私らは席を立ち高架下のスペースからガラクタを退かしていく。
「なにやってんだ?」
ーーーーガララ.
『よっしゃ、乗れ』
ガラクタを退かして引っ張り出したのはリアカー。
「乗れじゃねーよ!お前なんか先住民の方がいらっしゃるじゃねーか!!」
リアカーにはダンボールのハリボテと一緒に白髪のオッさんがいたけど関係ない。
「え?おたくらアレを見たのかい?それはね、ダンボールオーサンだ。心がキレイな奴にだけ見える妖精さ」
「明らかにお前も見えてるだろーが!お前のことメッチャ見てるぞオイ!」
「それに俺達はソリって言ったの!それリアカーじゃ…」
「リアカーじゃねえェェ。マイホームじゃ!!」
「あっ、すいません」
「細かい事にこだわってんじゃねーよ。ソリとリアカー言ってみ?ほとんどかぶってるだろーが」
「リアカーじゃねェ。マイスゥイートホームじゃ!」
「あっ、すいません。大切な事は何よ?子供達に夢を配ることだろーが初心に帰れ。お前らあの頃あんなにキレイな瞳をしていたじゃないの」
『そりゃあ色々あったけどさ、もう時効じゃん?水に流してもいいと私らは思うよ』
「お前らは俺の何をしってんだァ!!」
なにも知らん。
「大体イメージ云々ぬかすならアンタの腹の方が問題だろ」
ぼよんぼよんのお腹だ。
「いいんだよコレで。こーいうカンジなんだよ。俺はデブタレントの先駆け的存在なんだよ」
「こんな腹を見たら「あっ、お父さんと同じだ」と失望することうけあいだ」
いやだね。トラウマになるかも。
「赤い色は膨張色といって実際よりそのものを大きく見せちまうんだよ。とりあえずそれ脱げだせーから」
『もっとシックなカンジがいーよ』
私らは早速ジジイの服を脱がせにかかった。
「いや、ちょっと…三種の神器って言ったじゃん!ダメだって!ちょっ、それ脱いだら俺ただのジジイに…あっ!!」
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