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「腐ってる」
「腐ってるね」
銀ちゃんの腕の中にいる赤ん坊を見て、新八とお登勢さんが言った。
「いい加減な男とは思ってたけど、その辺に種まいて女ほったらかして行きていけるような性根の腐った奴とは思わなかったよ」
「だから身に覚えがねェって言ってんだろ」
「じゃあなんで拾ってきたんですか」
「だからお前、普通家の前に赤ん坊が落ちてんのに、ほったらかして帰ってくる奴がいんのか?」
ちょっと現実逃避してほったらかそうとしてたじゃんか。
『銀ちゃーん、ホントに知らないのォ?』
「そう言ってんだろ」
「とぼけてんじゃありませんよ。やましい事があるから連れ帰ってきたんでしょーが。それに、このクリンクリンの猫っ毛、ふてぶてしい相貌…明らかに銀さんの遺伝じゃないですか」
「俺は天パの伝承者か?俺だったら、子供にこんな重荷は背負わせねー。遺伝子をねじ曲げてでもサラッサラヘアーのガキを作る」
遺伝子これでもかとねじ曲げる必要ありそうだね。
「あーもう、大きな声出さないでヨ。子供が泣いちゃうでしょ。ねっ?シルバーJフォックス」
「やめてくんない、その名前。やめてくんない」
子供に興味あるみたいで、神楽は赤ん坊に構っている。まァ、ガキにありがちなモンだよね、赤ん坊に母親の真似するのって。
「大方、定春の時と同じパターンだろ。万事屋ときいてなんでもしてくれると勘違いした誰かが、置いていきやがったんだ。迷惑な話だぜ。なんとか親探しださねーとな」
『天パが責任逃れしようとしてるよ。諦めの悪いパパだねェ銀楽』
「やめてくんない!その落語家みたいな名前、やめてくんない!」
冗談じゃん。
『あ、ヤベ。ぐずりだした』
神楽から受け取り抱っこしていると、顔しかめてぐずりだした。
「ウンコデモモラシタンジャナイデスカ?」
「違いますよ、コレ、多分お乳がほしいんですよ」
『私出ねーよ』
「そりゃそうでしょう。誰かァァ乳の出る方はいらっしゃいませんかァァ!!」
うるせー新八頭に響く。
「私、出してみるネ。今なら出せる気がするネ」
「出る訳ねーだろ!なに母性に目覚めてんの!?お前昨日も今ならカメハメ波を出せる気がするとかワケのわからん事を言ってたろ!!」
だからうるさいって。
「アー、私出ソウ。実ハ私昨日カラ腹ノ調子ガ悪クテ」
「だからウンコじゃねーって言ってんだろーが!お前のウンコで何が解決すんだよ。お前の便意だけだろーが!なんかミルクとかあんだろ、人肌に温めてもってこい!」
騒がしい中、赤ん坊はぐずりながらも泣くことはなくて、コイツすげーなって思った。ミルクのやり方なんてよくわかんないから、お登勢さんにバトンタッチ。赤ん坊は嫌がらずミルクを飲み始めた。
「飲んだ!!」
「飲みましたよ!!」
そりゃ飲むだろ。
「わァ、ちゃんと吸ってるヨ。生きてるみたい」
「オイ、コイツにはもう赤ん坊抱かせるなよ」
神楽、アンタ赤ん坊をなんだと思ってんの。
「ちょっと私にもやらしてヨ!」
「ガキガガキニ触ルナンテ百年早ェヨ!」
「ちょっ、押さないで下さい!」
「やかましいよ、ババァに任せときな!ババァは得意だからこんなん!」
まァ、年長者だしな。
「お前はやんねーのか?つか、珍しく大人しいな」
『別に興味ないし…寝不足と二日酔いでそれどころじゃない』
赤ん坊という癒しの存在に、私や銀ちゃん以外の皆は浮き足立って夢中に。
「オイオイ、なんかヤバクねーか」
『んー?』
「みんな、なんか楽しそうだし」
そーだね。神楽とキャサリンなんか喧嘩しちゃってるし。
「ミルク、コレだけじゃ足りないですね」
「しょうがないねェ。買い出しいくかィ、ったく面倒だね」
数十分後、店内にはベビー用品が溢れかえってた。ほら、メリーゴーランドとか、歩行器とか。その他もろもろ揃ってた。面倒ってかノリノリじゃねーかよ。
「なんか、こんなんあった方がいいだろ。ったく、世話焼かせるガキだよ」
「全クデスネ。ダカラ嫌イナンデスヨガキハ」
「ベロベロバー」
「なんだァ?全然笑わないなァ」
店の中今日からこれでいくの?
「…なんか、メロメロだし…」
うん、そうだね。
「よーしよし、金時。お前は親父みたいな人間になっちゃダメだよ」
「万時、こっち向いて万時」
「銀楽、お母さんだヨ銀楽」
「坂田アホノ坂田」
キャサリンのそれは名前なのか。てか…。
「全部、俺にちなんでるしィィ!!」
ホントだね。
ーーーードカッ.
「あっ、オイどこ行くんだィ!!オイぃぃぃ!!」
冷や汗ダラダラ流し目を血走らせていた銀ちゃんは、歩行器ごと赤ん坊を抱えると扉蹴破って逃走。あらら、とうとう耐えきれなくなったね。
「あの野郎、まさかまた捨てに行くつもりじゃ!?」
「させるかァ!!架珠、追いかけヨ!」
『いや勝手に行って来いよ。私もう寝不足と二日酔いで…』
「あのう…」
『!』
ん?
「すいません。ちょっと、お伺いしたい事があるんですが」
振り向くと、見た感じ上等な着物きたジーさんがいた。人探しをしているようで、見覚えないかとお登勢さんに写真を手渡す。
「悪いけど知らないねェ。こんな娘見たこともない。アンタは?」
『知らねー』
見せられた写真の娘は覚えてる限り知らない。
「そーですか。あっ、申し訳ございません。いきなり名乗りもせず不躾に。あの、申し遅れました。私、橋田嘉兵衛と申しまして、このかぶき町で店を開かせてもらってます。ご存知ですか?」
「え゛!!あの大財閥の!?」
「なにそれ?」
「後ろ後ろ!見えるでしょあのデカイ建て物!」
振り向くと確かに飛び出た高層ビルが。なんか聞き覚えはあるな。
「かぶき町のことなら何にでも精通しているというお登勢殿にお聞きすれば、何かわかるかもしれないと思いお伺いさせてもらったんですが」
「悪いね、力になれなくて。で?一体何があったんだィ?」
「………実は…先日、私のたった一人の大切な孫が…あの…突然…いなくなってしまいまして」
「!」
「かどわかし?」
マジでか。
「…断定できませんが、まだ歩くのも覚束ない子ゆえ、恐らく…それで、心あたりをあたってみたところ、その娘が…」
「こんなキレイな人が…」
『キレイだろーがブサイクだろーが、ヤる時はヤるもんでしょ』
「いや、そーですけど…」
「奉行所へは?」
「それが、何ぶんこみいった事情がございまして、あまり公には…」
「事情が事情だし、そんな事言ってる場合じゃないだろ」
「ええ、そうなんですが…なんとも。あの、みなさん、どうか…この娘を見かけたら、連絡だけでもいいのでご協力願います。あの、孫の方の写真も…」
「すいませーん、いないんですかァ」
「!」
あ、客だ。
「おーい、こっちだよ。何か用かィ?」
「!」
お登勢さんの声に、女が振り向いた。
「ん」
…あ、写真の女。
next.
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