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人に会うときはまずアポを




オールバックの人斬り似蔵だかいうその男と向かい合って数秒。

ーーーーふっ.


『!?』


音もなく一瞬で間合いを詰められた。なんだコイツ幽霊か!?


『くっ』


刀が振られる前に飛躍して躱し、反転してぶっ叩く勢いで鉄扇を振り下ろすも防がれた。チッ。


「猿みたいな身のこなしだねェ。俺の居合いを避けるなんて」
「今の…居合い?早すぎて見えなかった…」


ふん。


『だーれが猿だ、このデコッパチ』


怒りを込めて蹴り上げるもあっさりと避けられた。あのサングラス叩き割りてェェ。


「さすがは、血染めの舞姫といったところか」


!こいつ…なんでそれ知ってんだ?


「俺の居合いで倒れなかった奴は久方ぶりだ」
『そーかィ。随分と軟弱な奴相手にしてたみたいだね』


まァ…。


『私はそー簡単には倒れてやんないよ。うッ!』
「架珠さん!?」


や、やばい…。


『気持ち悪…吐きそ…』
「え゛え゛え゛え゛!」
『あ…もう無理』
「ちょっとォォォ今そー簡単に倒れないってカッコつけたばかりでしょォ!?」
「ヒロインは吐いてなんぼアルヨ架珠」
「違う違う違う。それここだけだから。あと時と場合も考えて!!」
「おやおや…残念だねェ」


あ、ヤバイ。

ーーーードガアッ.


「「「『うわあああ!!』」」」
「!」


うお゛え゛、なにこの衝撃吐くぅぅぅ。


「………何事だ?」


私らが扉破って突っ込んでくると、その騒ぎにジーさんが振り向く。


「こいつはお楽しみ中すいませんね。ちょいと、あやしいネズミを見つけたもんで」
「!そなた達はお登勢殿のところにいた…」


あ、バレた。


「おやおや、こんな所までついてくるなんてお節介な人達だ。私事ゆえこれ以上はお手伝いいらぬと申したはずですが?」
『心配いらないよ。私らも私事できてるもんで。にしても、孫思いのジーさんにしちゃあ、ちょっとやり過ぎなんじゃない?』


ダレてた涎を拭いながら言ってやる。よし、ちょっと引っ込んだ。


「あなた方もただのお節介にしてはやり過ぎですよ。世の中にはしらぬ方がいい事もある」


私らの周りを、刀持った物騒な連中が取り囲む。なにこの、始末します空気…やだわァ。


「すいませ〜ん、僕はあの…関係ないんで帰っていいですか?」
「ど、どうしましょう架珠さん…」
『神楽ちゃァん』


任せた。


「ご主人様〜、コーヒーの方砂糖とミルクどちらでお召し上がりやがりますか?」
「?」
「やっぱコーヒーは」


ミルクと砂糖を手に持つ神楽。


「砂糖でごぜーますよな!!」


ーーーードォォン.

床に叩きつけると砂糖は爆発して辺りの視界を真っ白に染めた。


「煙幕か!?」
「おのれこざかしい!!」


その間に母親の縄を切って救出。


「しまった!!女が!女が逃げた!!」


もう気づいたよジーさんの奴。


「入口をかためろ!捜せ!必ずこの部屋の中にいるはずだ!!」


いねーよもう。柵壊して屋根の上に避難し、さァ逃げようとした時だった。

ーーーーガキィン.

え。

ーーーードォン.

倒れてきた壁の向こうで、鼻にお鼻すっきりをプッシュしながら似蔵が笑っていた。うわァ…。


「悪いねェ、俺には煙幕は関係なくてねェ」
『なにアンタ。前世犬なんじゃない?』


次の瞬間、私らは猛ダッシュ。


「ギャアアアア!!」
「もうダメだ!もうダメだ!ごめんなさい!ごめんなさい!」


屋根の上を駆け上がりながら追手から逃げる。なんか大量に来てるわー。


「架珠さァん!なんとか…なんとかならないんですか!?」
『いや、あんな大勢とやり合うとか勘弁。体調不良なんだからもちっと労ってー』
「僕らより先逃げといてよく言えますね!」


逃げ足は速いから私。


「ゼーヒュー 。肺が!!肺が痛い!はり裂けそうだ!!俺は決めた!今日でタバコとお前らとのつき合いを止める!!」


無理じゃない?


