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百万編の詩より一吠えのワン




「架珠ーーーー!!」
「架珠さーん!!」


くそ痛ェェェ。妙なモンは見えるしさァ。


「架珠!」
『!銀ちゃん後ろ…!!』
「!」


ーーーーガチン.


「つあっ」


噛みつこうとした定春を避けた銀ちゃんだけど…。


「!!うおっ、あぶねっ!!」


避けた先に巫女姉妹。


「「ぶわっ!!」」


あー直撃。


「ちょっとォォ!!何すんのよォ!!また呪文が途中で途切れちゃったじゃないのよぉ!」
「銀さーん!大丈夫ですかァ!?」


銀ちゃん!?


「ピー」


慌てて駆け寄ると銀ちゃんと百音は笛の両端を咥えていた。

あ゛?


「てめーらァァ!この非常時に何合コンみてーなことやってんだァァ!!」
「ポッキーかァ!!ポッキーをあの両はじから食べるアレかァァ!!」
『人が体はって頑張ってる時にふざけんじゃねーぞゴラァァ!!』
「ピーピー!」


蹴りつければなんか笛鳴らしはじめた。


「ピッピッピッピッピー!」
「なによ?なにが言いたいの?」


手で待ったを示すからとりあえず蹴るのはやめる。てゆーか…。


「アンタら、まさかその笛はずれないの?」
「ピ〜〜〜」
「だからどっちのピーよ、それは。「はい」か「いいえ」か?」
「ピ〜〜〜」
「だからどっちだって言ってんだろーが!!」


マジかよオイ。


「ふざけんじゃないわよ。その笛がないと狗神を元に戻す呪法も使えないのよ!!」
「ピーピッピッピッ」
「阿音さん!「痛い痛い痛い!」って言ってるピーですよこれは多分!」
『妹涙目だぞ』
「違うわよコレ、「もーちょいもーちょい」のピーよ!ねっ、百音!?」
「ピーヒョロピッ(死ねアバズレ)」
「誰がアバズレだァァ!!」
『わかんのかよ!?』
「通じてんじゃないすかァ!!」
「ピンときたのよピンと!悪口には敏感なのよ!」


……なんか、背後に気配が。そういや定春どうしたっけと振り向けば、その定春がすぐ後ろにいた。


「ぎゃあああ!」
「出たァァァァ!!」
『こっち来たァァァ!!』


猛スピードで走り出してハッとした。


『銀ちゃんと百音は!?』
「あっ、あの二人忘れてきた!」
「百音!!」


ん!?


「うおおお逃げてる!!」
『気持ちワル!なんか別の生き物!?』


二人肩を掴みあって必死に走る様は気色悪い。


「でもアレ、要は二酸化炭素をお互い交換してるだけで苦しくなる一方ですよ!!」
『虫の息だ!既に虫の息だ!』
「ピピピピ!ピピピピピ!!」


脂汗浮かせながら顔を青ざめた銀ちゃんの腹部に百音は連続パンチ。


「オ゛エ゛」
『ちょっと何事ォ!?』
「オイイイ!ケンカしてる場合じゃねーよ!」
「おーい、歯ァくいしばれ」
「!」


神楽!?


「わたァァァァァ!!」
『とれたァァ!!』


上から笛を蹴り壊して落下した神楽に、笛がやっととれた。


「歯もとれたァァァ!てめーが歯ァくいしばれっていうからァァ!!」
「気にするなアル。また生えるヨ」


百音まだとれてねーぞ。


「ああっと!飼い主達が球場の中へ!続いて巨大犬も中へ!!一体球場はどうなってしまうのでしょーかァァ!!」


とりあえず金は払いたくないな。


「ちょっとォォ!!どうするんですか、笛も壊れちゃいましたよ!」
「狛子!!」


あ、ちっちゃい定春。


「かくなる上は、狛子を覚醒させて対抗するしかないわ!百音ェ!!」
「ピー」


その苺とコーヒーフレッシュはどこに持ってたの?


「オン マカヤシャバザラサトバ ジャクウンバンコンハラベイシャーワン」


ぱくりと、狛子は苺とコーヒーフレッシュを食べた。


「目覚めよ、狗神ィィ!!」


狛子から光が放たれると、狛子の容姿が変わり始めた。定春と同じ厳つい顔だ!


「ぎゃおおおおおうう」


サイズは子犬そのままだ。


「ちっさ!!なんですかコレェェ!顔ゴツくなっただけで何も変わってないじゃないスかァァ!!」
『こんなチビに定春を任せんの?』
「狗神は攻めを司る者と、守りを司る者、必ず二体存在するの。狛子は守りを司る狗神。ちょっとやそっとじゃ抜けないわよ」


ーーーーブン.


