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満月は人を狂わせる







ーーーーガチャン.



「姉上、用意をしたらすぐにでも来てくれるそうです」

『んー』



万事屋まで銀ちゃんを運び、手当をして寝室にやっとこさ寝かせ終えた。疲れた…なんか、どっと疲れた。まだ終わってないけど。



『んで、えーと…なんだっけ。あの、刀の名前』

「紅桜ですよ。銀さんそれを調べてたみたいで」

『そっちの依頼主にも報せた方が良さそうだねェ…てか、神楽知んない?別れて以来見てないんだけど』

「僕も見てないんです。どうしたんだろ、神楽ちゃん…」



ーーーーバン.



「『!』」



神楽?

戸を叩く音に玄関先まで向かえば、いたのは定春のみ。



『犬の帰巣本能すげーな。飼い主どこ置いてきた』

「待ってください。何かくわえてる…」



ん?定春がくわえていた紙を受け取り新八が開いて見せる。んー…。



『あいつ外国語書けたの?』

「いやコレ地図ですよ地図。雨で所々にじんでますけど」

『んー…』



辿り着けるか微妙な地図だなコレ。

ーーーージリリリリリ.

電話だ。すぐさま新八が出て、相手は紅桜に関する依頼主だった。



「姉上、銀さんのこと頼みます。僕らや神楽ちゃんのことは…」

「わかってます。銀さんには言わないわ、あんなにひどいケガだもの…安静にしてないと」

『悪いね。もし外に出ようもんなら拳の一つや二つは許可するから』

「はい、任せてください。看病のために色々準備してきましたから」



そう笑うお妙の手にはなぎ刀。



「姉上、看病になぎ刀はいらないと思います」



こえーよお妙。絶対看病されたくねェ。

多少不安ながらもお妙に留守を頼んで、私らは依頼主のもとへ向かい経過報告。刀鍛冶の兄妹、鉄矢と鉄子とテーブル挟んで向かい合う。



「なんですとォォォ!!」



ちょ、うるさッ。



「では紅桜はその辻斬りの手に!?」

『聞こえてるんでもう少し小さな声でお願いします』

「すいません。何とか取り戻そうとしたんですが…」

「それで取り戻すことはできたんですか!?」

「いやだからできなかったって言ってるじゃないですか」

『お兄さん声のボリューム落としてもらっていいっすか』

「なんてことだ!!紅桜が人斬りの道具にィィ!!」

『人の話聞けよ。耳に鉄でも詰まってんのかオイ』



帰りてェ。



「…で、無事なのか?」

「え?」

「あの…あの人」



妹が少し小さめの声で聞いてきた。



「あっ、銀さん?んー、まァ、死んではいないですけど、けっこう…ヤバイカンジで」



詳しくは伝えず掻い摘んで言えば、妹は気にしてるのか表情を暗くさせた。



「兄者、気分が悪い。席を外すぞ」

「オイ鉄子どうした。気分でも悪いのか!?」

「だから気分悪いって言ってんでしょーが」

『おたくホント大丈夫?』



妹の言葉ぐらい聞き取ってやれよ。



「スイマセンね!なんか空気が読めない奴でね!!」

『オメーが一番読めてねーよ』

「それより、一つお伺いしたいことがあるんですが」



話通じるかな。



「あの、紅桜って刀…アレ一体なんなんですか?不吉を呼ぶ妖刀とききましたが、とてもそんな生易しいものじゃ…アレは妖刀とかそんな謎めいたものじゃなくて、きっと…」

「残念ながら私も紅桜についてそれ程深く知っているわけではない!なにしろ触れてはならぬものと、蔵の奥深く封じていたのでな!」



良かった通じてた。



「だが私は思う!!刀匠が精魂を込めて打ちあげた刀には、得体のしれぬ何かが宿ることもあるのではないかと!あれを見たまえ!!」



縁側の向こうを見ると、飛び石が目に入った。



「屋根から落ちた雨だれが、同じ箇所に落ち石に穴を穿っている!雨でさえ岩を削る!!これが意志をもった一流の職人の槌ならばどうなる!?「斬る」という一念のみを込め、何百回、何万回も槌を降りおろされた鉄ならばどうなる?常識という名の薄い岩などたやすく砕く刀!そんな物ができ上がっておかしくはないのではないか?私はそう思う!!」

『つまり、おたくらの親父さんの強い思いが刀を妖刀に変えたって言いたいの?』

「ワハハ!少々ロマンチックだったかね!?」



その風貌からしたら。



「だが刀匠の魂というのは確かに打った刀に宿るものだ!「斬る」というたった一つの、しかし純粋な思いの元につくられているからこそ刀はあれほど美しい!そして、それを創造する職人も然り!刀も人間も、たった一つの目的に向かい進む姿は美しい!」



進む道にもよると思うけどな。力説した兄貴と別れて、今度はこっちの依頼者であるエリザベスに会いに行く。



「エリザベスさん…」



雨の中、エリザベスは傘もささず立っていた。地面に突き刺した刀にはヅラの所持品がかけられている。



「それって…もしかして桂さんの」

「[なにも言うな]」

「………」



なんとなく。なんとなーくだけど、真っ白な背中が悲しそうに見えなくもない。



「神楽ちゃんが帰ってこないんだ。今朝、定春だけが万事屋に帰ってきて、こんな紙切れを…雨に濡れてところどころ見えないけど、地図みたいだ」



見てんのか見てないのか。エリザベスは背中を向けたまま。



「銀さんには言ってない。そんな事知ったらあの人、あんなケガしてるのに飛び出して行くに決まってる」



いい年してヤンチャもやりたかないだろーけどねェ。



『行くよエリザベス。ヅラを見つけるんでしょ』



私と新八が見つめると、振り向いたエリザベスは歩き出した。





next.

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