「あれ!?神楽ちゃんは!?神楽ちゃんがいない!!」
「ぬごををを!!」
「「!!」」


屋根の天辺で、神楽はタンクの一部を両手いっぱいに抱えてバキバキと取り外す。それ見て私は慌てて神楽の隣まで走り終えた。


「ウソ?」
「ちょっと待って」


神楽、そのまま投げちゃうの?


「待ってェェェ!!」
「まだ僕らいるから!!まだ僕ら…」


あ、投げるわ。


「うおらァァァァ!!」
「「ぎゃあああ!!」」


ぶん投げられたタンクに男共の悲鳴が響く。新八と長谷川さんはしゃがんで避けてたけど。逃げ行く追手だけど、あのオッさんは逃げるそぶりも見せず突っ立ってる。

ーーーーゴパ.

真っ二つに、オッさんはタンクを一瞬で斬り離した。マジかよ。


「なっ…!!」
「んなバカな!化け物かアイツ!?」


スゲーなオイ。


「まともにやり合って勝てる相手じゃない!ここは逃げましょう!」
「よし!!アレ?最初から逃げてなかったか?」


逃げてたね。私と神楽と母親は先に逃げており、屋根の淵に手をかけぶら下がる。


「うおっ!!」
「げふ」
「ぶっ」
「ひでぶっ」


なんだ?


「ヤバッ!!屋根から落ち…」


あーあ、あいつら転けたんだな。


「「ギャアアア!!」」


淵まで走って来たらぶら下がれって言おうとしたら、二人は転がり落ちて来た。下には屋根があるから、まあかすり傷程度ですんだでしょ。


「何!姿を消したぞ奴ら!!一体どこに!?」
「あっちを捜すぞ!!」


うっしゃ、なんとか追手を撒いたぞ。一安心して、私らも屋根の上へと降り立つ。


「あの…大丈夫ですか?」
「よかったァ、下に屋根があって」
「あー、小便ちびるかと思っ……」


ん?


「あの…あなた達、一体誰なんですか?なんで私のこと…」
「あなたですよね?僕らのウチの前に赤ん坊を置いていったのって」


マダオのエプロンの股間辺りを見ると、その一部分だけ濡れてた。マダオ…お前まさか…。


「え?じゃああなた達…」
「安心してください。赤ん坊はちゃんと僕らが保護してるんで」
「ウソだろ。もう38だぞ」


神楽は鼻つまんじゃってるよ。


「本当ですか!勘七郎は!勘七郎は無事なんですね!?」
「わわ、ちょっと!!」
「あっ、掃除してた時についたんだ。エプロンをとれば」


いやいやいや。


「………やっぱり、あなたがあの子の母親なんですか。なにがあったか教えてくれますか?それくらい、聞く権利ありますよね?僕らにも」


マダオのズボンの股間部分は濡れていた。私と神楽は、優しく肩を叩いてやる。ドンマイ、マダオ…。


「……私、昔この橋田屋に使用人として奉公してたんです」


ちなみに、母親の名前はお房だそうだ。そのお房から話を聞きつつ、屋根から移動する。


「あれは、まだ私が16の時です。私の家は…あの、とても貧しかったので、働き口を探して…私に任されたのは、旦那様の御子息、勘太郎様のお世話でした。勘太郎様は幼少の頃より病弱で、寝たきりの生活を送っていたんです」


初対面で挨拶の時、勘太郎はドッキリとしてお房に吐血シーンを体はって演出したとか。初対面でそれはどーなんだ。トラウマだよ、トラウマ。


「勘太郎様はとてもいたずら好きな方で、よく使用人達をからかい皆を困らせていました。でも、私のような使用人にも、まるで友人のように接してくれる優しい人で、お世話をしていくうちに、私はあの人に惹かれていきました」