「!!これは…結界!?」


現れた半透明の壁に阻まれ、定春はこちら側に来れなくなった。すげー。


「さっ、時間を稼いでる間に早く!私に考えがあるの」


考え…?

私らは球場までやって来た。


「ここに私が験力を込めた球があるわ」


野球ボールには星のマークが。


「みんなにこれで、今からキャッチボールをしてもらいます」
「キャッチボール?」


なんでキャッチボールを?


「幸運なことに私達は全員で六人。五人で球をやりとりすれば五芒星が描けるわ。五芒星は陰陽五行の相生相克をあらわす宇宙万物の除災清浄となる、いわば強力な魔除け」
「せんせー、神楽さんが授業についていけなくて寝てます」


しっかりしろや神楽。


「要するに、この球の軌跡で五芒星を描けば、この球場に巨大な呪法陣を敷けるのよ。それにあの子をとじこめれば、あの子の覚醒も解けるかもしれない」


笛がない今、それしか方法はないわけか。


「ただ一つ問題なのは、閉じこめなければいけないってこと。呪法陣をつくってから中に招き入れても意味はない」
「それじゃあ定春を囲い、その攻めにたえつつ五芒星を?」
「ええ。五芒星は五人いれば足りるから、残り一人はあの子の気を引く、いわば囮になってもらうわ」


直後、その場におとずれたのは静寂。


「じゃんけんぽん!!」
『あ゛あ゛あ゛あ゛わかってたよ負けんのは私だろーってなァ!』


一人パー出した私が囮役決定に。ヒロイン補正の宿命くらいわかってたよ!!


『でも無茶じゃね!?私一人でしかも五芒星の中を逃げまくるの!?』
「無茶でもやるしかないヨ定春助けるにはそれしか手がないネ。で?キャッチボールって何?」
『神楽今すぐ私と代われ』


頭にグローブ乗せるような奴に任せられない。

ーーーードォン.


「わぉぉぉぉぉん」
「来た」


結界を破ったらしい定春が、スタンドを破壊して現れた。


「四の五の言ってる暇はないわ!みんな位置について!」
『チッ』
「架珠!」


不安そうにこっちをみた神楽に、ため息がこぼれる。


『わかってるって。安心しなよ、定春は傷つけないから』
「!うん!」


んな嬉しそうにされたらホント、頑張るしかないじゃん。

五人はそれぞれ位置につき、私は定春と中央で向かい合う。………私、死なないよね?ヒロイン補正で守ってね。


「よっしゃ!プレイボーイぃぃ!!」


プレイボールな。


「オ゛イぃぃぃぃぃどこ投げてんだァァ!!しょっぱなからエラーかァァ!!」


阿音の投球は次の新八がいた場所からはなかなかにそれた方向だった。


「いけない!球を落としたら込めた験力がパーよ!!絶対に落としちゃダメ!!」
「それを早く言えェェ!!」
『新八ィィ!落としたら定春のエサだかんなァ!!』


定春と地獄の鬼ごっこをしながら怒鳴る。マジ落とすなよ!!


「うおおおお!!燃えろォォ俺の何かァァ!!」


何かって何?

ーーーーバシン.


「捕ったァァァ!!」
「新八ィィ!オメーはやればできる子だと思ってたぞ!!」


ベンチへと突っ込みながらもなんとかキャッチした新八ナイス!


『新八、次投げろォォ!』
「百音さァん!!」


早く終わってェェェ。


「百音ェェェ捕れェェェ!!」
「ピィィィ!」


ーーーーガン.

…顔面?


「何してんだてめェェェェ!!できねーならできねーって言えェェ!!」
「ピ〜〜〜」
「だからどっちだァァァ!?」


まさか顔面バウンドさせるとか思わなかったよ!?


「落ちるぅぅ!!」
「ふぬおっ!!」


地面に落ちる直前に銀ちゃんはスライディングキャッチ!


「銀ちゃんさすが!」
「神楽ァァァいくぞォォ!!」


ーーーーブォ.


「げっ!!」
『!?』


定春から逃げながら顔を向けると、ボールが飛んできた。

ーーーードン.


『ぶッ!!』


いってェェェェ!!


「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「架珠ーーーー!てめー何でそんな所にいんだァァァ!!」
『うるせー!こちとらデッドオアアライブで周りなんか見てられるかァ!』
「ってゆーかボールが!」


ハッと新八の声に見ると、ボールは私の顔面をバウンドして誰もいないスペースを落下中。

げえええええ!


