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Mってある意味無敵




ーーーーぐぎゅるるるるる.

目の前に置かれたご飯やパフェやケーキや肉に、ご無沙汰の私らの腹から盛大に音が鳴る。


「どうした?食べんのか。金の事は気にするな、今日は俺がもつ」


しれっとした顔でそう言うのはヅラだ。今日私らはヅラに呼び出されて店にまで来たのだが…。


「………手ェつけるんじゃねーぞ、てめーら。この顔は何か企んでる顔だ。またロクでもねー話もちかけにきた顔だよ、こりゃ」
「邪推はよすがいい」
「幾ら腹減ってたってねェ、食べ物で釣られる程僕ら安かないですよ。甘かったですね桂さん」
「ホント甘ェーよ、特にこのチョコとろけそーだよ」
『スポンジふわっふわ!』
「すいませーん!!おかわりいいですか!?」


お腹すいていたからしょうがない。新八は隣で驚愕の顔して固まってたけど。

欲に負けてご馳走になった私らはとりあえず話だけでも聞くことにしてヅラについて行くと、エリザベスが檻の中に捕らえられていた。


「俺がうかつだった。エリザベスは常に俺のそばにいた。役人に目をつけられてもおかしくなかったのだ」


木の上から双眼鏡でその様子を眺める。


「しばらく見かけないと思っていたら、あの様さ。近頃の攘夷浪士に対する幕府の姿勢は相当に厳しいものがある。このままでは確実にエリザベスの首は飛ぶ」
「そーかい、そいつァよかったな。これでどっから首でどっから顔か、ハッキリするんじゃねーか」
「甘味処一年フリーパス券でどうだ?」
「そんなモンで奉行所乗り込んでたら首が幾つあっても足りねーよ」
『あんま私らナメんなよヅラ』
「ヅラじゃない桂だ」
「大体てめーの仲間はどうした?こういう時こそ一致団結して助けにいきゃいいだろーが」
「つかまった同志は見捨てるのが我々の暗黙の掟。ここは俺が動くしかない。それに連中は国の明日を担う未来の星…その命、無下には扱えん。その点、貴様等は明日もクソもないから適役だ」
「よーし帰るぞてめーら」
『じゃあな指名手配犯』
「待たれーい!」


誰が手なんか貸すかボケ。

さっさと背を向け私らはヅラを置いて帰っていたが、結局しつこいヅラに私らは手を貸す事に。


「え。奉行所に忍びこむですってござる?」


くノ一カフェでバイトしていたさっちゃんを頼りに来た。


「いや、こいつがね、いくってきかねーんだよ。で、お前忍者じゃん。そういうの得意じゃん。頼むわ」
「頼むって何をでござる?」
「いや忍者にしてやってくれ」
「忍者なめてるでござるか?」
『とりあえず語尾に「ござる」つけるみたいだよヅラ』
「いやコレはウチの店長が」
「ヅラじゃない桂でござる」


そんな感じでいいんじゃね?


「そんな一朝一夕で忍者になりたいって言われてもね」
「アタイらはねェ、血のにじむような特訓を乗りこえてくノ一になったんだよ。ナメんなよでござる!」
「店長、あなたただの主婦でしょ」


店長はちょっと黙っててほしい。


「ならばどうか一緒に来てもらえんだろうか?さっさん」
「ちゃんでいいです」
「仲間がこのままでは処刑されてしまうんださっくん」
「ちゃんでいいですっていってんだろコノヤロー」