ある時、勘太郎は言ったそうだ。寝たきりで家に閉じこもるくらいなら、はらいっぱい気持ちよさそうに鳴いてる、蝉になりたいと。


「ーーーーそれから半年後、私と勘太郎様は二人隠れて逃げるように屋敷から出ました。いけないと思いつつも…私、勘太郎様の力になりたかったんです。それから一緒に暮らし始めて、生活は苦しかったけど、二人一生懸命働いて泣いたり笑ったり……楽しかった」


けれど、勘太郎は病状を悪化させ、その頃に橋田屋のジーさんも家へとやって来た。勘太郎は連れ帰られ、既に勘七郎を身籠っていたお房にジーさんは堕ろすように命じたそうだ。


「ーーーーその後、私と勘太郎様は最後まで会うことを許されませんでした。あの人が亡くなるまで。程なくしてあの子が生まれ、私、あの人の分も勘七郎を立派に育てようって…そう決心して…」


そんなある日、再びジーさんが家へと現れた。その理由は、勘太郎の子供、自身の血縁者にもあたる勘七郎を奪うため。


「勘太郎様は旦那様のただ一人の御子息でした。跡とりを失った旦那様は、勘七郎を新しい跡とりにとあの子に目を。あの人を失い、さらに勘七郎まで失うのは私たえられなくて、必死にあの子を護ろうとしました。でも、追手の手が厳しく、このままでは親子二人捕まってしまうと…」


それで、万事屋の前にひとまず赤子を預けたってことか。


「…あなた達にはすまないことをしたと思っています。私の勝手な都合で、こんなことに巻きこんでしまって」
『気にすんな。こっちは家賃の為に来てるだけだから』
「そーアルヨ。ところで架珠、どこアルココ」


やっと外から建物内へと戻り、階段を下ると、エレベーターがある場所まで到達。マジでどこ?


『とりあえず、エレベーターでも乗るか』
「…お房ちゃん、アンタ若いのに苦労したんだねェ。しかし嘉兵衛って野郎はとんでもねェ下衆野郎らしい」
「下衆はそこの女だ」
「「「「『!!』」」」」
「私の息子を殺したのはまぎれもなくその女。その女さえいなければ、私の橋田屋は安泰だった」


げ。


「次の代にこの橋田屋を引きつぎ、そうして私の生涯の仕事は完遂するはずだったんだ。それを、そこの貧しく卑しい女に台無しにされたんだよ私は」


前方に、ジーさんとおっかない連中が大量に。うわァ、最悪。


「私がこれまでどんな思いをして、この橋田屋を護ってきたかわかるか?泥水をすすり、汚いことに手を染め、良心さえ捨ててこの店を護ってきた。この私の気持ちがわかるか?」
「勘太郎様はあなたのそういうところを嫌っていました。何故そんなにこの店に執着するのですか?お金ですか?権力ですか?」
「女子供にはわかるまい」


ーーーーガララ.

!シャッターが!?


「男はその生涯をかけて、一つの芸術品をつくる。成す仕事が芸術品の男もいよう。我が子が芸術品の男もいるだろう。人によって千差万別」


左右の通路もシャッターに塞がれ、逃げ道が背後のエレベーターのみだけどまだ来ない。


「私にとって、それは橋田屋なのだよ。芸術品を美しく仕上げるためなら、私はいくらでも汚れられる」


汚れた手で仕上げた芸術品の何が美しいんだか。

向かってきた連中に鉄扇を構えると、背後でエレベーターが開く音が。

ーーーーガキィィン.


『!』


刀を受け止めると、自分以外に連中の刀を受け止める…これ、木刀?まさか…。

ーーーードゴォン.


「!!」


連中を一気に弾き飛ばし振り向くと、エレベーターの中には思った通りの人物が。


「おーう、社長室はここかィ?」


今頃来たよこのヤロー。


「なっ!なにィ!?」
「これで面会してくれるよな?」


齧り付いたリンゴを見せつける銀ちゃんと、リンゴを同じように見せつける背中に背負われた勘七郎。


「アッポォ」
「ナポォ」


なんでリンゴなの?


next.

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