「ダメだァァァ!カバー間に合わねェ!」
「ほああああ!!」


ダッシュする阿音の横を神楽が走り抜けた。


「あちゃあああ!!」


おお!


「けったァァァ!!ようやく五人目」


よっしゃ!あと少し!


「あれ?五人目ってアンタじゃなかったっけ?」
「アレ?なんでいんだ」


は?


「げェェェェ!!誰もいねェェ!!」
『おいィィィィィ!!』


くっそ…間に合うか!?


『!!』


慌てて定春引き連れながらだけど五人目のポジションまで向かおうとしたが、私より先にその場所に立つ姿が。


「百音ェェ!!」


あ、笛とれたんだね。


「百音ェ、無理よ!ドンくさいアンタがそんな豪速球受け止めるなんて!逃げてェ!!」
「…姉上、もうやめましょう。途中で放り出すのは。あの子をあんな化け物にしてしまったのは私達です。どんな事情があったにせよ、一つの命を捨てるような所業をしてしまったのだから…皆様方を見て思いました。あなた達はあの子がどんな姿になろうと、決して手離そうとはしなかった。神子とか…ペットとか、そんなことも関係なしに。ただ一人の家族として、あの子を必死に護ろうとしていた」


百音がグローブを構える。


「今からでは遅いかもしれませんが、私もあの子の家族になりたい。だから、もう逃げない。全てこの手で受け止めます。あの子をこの手で…受け止め…ぶふォ」


結局顔面かい!!


「ああ、高くあがった!!」
「最後の一手!!最後の一手を!!」


百音にはもう無理だと新八や神楽が走り出したが、アレは間に合わない。あと私も限界だよそろそろ!!


「よくやったよ、お前。あとは俺に任せな」
『銀ちゃァァァん!』


逃げながら拝借したバットを、百音の前に立った銀ちゃんへと投げ渡す。キャッチした銀ちゃんはバットを大きくスウィングした。


「定春ぅぅぅぅ!!目を覚ませェェ!!」


盛大な音を立てて打たれたボールは阿音の方へ。あまりの球の速度に狼狽える阿音の背中を神楽が支えた。


「ぶォォ!!」


よっしゃキャッチした!!

なんて安堵すると疲れた足がもつれて顔面から転けた。いってェェェェなんか今回こんなんばっか!


「定春ぅぅ!!」


盛大に息切れしながら顔を上げると、後方で眠る定春はいつもの定春で、嬉しそうに涙しながら神楽と新八は抱きついていた。どうやら、成功したようで。


「おーい、生きてっかァ?」
『……死ぬぅぅ〜…』


もう無理ー…。


「あーあ、あんなに泣いちゃって」
「……本当に家族なのですね」
「…でも、それも今日でおわりよ。あんなものを見てそれでも今まで通りあの子と一緒に暮らしていけると思ってるの?」


のろのろと起き上がり、その場に座り込む。


「姉上…私達に今さら何か言う資格があると?」
「わかってるわよ。私もそこまでずうずうしい女じゃないっつーの」


阿音がこちらを見た。


「…アンタらの好きにしなさいよ。いらないっつーなら連れて帰るし。心配しなくても、もう捨てるなんてしないし。キャバクラでけっこー稼いでんのよ今は、ワハハ」
『……どーすんの、銀ちゃん?』


ニヤニヤと笑いながら問いかけると、銀ちゃんはボリボリと後ろ頭をかいて「アホらし」と言った。


《今さらイチイチそんなこときくんじゃねーよ。んなもん決まってるだろーが、定春は…》


ーーーープツン.

眺めていたテレビの電源を消した銀ちゃん。


『あれ?もう見ないの?』
「くだらねー番組なんざ見る気しねーよ。モザイクだらけじゃねーか、AVじゃねーんだよ」


あそこまで見たんなら最後まで見りゃいーのに。ニヤニヤすると「笑うなキモい」と何か額に投げられた。


『いった!?何投げて…ん?なに、まだ捨ててなかったのこのガラクタ』
「捨て忘れだよ。ゴミ箱にでもいれとけ」
「銀さーん、架珠さーん、早くしないとおいてきますよ」
「はいよ〜。あ、オイあれもったか?」


出て行き間際にゴミ箱へと翻訳機を捨てる。


「ウンコ袋。マナーを守れない飼い主にペットを飼う資格はねーぞ」
「ワン」
「わんじゃねーよ。ったく、世話の焼ける野郎だぜ」


ゴミ箱の中の翻訳機には、ありがとうと示されていたけれど、そんなの知らない私らは日課の定春の散歩にみんなと出かけた。


next.

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