デートは30分前行動で
「!なんだ貴様、何者だ!?」
「あー?なんだツミはってか?そーです私が…子守り狼です」
ホント、そーしてると親子にしか見えねーわ。
「勘七郎!!」
「銀さん!!」
なんだかんだここまでたどり着いてる銀ちゃんって、さすがっちゃあさすがだ。
「なんだかめんどくせー事になってるみてーだなオイ。こいつァどーいうこった新八ィ?三十字以内で簡潔に述べろ」
「無理です」
そらそーだ。
「銀さんこそどうしてここに?三十字以内で簡潔に述べて下さい」
「無理だ」
そらそーだ。
「オメーバカかァァ!!わざわざ敵陣に赤ん坊連れてくる奴がいるかァァ!!」
「なんだテメー、人がせっかく助けてやったのに…ってゆーかなんでこんな所にいんだ?三十字以内で簡潔に述べろ」
「うるせェェ!!あのジジイはなァ、その子狙ってるんだよ!!自分の息子がはらませたこの娘を足蹴にしておきながら!!テメーの一人息子が死んだ途端手の平返して、そのガキを奪って無理やり跡とりにしようとしてんだよ!!」
そうそう。
「…オイオイ。せっかくガキ返しに足運んだってのに、無駄足だったみてーだな」
「無駄足ではない。それは私の孫だ。橋田屋の大事な跡とりだ、こちらへ渡しなさい」
「俺としてはオメーから解放されるなら、ジジイだろーが母ちゃんだろーがどっちでもいいが、オイ、オメーはどうなんだ?」
「なふっ」
「おう、そーかィそーかィ」
いや通じんのかよ今ので。
「!わっ!」
「ワリーなじーさん」
ポイッと銀ちゃんが投げ渡した赤ん坊をお房は抱きとめる。赤ん坊をなんつー扱いだ。
「ジジイの汚ねー乳吸うくらいなら、母ちゃんの貧相な乳しゃぶってた方がマシだとよ」
「やめてくれません!そのやらしい表現やめてくれません!」
ホントやめてほしい。
「逃げきれると思っているのか?こちらにはまだとっておきの手駒が残っているのだぞ」
ーーーーガキィィン.
「盲目の身でありながら居合いを駆使し、どんな獲物も一撃必殺で仕留める殺しの達人…」
シャッターが…!?
「その名も岡田似蔵。人斬り似蔵と恐れられる男だ」
切り倒されたシャッターから、さっきの男が現れた。
「やァ、またきっと会えると思っていたよ」
そう言う奴の顔は銀ちゃんへと向けられていた。
「てめェ…あん時の。目が見えなかったのか?」
「今度は両手が空いてるようだねェ。嬉しいねェ、これで心置きなく殺り合えるというもんだよ」
まさかの知り合いとか。銀ちゃん何があったのこの短時間に。
「似蔵ォ!!勘七郎の所在さえわかれば、こっちのもんだ!全員叩き斬ってしまえ!!」
やれるもんならやってみろ。
「銀さん、気を付けて下さい!そいつ居合い斬りの達人です!!絶対に間合いに入っちゃダメですよ!!」
ーーーーフッ.
「!!」
まただ。音もなく、一瞬で岡田は銀ちゃんの間合いに入り、横切った。
ーーーーブシィ.
「!!むぐっ!!」
「銀さん!!」
肩から噴き出す血に、慌てて駆け寄る。うっわこれ痛いわァ。
「!!勘七郎が!!」
え?見ると、母親の腕の中に勘七郎の姿がない。まさか…。
「いけないねェ。赤ん坊はしっかり抱いておかないと。ねェ?お母さん」
「勘七郎!!」
勘七郎が奪われた!
