ギャンブルのない人生なんてわさび抜きの寿司みてぇなもんだ
銀ちゃん、マダオと賭博に来たら、見事に銀ちゃんとマダオの二人は身包みはがされた。
「いやぁ〜、冬じゃなくて良かったな。凍えるところだったぜ」
「そーだな。財布の方は一足早く冬を迎えちまったがな」
「いやぁ〜ホントついてるぜ」
「そーだな。ついてるな。貧乏神的なモノが絶対憑いてるな」
ポジティブもそこまで行くと痛々しいよ銀ちゃん。
『銀ちゃんもマダオもさァ、賭け事向いてないんだよ。もうやめたら?』
「んだてめー。一人だけ勝ちやがって」
「架珠さん、アンタほとんど勝ったよな。いいよなァ、俺にも分けてくれよその幸運」
『幸運っつーかアンタら二人と違う方選べば大概は勝てるって私思ってるから』
「俺らのことどんな風に見てんの架珠さん」
『貧乏神』
「俺ら基準にしといてよく言うぜ」
「そーいや最近左肩が重いんだよね、意味もなく。なんか乗ってるカンジなんだよね、貧乏神的なモノが」
お祓いしてもらえよ。
「気にしすぎなんだよ。陰気なツラしてたら、ツキも逃げちまうぜ。俺もよォ、最近なんかデケー鎌もった不気味なオッさんが視界にちらつくんだけど、もう気にしないことにしたよ」
「『それは気にした方がいいと思う!!』」
今すぐ神社かお寺行ってこい!
「架珠にもな、そのうち来るぜ」
『いや来ねーよ。お前だけだよそれ』
「いやいや。ホラ、言ってるそばから」
は?
「お前の後ろに…」
振り向くと、フードかぶった知らない真っ黒な奴がいた。
「『ギャアアアアアアア!!』」
「悪霊退散!妖魔降伏!えろいむえっさいむ!てくまくまやこん!」
んだこの怪しい奴はァ!?
「ぬお!!」
バサバサとフードの奴が放り投げた着物がマダオに降りかかる。
「…ついてるだついてねーだ。アンタらそれでも博打打ちかィ?」
「?こいつァ俺達がひっぺがされた着物。あんた…」
「ババアの炊き出しじゃねーんだ。待ってるだけじゃツキは回ってこねーよ。ギャンブルの女神は自分で口説きおとさなきゃあよ」
フードの下はダンディーなオッさんで、右目には傷がついていた。つか誰?
様子見てると勝ちまくってて、野次馬の話を統合すると、奴はツキヨミの勘兵衛といって、恐るべき強運を持つ伝説の博徒だとか。
「…伝説の博徒だかなんだかしらんが、ギャンブルの女神がこんな尻軽だったとはよ。俺があんなに必死に口説いても見向きもしなかったのに」
「妻帯者には興味ねーんだろ」
『大人しく奥さんの尻だけ追ってれば』
「ハツなんて実家に帰ったきり全然帰ってこねーよ。一夜の過ちぐらい犯してくれてもいいだろ」
「ああいうワイルドなカンジが好きなのかね?女神様は。ああそーだ、きっとそーだ、ワイルドでいってみよう」
で、ワイルドにイメチェンして再度挑んだ二人はまた身包みはがされた。
『しかも私の勝った分でやりやがってェェ!な〜にが倍にして返すだ!!この疫病神共がァ!』
まじ数分前の自分血迷ったわ!!
「…なんだ、何が悪いんだ。ワイルドさが足りねーのか」
『バカさ加減なら足りまくってるけどな』
「なんかもっと「俺なんてどーでもいいんだ」みたいなカンジ出ねーかな。長谷川さん、パンツ脱げ」
なんでそーなる。
「オイオイ、いいけどあんまワイルドじゃねーぞ、俺のは。どっちかっつーとマイルドだ」
「アンタら何してんだァァ!!」
あ、さっきのオッさん。
「人がせっかく着物とりかえしてやったのにバカかァァァ!!もう帰れェ!!お前ら博打向いてねーんだよ!」
「アンタが勝手にやったことだろう。頼んだ覚えはねぇ」
「それともアレか。ワイルドさに垣間見えるその優しさが、女神をおとすコツなのか。大概なもんだなコノヤロー健康に気をつけてよ」
「無理矢理優しさ垣間見せてんじゃねーよ!!」
とりあえず、バーカウンターに腰を落ち着ける。
「ギャンブルやってる奴にはなァ、二種類の人間がいる」
ちなみに銀ちゃん達の着物はオッさんがまた取り返してくれた。
「一つは単純に博打が好きな奴、二つは博打を打ってる自分が好きな奴。後者がタチが悪い。無茶な賭けをする、自分に陶酔してやがて持ち崩す。腕のいい奴程手堅い博打を打つ。危ねー橋は勝てるとふんだ時以外渡らねェ。俺の見たところアンタらは二だ。悪いこたァいわねェ。もう博打はやめるこった」
「二じゃねーよ三だ」
「ねーよそんなもん」
「ある。切実に金が欲しい奴だ、楽してな」
「働けェェェ!!」
最もだけどさ…なんかね?やっぱり楽して儲けたいなってね?