ヅラにされるとイライラ度が増すな。


「…………悪いけど、私、昔将軍様にお仕えしてたから、幕府相手に下手なことはできないわ。今日だって幕府関係者から仕事の依頼が…ホラこれ」


さっちゃんが見せた携帯画面を見ることなく、銀ちゃんは木刀で携帯を吹っ飛ばした。


「てめっ、なめてんのか。仕事中に客の前で携帯いじくってんじゃねーよ」
「……フン、厳しいのね」
「なんで赤くなるの?なんで赤くなるの?」


ホントなんでだよ。


「これで幕府とのつながりはなくなったな。協力してく…」
「おいィィ!!何してんだァァ!?早くお茶もってこい!」


向こうから客が痺れを切らして叫ぶ。


「御意!今スグいくでござる。ごめんなさい、私やっぱりこの昼の仕事も忙しいから。さらば!」


忍者らしい動きでその場を去ったさっちゃんだけど、テーブルの上に飛び降りるわ客の顔面にケーキぶつけるわで大失態。


「はっ!眼鏡が…」


いつの間にか消えていたさっちゃんの眼鏡。


「明日から来なくていいから」
「えっ、そんな店長ォォォ!!」
「店長こっち」


相変わらず眼鏡ないと何も見えねーなさっちゃん。それ客だよ。


「おーい、こっちこっち」
「!」
「眼鏡忘れてったぜ」


憎たらしい顔してフレームを押し上げる銀ちゃん。忘れてったってか、去る前に銀ちゃんが奪ったんだけど。


「ダメだよ〜。さっちゃんはホントそそっかしいな〜」
「しかし、これで足枷はなくなったな。いくとするか」


あいつらいっそ清々しいな。


「あの…さっちゃんさん…ごめんなさい…」
『謝ることないんじゃね?』
「いやでも…」
「ああ…もっといじめてほしい」
「え゛え゛え゛え゛気持ちワル!!」


ほら。


「それじゃあ、あまり時間がないみたいだけど、今から忍の極意を即席でアナタ達に叩き込んであげるわ」


近場の神社に集合して、私らはさっちゃんから手解きを受けることに。


「いい?忍は誰にもしられず仕事を成し、仕事を成したこんせきすら残さない完璧なる影…だから、目立つようなことは絶対に厳禁」
「どこが隠密!?カラフルすぎるだろコレ!戦隊レンジャーか!?」


さっちゃんが用意したものに着替えると、ヅラは黄色、神楽は赤、銀ちゃんは白、新八はホルスタイン柄、私は目に痛いピンク色だった。


「いや、顔の見分けつかないから。私銀サン以外の人類はみんな同じ顔に見えるの」
「道端の石ころ!?」
「あっ、銀サンマフラーがずれてるわ。もう、おっちょこちょいなんだから。私がいないとダメね」
「おっちょこちょいはお前だァァ!!」
『お前それ木だぞ頬染めてんじゃねーよ!!』
「結局誰も見分けついてねーじゃねーか!眼鏡かけろ!」


派手な服着た意味がない!


「どうでもいいが何で俺が黄色なんだ。リーダーは普通赤だろう、赤がいいです」
「でしゃばるなヅラ。赤は私のシンボルカラーネ。リーダーは私ネ」
「納得いかんがそういう割振りなら仕方あるまい」
「リーダーとして命令するネ。イエロー、お前はカレーが好物だ。常時カレーを持ってろ」
「お前いい年したオバさんがピンク着てんじゃねーよ。俺と交換しろ」
『誰がオバさんだって?あ?ピンク着たオッさんの方がありえねーよ。頭とお揃いの白でいいじゃん』
「俺の頭は銀色だっつの。この服じゃカレーうどんも満足に食えねーよ。あ、新八よォ、コレとりかえてくんねー?」
「カレーうどんなんて食べにいかねーから!ってか何しに来たんだてめーら!!」


忍者になりに。


「それじゃあこれから、あなた達の忍者適性を見させてもらうから」


場所を移して商店街。


「ここはね、通称「忍者通り」と呼ばれ、私達忍者が修業する際よく使われているところなの」


この商店街が?


「江戸で活躍する忍者はみんな、ここで影になる術を身につけ巣立っていくのよ」
「でも、修業できるような施設何もありませんよ。ただの通りじゃないですか」
「スポーツジムで忍者になれると思ってんのかてめーは。メガネ死ねコノヤロー」
「何!?なんで僕に対してはSなの!?」


新八だからだよ。


「なる程。人から身を隠す術は、人の中にあってこそ身につけられるということか」
「そういうことよ…で、なんでカレーもってるの?」


アホだろヅラ。神楽に付き合って本当に用意してんじゃねーよ。


「さっちゃんよォ、で…具体的に何をやるわけ?」
「アレを見て」


さっちゃんが指さした先は本屋だった。


「成程店員に気づかれないように本を万引…」


さっちゃんの手刀が銀ちゃんの脳天にチョップ。そらそーだ。


「いい?これから店員にも客にも気づかれることなく、好みのエロ本を買ってきなさい」


は?エロ本?


