第一印象がいい奴にロクな奴はいない
「おかわりヨロシ?」
もごもご口を動かし咀嚼しながら新たなメンバー神楽はカウンター越しのお登勢さんに茶碗を差し出した。
「てめっ、何杯目だと思ってんだ。ウチは定食屋じゃねーんだっつの。ここは酒と健全なエロをたしなむ店…親父の聖地スナックなんだよ。そんなに飯食いてーならファミレス行って、お子様ランチでも頼みな!!」
「ちゃらついたオカズに興味ない。たくあんでヨロシ」
「食う割には嗜好が地味だな、オイ。ちょっとォ!!銀時!!何だいこの娘!!もう5合も飯、食べてるよ!!どこの娘だい!!」
二日酔いでもないのにお登勢さんの声が頭に響く気がするのは神楽のせいだ…。
『うるさ…ちょっとバーさん…その程度で喚かないでよ…』
「5合か…まだまだこれからですね」
「もう、ウチには砂糖と塩しかねーもんな」
あの大食らい…もう二度と夜兎とは関わらない。
「なんなんだいアイツら。あんなに憔悴しちまって…ん?」
炊飯器ごとご飯を飲むように口に運ぶ神楽にぞっとした。
「って、オイぃぃぃ!!まだ食うんかいィィ!!ちょっと、誰か止めてェェェ!!」
いや無理でしょ。カウンターからこちらへとやってきたバーさんに、私らは事の経緯を説明した。
「へェ〜。じゃああの娘も出稼ぎで地球に。金欠で故郷に帰れなくなったところをアンタが預かったわけ…バカだねぇ、アンタも。家賃もロクに払えない身分のクセに、あんな大食いどうすんだい?言っとくけど家賃はまけねぇよ」
「俺だって好きで置いてる訳じゃねぇよ。あんな胃拡張娘」
――――ガシャン
「なんか言ったアルか?」
「「『言ってません』」」
銀ちゃんへとグラスを投げつけた神楽に、私らは気絶した銀ちゃんに代わって声を揃えて言った。
「いだだだだ」
「アノ、大丈夫デスカ?」
ん?
「コレデ頭冷ヤストイイデスヨ」
現れたのは団地妻のような顔に何故かネコミミというアンバランスな女。え、誰?
「あら?初めて見る顔だな」
『新入り?』
「ハイ。今週カラ働カセテイタダイテマス。キャサリン言イマス」
名前までミスマッチだよ。
「キャサリンも出稼ぎで地球に来たクチでねェ。実家に仕送りするため頑張ってんだ」
『ヘェ〜たいしたもんだ。どっかの誰かなんて己の食欲を満たすためだけに…』
――――ガシャン
「なんか言ったアルか?」
「「「「言ってません」」」」
くっそチャイナが…。
――――ガララ
「すんませーん。あの、こーゆもんなんだけど。ちょっと捜査に協力してもらえない?」
やってきたのは役人だった。
「なんかあったんですか」
「うんちょっとね」
『なに?』
「この辺でさァ、店の売り上げ持ち逃げされる事件が多発しててね。なんでも犯人は不法入国してきた天人らしいんだが、この辺はそーゆー労働者多いだろ。なんか知らない?」
それなら…。
「『知ってますよ。犯人はコイツです』」
――――ボキッ.
――――ドスッ.
い゛っ!?
「『おまっ…お前なにさらしてくれとんじゃァァ!!』」
銀ちゃんは差した指を変な方向に折られ、私はスネを折れるほど蹴られた。もうこれ立ち直れない。
「下らない冗談嫌いネ」
「てめェ故郷に帰りたいって言ってたろーが!!この際、強制送還でもいいだろ!!」
「そんな不名誉な帰国御免こうむるネ。いざとなれば船にしがみついて帰る。こっち来るときも成功した。なんとかなるネ」
「不名誉どころかお前、ただの犯罪者じゃねーか!」
『だったら今すぐそうして帰れ犯罪者!!』
ギャーギャーともめ出す私ら。
「…なんか、大丈夫そうね」
「ああ、もう帰っとくれ。ウチはそんな悪い娘雇ってな…」
――――ブォンブォン!!
ん?店の外を見ると、原チャリに跨るのはキャサリン。
「!?」
「アバヨ、腐レババア」
「キャ…キャサリン!!」
えっ、ちょっ、もしかしてキャサリンが犯人!?
