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まだ少し早い時間だけど、寝袋に大人しく入って寝る体制。だって、夕飯はないしお腹すいたしやることないしで…もう寝るしかない。寝るしかないけど…。
「おなかすいて寝れないんですけど」
『私も』
寝ようにも寝れない。
「気のせいだ」
「気のせいなんかじゃないネ!純然たる事実アル!」
「てめーは一皿たいらげてただろ」
「一杯じゃなくていっぱい食べたかったネ!」
『一杯食べれただけありがたく思え』
「あーあ、詩織ちゃんちはカレーおかわりし放題なのにな〜いいなァ〜」
「ヨソはヨソ!ウチはウチ!」
母ちゃんか。………ん?
『なに?この匂い』
なんか、めちゃくちゃいい匂いが…。
「ワハハハ」
「ガハハハハ」
「!」
あれ、真選組?
「うめェェェェ!!やっぱキャンプにはバーベキューだよな!」
「カレーなんて家でも食えるしィ!福神漬もってくるのめんどくせーしィ!」
あいつら…これ見よがしに食いやがってェェェェ。
「オイ、マヨネーズはどうした?」
「副長、これはおいしそうに食べてる姿を見せつける作戦です。マヨネーズはちょっと」
「てめェェェ!マヨネーズなめてんのかァァ!!マヨネーズはなんにでも合うように作られてるんだよ!!」
……肉、いいなァ…。素直な私らは口からヨダレを流す。
「よォ、旦那方。まだいたんですかィ?」
うっせーよくちゃくちゃ食いながら来んじゃねーよいいな。
「そんな粗末なテントで寝てたら蚊に刺されますよ。あっ」
あっ。
沖田クンの手から、肉や野菜が刺された串が落ちる。
「いっけね、落としちまった」
「オーイ、沖田隊長。そんなのもういいって、こっちにいっぱいあるから戻ってこいよう」
「おーう。じゃっ、俺はこれで。あっ、それ別に食べてもいいですぜ」
…………あいつマジ殺したい。
さっきまでの仲間割れなんかどーでも良くなり、私らは寝袋から出ると反撃に出た。
「ワハハ、キャンプにはやっぱり酢昆布だよな〜」
『キャンプファイヤーも楽しめて一石二鳥だしね〜。マジうまいわァ酢昆布!』
「バーベキューだって!恥ずかしくない?ベタじゃない?ダサくない?シティー派は酢昆布アルヨネ」
田舎派はバーベキューして自己満足してろ。
「なっ!?酢昆布焼いて食ってる!」
「いたいたしい!いたいたしいよ!」
いたいたしくて結構だよ。向こうのバーベキューは派遣した神楽がゲロ吐いて台無しにし、さらにはもらいゲロという連鎖まで引き起こしめちゃくちゃにしてやった。ざまーみろ。
それから、翌日になってまたカブトムシを探し始めたのだが、やはり一匹も見つからない。
「銀ちゃん!架珠!新八ィィ!!」
んー?
「見て見てアレ。あそこに変なのがいるアル」
はしゃぐ神楽の声に歩み寄る。
「あー?変なのって、お前また毒キノコとかじゃねーだろうな。変なもんばっか見つけんだもんよお前」
そのせいで私らがどんだけ迷惑かけられたか。
「違う違うアレ」
アレ?
「金ピカピンのカブトムシアル」
お!ほんとだ。
神楽が指を向ける先には、黄金色に輝くカブトムシの姿が。
『なにアレすげェ!本物!?』
「オモチャかなんかじゃないですか?」
「違げーよ。アレはアレだよ、銀蠅の一種だ。汚ねーから触るな」
「えー、でもォ、カッケーアルヨ、キラキラしてて。ね、架珠」
『うんうん。売ったら高いって。だって派手だもん』
「ダメだって。あんなのに価値なんてねーよ、ウンコにプンプンたかってるような連中だぞ。自然界でも人間界でも、あーいういやらしく派手に着飾ってる奴にロクな奴はいねーんだよ」
「頭が銀色の人に言われたくありませんよ」
「俺は違うよ、これは白髪だから」
いつも銀色言い張るくせに。
「それに生活も素朴だろ」
「ハイハイ」
「………」
『行こう、神楽』
「ウン…」
先に行く銀ちゃん達に遅れないよう神楽に声を掛けるも、神楽はやっぱりあのカブトムシが気になる様子。つか、アレホントに銀蠅なのか?
ーーーーピタッ.
あ。
『神楽、頭にムシ』
「え?」
「うおっ、汚ねっ!!お前頭に金蠅乗ってんぞ!!」
「うわっ!!」
神楽の帽子にさっきのムシが。一応飛ぶんだ、こいつ。オモチャではないようで。
「ちょちょちょ、動くな動くなよ!うおらァァァァァァ!!」
「いだっ!!」
帽子で叩き落とそうとするけど、全然離れようとしない。
「おらァァ死ねェ!!ちくしょ、すばしっこいな!」
「いたい!いたいアル!」
「動くなってお前!金蠅乗ってんだって。お前はウンコと見なされてんだぞ!!」
『銀ちゃんは機から見たら少女虐待してるオッさんに見えるけどね』
「だれがオッさんだ!」
「ツッコミそこ?」
「待てェェェ!!待てェ待てェ!!」
ん?真選組?
「それヤバイんだって!!それっ…」
ーーーーガッ.
「!!」
ーーーードゴォ.
「ぶごォ!!」
「え゛え゛え゛え゛え゛!!」
木の根に躓いたらしいゴリラがその勢いのまま神楽の脳天にチョップ。あ、ムシ落ちた。
「ギャアアアア!るりら…瑠璃丸がァァァ!!」
瑠璃丸?なにそれ品種?変な名前。
「いったいなァー!!ひどいヨみんな!!金蠅だって生きてるアルヨ!!かわいそーと思わないアルか!?あー、よかったアル。大丈夫みたい」
「待てェェェ!!金蠅じゃないんだ。それっ…それ実は…」
え?実はなに?なんだか怪しいと私らは傍観する。
「この子、私を慕って飛んできてくれたネ」
「おい、ちょっときいてる!?」
「この子こそ定春28号の跡をつぐ者ネ」
ムシを拾い上げた神楽はそれを虫かごへ。
「今こそ先代の仇を討つ時アル!いくぜ定春29号!!」
あらら、行っちゃった。
「オイぃぃ!!待てェ、それは将軍の…」
ーーーーグイ.
多串君の襟首を、銀ちゃんと二人掴み上げる。
「将軍の…」
『何?』
笑みを向ければ、口元引きつらせて多串君はタバコを落とした。
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