「はァァ!?なんですかそれェェ!?そんなん忍者と関係ねーじゃん!!」
「これは忍者スクールにも正式に採用されている立派な試験よ」


忍者スクールとかあんの?


「みんなここを通って大人になっていったの」
「違う意味の大人じゃん!」
「じゃあアナタできるの?」


フッと、さっちゃんの気配が消えて目を丸くする。


「完全に己の気配を断ち、誰に気づかれることなく、すばやい判断で好みのエロ本を選び、店員にも気づかれないよう代金をはらい、何ごともなかったように本を購入し去る」


それらを見事にやってのけたさっちゃんが、店から本を手に出てきた。


「どう?できる?」


あ。やっぱそういう趣味なんだ。

M娘倶楽部というタイトルに私らはまずそう思った。


「ってか、こんな派手な格好でできるかよ」
『エロ本である必然性もよくわからん』
「フッ。おじ気づいたか?貴様ら」


隣でヅラが鼻で笑う。


「これしきでなれるなら、忍者もたいしたことはないな」
「ヅラァ!」
『アンタやる気!?』
「当たり前だ。見ておけ。こんなもの朝飯前…いや、カレー時前だ」


なんだよカレー時前って。てかカレー持ったまま行くのかよ!


「おいっ、カレーは置いていった方がいいって!絶対邪魔だって!!」
「ダメアルヨ絶対離しちゃ!お前はそれをこぼすと死ぬからなカレーニンジャー!」
「ルージャ!」
「ルージャってなんだよラジャーだろ。きいたことねーよそんな了解の仕方!」
『変なキャラ設定しないでカレー置いてけって!』


真面目通りこして馬鹿だよもう。

気配を消したヅラは、女の子達の隣から素早い手付きでエロ本を選び取る。


「速い!!」
「たいしたものだわ。スピードは全く忍者にひけをとらない」


まぁ、一応実力はある奴だしね。馬鹿だけど。


「女の子達も気づいてませんよ」
「オイオイいけんじゃねーのコレ。あとはレジ…」


ーーーーボタ.

ヅラの片手にあるカレーのお皿から、地面に落下したルー。

カレーこぼしたァァァァァ!!

なんか知らんが息を飲んで見守る私らに、震えながらゆっくりと振り向いたヅラ。


「すまんリーダー、あとは頼…」


ーーーードシャァァァ.


「カレーニンジャー!!」


血を吐き出すと、ヅラは倒れてしまった。

なんだその無駄な小芝居は。


「Bね。スピードは評価できるけど注意力がまるでダメ。次は?」
「私がいくヨ!」


ヅラを引きずり回収したさっちゃんに神楽が名乗り出る。


「カレーニンジャーの仇は私が討つネ」
「神楽ちゃん。あなたはエロ本買っていい年じゃないからジャンプ買ってきなさい」


なんで地面にうつ伏せに?と思うと、左右にシャカシャカ動きながら徐々に本屋へと近づいていく。


「おっ、忍者っぽい!忍者っぽいよ」
『なんでうつ伏せかと思えばあれがやりたかったのか』
「やる気満々だなアイツ。こんなん好きだからな〜」


すると、左右のシャカシャカのスピードがあがった。残像が見えるぞ。


「うォ〜ノリノリですよ!」
『ゴキブリみたいだな』
「いいから早く買ってこいっつーんだよ」


早くしてよ神楽。まだ私ら残ってんだから。

すると徐に立ち上がった神楽は、目元を隠しながら振り向いた。


「アレ、戻ってきましたよ。どーしたんだろ?」
『ジャンプもとってないね』
「ん?泣いてんのか」


戻ってきた神楽の胸元には…なに?その茶色いの。


「架珠ー…道に犬のウンコおちてた。どうしよう…」
「『ぎゃあああああ!!』」


こんなところで地面に這いつくばるから!!