「お前に労働者の気持ちがわかるか。ギャンブラーなんざ、遊び人みてーなもんじゃねーか」
「いや、違うな。人生なんていわば博打みてーなもんだ。人はみなギャンブラーさ」
「『うるせーよ』」
マダオまたウザいこと言い始めたよ。
「とにかく、ギャンブラーとしては神聖な賭場でパンツ一丁は気分がよくねェ。これ以上ここを汚すと許さんぞ」
席を立ったオッさんはその場を去って行った。
「………妙な野郎だな」
『だね』
「?」
あ。
カウンターに置き忘れられたオッさんの忘れ物を手に、私らはオッさんを追った。
「あれェェェェェェ!!どうしてこんな事になった!?」
あ、いた。つーか褌一丁になってんだけど。ボロ負けしたんだな。
「何をどこで間違った?」
「オウオウ。神聖な賭場を褌一丁で汚していいのかね?」
「ぬっ、お前ら!」
振り向いたオッさんに私らは忘れ物を見せつける。
「おまけにイカサマで自分の名前まで汚しちまって。どう思うよ架珠ちゃん、長谷川さん?」
『裏切られたショックで女神も張り手喰らわせて実家に帰るね』
「手品でギャンブルの女神を口説こうなんざ、姑息だよ姑息。伝説のギャンブラーがきいてあきれるな」
トランプやサイコロや花札など、オッさんは様々な種類のイカサマ道具を揃えていた。これ忘れるとかアホかオッさん。
「……フン、言っただろう。ツキは自分で掴みとるものだと」
「オイもうダンディー路線は無理だ。自分の格好を見ろ」
褌一丁じゃただのイタいヤツだよ。
「しかしお前ら本当に悪運が強いらしいな。どうやら俺のツキももっていかれちまったようだ」
「だからよ〜一つお願いしますよ。俺達の悪運をそのイカサマで吹き飛ばして、ひとっ稼ぎしていただけないでしょうか?だまっててやるからよ〜」
「お客様〜」
マダオが言っていた時だった。
「ちょっとこちらに来ていただけますか?」
振り向くとスーツ着た天人達に囲まれていた。
「いや〜ホント憑いてるな〜僕たちって」
ホントにね。
「ほう。こ奴らがわしの賭場でイカサマを働こうとした者達かえ?たいした度胸じゃのう」
縄で縛られた私らは別室に通され、目の前には天人の女。
「このかぶき町四天王が一人、孔雀姫華陀を出し抜こうとは…死ぬ覚悟はできておろうのう?」
この女が四天王の一人かよ。初めて見た。
「待て待て!俺達はイカサマなんて…ぶぶォ!!」
「言い訳がましい男は嫌いじゃ。おぬし、それでもギャンブラーかえ?」
マダオの腹部を足蹴にした華陀が蔑む。
「オイオイ、随分とおっかねー女神様だな」
「かぶき町のほとんどの賭場をしきる女豹よ。アレの縄張りでトラブった奴で、生きて帰ってきた奴はいねェ。俺達もこのまま海の底だな」
それは嫌だ。なんかマダオめっちゃボコられてんだけど。
「ん?どこかで見た顔だと思うたら、おぬしは勘兵衛…ツキヨミの勘兵衛ではないか?」
知り合い?
「ほォ、あの江戸で最強をうたわれた伝説のギャンブラーが、ただのイカサマ師だったとは。そなたの名はわしの星にまで轟いておったというのに。ツキを読み、どんな劣勢もくつがえす男だと」
このオッさんマジでそんな凄かったのか。
「昔の話さ。今はもう目が塞がっちまって何も見えねェ。ただのイカサマ師だ」
「ほォ。その塞がった右目ならばツキが見えると…面白い」
孔雀の羽根を模した扇子を口元に当て、華陀は目を細める。
「風の噂できいた。おぬし、五年前にある大博打に負け右眼を失ったと。だが右眼で見えるものが左眼で見えぬわけがあるまい」
なんだ?
「ぬしらに最後のチャンスをやろう」
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