「ククク。さすが似蔵、恐るべき速技…あとはゆっくり高みの見物でもさせてもらうかな」
そんな余裕があればの話だよね。
「悪いねェ、旦那」
岡田の足下に、滴り落ちた血。
「俺もあの男相手じゃ、そんなに余裕がないみてェだ…悪いが、さっさとガキ連れて逃げてくれるかね」
岡田の額からは血が流れていた。先程すれ違った時に銀ちゃんが一太刀浴びせたのだ…まァ、それだけではないのだけど。
ジーさんは余裕の笑みを消すと、勘七郎を抱いて部屋を出て行った。
「架珠」
呼ばれただけだけど、銀ちゃんの言いたいことはよーく分かった。だてに付き合い長くない。
『勘七郎追うよ』
「は、はい!」
「新八、神楽…もういいからオメーらもガキ追いな」
母親と共に勘七郎を追いかける。遅れて後ろの方から新八達も追いついて来た。
「くっ…くるな!!」
追いかけて追い詰めたのは屋根の上。そこまでして逃げるかジーさん。
「勘七郎は私の孫だ!この橋田屋も、私のものだ!誰にも渡さん!誰にも渡さんぞ!」
「橋田屋なんて好きにして下さい。でもその子は私の子です」
「クソ、いまいましい女め。私から息子を奪い、あまつさえ勘七郎も橋田屋までも奪う気か」
「子供を抱きながらそんな事を言うのはやめて下さい」
「バカな。こんな赤ん坊に何がわかる?」
ゆっくりと、お房はジーさんとの距離を詰める。
「覚えているんですよ、どんな乳飲み子でもり特に優しく抱かれている時の記憶は…勘太郎様がよくおっしゃっていました。そこには花がたくさん供えてある祭壇があって、キレイな女の人の写真が飾ってあって…」
自身を抱く父親が、遺影に向かって語りかけていたそうだ。
ーーーー安心していくといい。勘太郎と橋田屋は、私が護るよ。
…と。
「……それで、あなたはこんな事やってるんですか。こんな事をして、勘太郎様や奥様が喜ぶとでも?」
「………」
ジーさんの様子が変わった。
「……勘太郎は、生まれた時から病弱だった。長生きしても、人の三分の一がいいところだと医者に言われてな。だがそれを聞いて妻は、人の三分の一しか生きられないのなら、人の三倍笑って生きていけるようにしてあげればいいと…蝉のように、短くても腹いっぱい鳴いて生きていけばいいと…そんな事を言っていた」
勘太郎も似たような事を言っていたな…。
「だが私は、妻ほど利口じゃなくてな。医者を腐るほど雇って、まるでオリにでも入れるかのように息子を育てた」
それは、どんな形でもいい。息子にも、妻にも生きていてほしかったという、強い想いからだった。
「…結局、みんななくしてしまったがね。私は結局、約束を一つも…」
「もふっ」
座り込むジーさんへと、勘七郎が短く小さな手を伸ばした。
「勘七郎…」
あれは…慰めてんのか?
「全部なくしてなんかないじゃないですか」
お房がジーさんの前にしゃがみ込む。
「勘七郎は私の子供です。でも、まぎれもなく…あなたの孫でもあるんですよ。だから、今度ウチに来るときは橋田屋の主人としてではなく、ただの孫思いのおじいちゃんとして来て下さいね。茶菓子くらい出しますから」
涙を流すジーさんを見て、とりあえずは和解出来たということか。
「…やっぱ母親にはかなわねーな。母は強しって奴?」
「オイ…なんでオムツはいてんだオイ」
漏らしたからだよ。戻ってきた銀ちゃんに説明すると、何も言わずマダオの肩を叩いていた。
「それじゃあ、私達はこれで」
公園で、お房と勘七郎とお別れの挨拶。もうすっかり夜だよ。
「あの…本当にお世話になりました。私、このご恩は一生忘れません」
「俺が人の尊厳失った事は忘れてね」
多分一生忘れない。マジドンマイだよマダオ。
勘七郎は銀ちゃんとベンチに腰掛けてミルクを飲んでいる。やっぱ親子だわ。あのクリンクリンの髪型…親子だわ。
そのうち銀ちゃんは勘七郎の頭を撫でると立ち上がり、さっさと帰り始めていた。
「うわーん!!」
「!アラ、どうしたの勘七郎!?」
大きな声で泣き出した勘七郎に、慌ててお房は駆け寄り抱き上げた。
「あーあ、こんなに泣いちゃってどうしたの?ん?おかしいわね、この子滅多に泣くことなんてないのに…」
銀ちゃんが去って行った方を見ると、もう遠くに見えた。
やっぱ親子だわ。血の繋がり云々とかじゃなくて。
勘七郎の泣き声に混じり、セミの鳴き声も響いた。
next.
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