「リーダー心配するな。それは恐らく俺がさっきこぼしたカレー…くさっ!!」
「気休めはよせヨォォ!!カレーニンジャー、いや…本当のカレーニンジャーは私さ!!」
「ヤケにならないで、A評価あげるから」
「同情してんじゃねーヨ、チクショー。やってられっかなにがリーダーだ!」
『おちつけって神楽。よし!真打ち架珠ちゃんがやってやろーじゃん』
「架珠!俺の仇を頼む!」
「私もお願いネ!」


任せろ。

女の子達に並んで本を取ろうとしたら、ちょうど女の子が振り向いた。思い切り目が合ったし。


『ど〜もォ。その雑誌それで最後?』
「ええ、最後みたい」
『あーそっかァ』


なんて話しながらさり気なく本を取ってレジに行くと今まで寝てたクセにジジィが目を覚ましていた。


「こんにちは」
『あ、ど〜もォ。これください』
「はいはい」


お金をはらって戻ってくると、ドヤ顔で買ったジャンプを見せた。


『ほら見ろどーだ』
「どーだじゃねェよ!!なに一つこなせてねーじゃねーかァ!」
『いや、今週号まだ買ってなかったから。ね、銀ちゃん』
「よくやった架珠」
「どこもよくねーよ!本買いに来たんじゃないっつの!ホント何しに来たのアンタら!?」


だから忍者になりに。


「しょーがねーな、俺がやるしかねーか。こう見えてもガキの頃は忍者ゴッコとかやってたんだぜ」
「頑張って銀サン」


厳つい顔して指鳴らした銀ちゃんは、そう意気込むとどこかに姿を消した。


「…アレ。どこいったんですか銀サン?」
『全然来な…!』


ガタガタと、音を立てて左からゴミ箱がやって来た。

汚なっ!!


「いえ、汚くなんかないわ。あれは「隠れ身」という立派な忍法の一つ。さすが銀サン発想が違うわ」
「「『なんか甘くねェ!?ひいきだよひいき!』」」


あんなのと格の差があるみたいな言い方やめろ腹立つ!


「何?文句あんのD評価とダブルカレー」
『ふざけんな私のどこがDだよドMがァ!』
「ダブルカレーってなんだ?好きで着ているわけではないわァ」
「SとMは最高のコンビネーションよ。やっぱりヒロインは私ね。あとアナタのそれ黄色い布地でできてんじゃないから。きばんだ白いカーテンでつくった奴だから。キバニンジャー」
「貴様そこになおれ。叩き斬ってくれる」
『やっちまえキバニンジャー!』
「お前もそこになおれェ!」
「やめろカレー!司令に逆らうなアル!」
「しかしリーダー!」


ーーーーメキメキドカゴシャ.

ん?


「なしてこんなトコにゴミなんかあったんだべか?」
「しらね」


さっきのゴミ箱は気づくとゴミ収集車に回収されて、遠ざかっていくゴミ収集車を私らは見送る。


「……ねェ…ヤバいんじゃないスかアレ」
「き…気のせいでしょ。ホントは誰も入ってなかったんじゃない?」
『銀ちゃんはさ、ほら…トイレとかだよ多分』
「そうだよね。あんなん入ってたら死んじゃうもんね」
「じゃあ次は新八君の番ね」
「あ、ハイ、いってきまーす」


で、新八は特に何もなく本を選び、手に取り、レジを通過。


「アレ?」
「ちょっと…………」
『なんかすんなり…なんか、全然気づかれてない…っていうか』


誰も奴の存在なんて気にかけてねェ。存在感うすっ!!


「なんだよ〜オイ。忍者もクソもねーじゃねーか。地味だったら誰でもいけるんじゃねーかよ」


戻ってきた銀ちゃんは全身ボロボロだった。

やっぱ入ってたのか!!


「バカらしい。よかったよ〜こんな茶番参加しなくて。いや、これはアレだよ。さっき便所いったらチンピラにからまれて。いやァホントだって、マジで」


銀ちゃん…自分で言ってて恥ずかしくないの?


「いや、ホントだって。何その眼?」


痛々しい銀ちゃんは放っておいて、その晩。


「いくか」


私らは、目当ての屋敷の屋根にいた。


「忍者戦隊ロクニンジャー。参る」
「…語呂、悪くないっスか?」
「仕方ねーだろ六人なんだから。影薄いお前もいれてやったんだぞ」
「ありがたく思えコノヤロー!」
「僕の扱いそんな感じなんですかリーダー!」


そんな感じだよ。


next.

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