似てる二人は喧嘩する
依頼もなくて暇だったから、前から気になってた映画を見にきた。
《ペドロォォォお願い、力を貸してェェ!!お静が…妹が迷子になって…あの子、きっと一人で泣いてるわ!!私、どうしていいかわからないの!!》
《アレ…警察とか電話したか、お前》
《お願いペドロ!!》
《ウチ、今電話とめられてるからなァ》
《お願いペドロ!!》
映画と言えばポップコーンで、片手に有意義に映画見ようと思ったのに、なんか前の前の席の男がグスグスうっさい。つか、どこで泣いてんだよバカじゃねーの。映画聞こえねーよ。
『ちょっと。オイそこの!』
もー我慢できないマジうるせー。
『グスグスグスグスうるさいんだけど、全然きこえないっつの。今ペドロなんつったの。ピンポンダッシュが何?』
「あっ、すまねェ。ペドロはな、どうやらあの娘にピン…!」
『!』
多串君!?
「今度はテメーかァァァ!!なんなんだてめーらァァ!俺の行く所行く所現れやがって!!」
『何の話だボケェ!なに?ナンパ?私に惚れたのか?私に惚れたのか?』
「アホかァァ!!なーんか後ろでポップコーンもっさもっさうるせー奴がいると思ったら!出て行け!スグ出ていけ!」
あ?イラッとして、カップから掴み取ったポップコーンを投げつける。
『うるせェェェ!!歯の裏側についたポップコーンとるのに夢中になってたらねェ、もう映画の内容についていけなくなってたんだよ!もう訳わかんねーんだよ!もう私にはポップコーンしかねーんだよォ!!』
「ぶっ、ちょっ!!」
「んな、うわついたモン食ってるからそんな事になんだ、バカかてめーは!ポップコーンみてーな脳みそしやがって!はじけるのは頭だけにしとけ!」
「ぶべらっ」
なんか間のオッさんも巻き添え食ってるけど知らねー今それどころじゃないこいつムカつくゥゥ!!
『マヨラー侍に言われたくねーんだよ!!そのピッタリヘアーどうやってセットしたの!?マヨネーズでセットしてんじゃねーの!!』
「表出ろコラ!墓前には何をそなえてほしい。ケーキか?ポップコーンか?」
「いだだだだ!ちょっ、痛いって!!」
踏みつけたオッさんが叫んでるけど、やっぱりそれどころじゃないからこいつ殺す。
「オイぃぃ!!」
ん?
「おめーら、うるせーんだよ!!」
「ケンカなら外でやりやがれ!迷惑なんだよ!」
はァ?
『アンタらなに?昼間からこんなクソ映画見やがって、暇人どもが働け…と、この編笠が言ってました』
「はァ!?」
「こっちはイライラしてんだかかって来いや…とも言ってました」
「待てェ!!なんで俺が」
間にいて邪魔だったから。
「上等だコラァァ!!」
「やっちまえェ!!」
「いだだだだ!!ちょっと待ってェェ!俺は関係な…」
掴みかかってきた客共をイライラのハケ口に蹴り飛ばしてやり、胸ぐら掴んだ多串君にこちらも掴みかかり殴りかかろうとした時だった。
ーーーードゴォン.
は…?
「みなさーん」
拳を構えたまま、編笠の男が埋まったスクリーンから声の方へと振り向いた。
「映画は、静かに見ましょう」
へ…ヘドロ閣下…!!
やがて、映画は終わりを迎えスクリーンには完の文字が。
「…泣けるね、この映画」
うん、ホントにね。
全員で椅子に正座して、私らは目頭を押さえて一言も喋らなかった。
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