「まさかキャサリンが…」
原チャリに乗って去っていったキャサリンを信じられないというふうに見るバーさん。
「お登勢さん。店の金、レジごとなくなってますよ!!」
あらホント。レジごとなんてガッツが凄いわ。
「あれ、俺の原チャリもねーじゃねーか」
『キャサリンに乗ってかれてたよ』
「あ…そういえば私の傘もないヨ。架珠の扇もないネ」
『は?マジで?』
神楽に言われて見てみれば確かにない。
「バーカ」
キャサリンが去っていった方を見ると、それに気づいたキャサリンからの罵声。
「あんのブス女ァァァァァァ!!」
「血祭りじゃァァァァ!!」
『地獄を見せたらァァァァ!!』
私らは停まっていたパトカーへと乗り込む。ちなみに私は運転席。
「ちょっ…何やってんの!?どこいくの!?」
慌てて新八も乗り込んだ。
「おいィィィィ!!ちょっと待ってェェェ!!それ、俺達の車なんすけど!!」
役人の言葉なんて丸無視してエンジンかけると出発した。
「ちょっとォォ!!」
「おいいっちゃったよォ!!」
「どーすんの!?」
「……………」
*
「ねェ!とりあえずおちつこうよ三人とも。僕らの出る幕じゃないですってコレ。たかが原チャリや扇や傘でそんなにムキにならんでもいいでしょ!」
後部座席から新八が必死に言ってくる。
「新八。俺ぁ原チャリなんてホントはどーでもいいんだ」
「!」
「そんなことよりなァ、シートに昨日借りたビデオ入れっぱなしなんだ。このままじゃ延滞料金がとんでもない事になる。どうしよう」
「アンタの行く末がどうしようだよ!!」
「延滞料金なんて心配いらないネ。もうすぐレジの金がまるまる手に入るんだから」
「お前はそのキレイな瞳のどこに汚い心隠してんだ!!」
ホント、末恐ろしいガキだね。
「てか架珠さん免許持ってないって言ってませんでした!?なんか普通に運転してますけど」
『泥棒はねるのに免許なんて必要ねーだろ』
「オイぃぃぃ!!ぶつけるつもりかァァ!!」
「お前、勘弁しろよ。ビデオ粉々になるだろーが」
「お金も木っ端みじんネ」
「ビデオと金から頭離せ!!」
漸くキャサリンに追いついた頃、向こうも私らの存在に気づきやがった。
「あっ、路地入りやがったぞアイツ!!」
『うるあァァァァァ!!』
構わずハンドルを手早くきると、キャサリンの後を追って路地へと入った。狭いから横が崩れていってるけどムシムシ。
「オイオイオイオイオイ」
「なんかもうキャサリンより悪いことしてんじゃないの僕ら!!」
「架珠!そのまま突き進むヨロシ!!」
『まかせろ!』
「お前は煽るな!!」
『死ねェェェキャサルィィィィン!!』
――――ボン
「「「『あれ?』」」」
勢いよく飛び出せば車は道を通り越し川へと飛び出た。右道にキャサリンはしっかり避難しているのが目の端で見えた。
「「「『あれェェェェェェ!!』」」」
―――ドボォン
んにゃろキャサリン…!私は車から出ると水の中にもかかわらず外へと飛躍した。隣を見ると銀ちゃんも。
銀ちゃんは木刀を持っていたが私は扇をとられていたので…。
――――ゴン.
――――ドスッ.
橋の上でバーさんに突進しようとしていたキャサリンには、蹴りをお見舞してやった。後から来た役人にキャサリンはたんこぶ二つ作ってつれてかれた。
『仕事くれてやった恩を仇で返すなんてねー』
「仁義を解さない奴ってのは、男も女も醜いねェババア」
橋の上。話す私らの背後で新八は金目のものを盗もうとしている神楽を止めている。
「家賃を払わずに人ん家の2階に住み着いてる奴らは醜くないのかィ?」
「『ババア、人間なんてみんなみにくい生き物さ』」
「言ってることメチャクチャだよアンタら!!」
自分の事になると話は別になるんだよ。
「まァ、いいさ。今日は世話んなったからね。今月の家賃くらいはチャラにしてやるよ」
おお。
『マジでか?ありがとうバーさん』
「再来月は必ず払うから」
「なにさりげなく来月スッ飛ばしてんだ!!」
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