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さくらんぼってアレ桜の木になるの?




「ぶェくしょん!」
『ぶァくしょん!』
「はくしょん!」
「まいけるじゃくそん!!」


鼻水も唾も涙も流しながら、万事屋一行は盛大にくしゃみをする。


「オイ、まいけるじゃくそんはないだろ。それはお前くしゃみじゃ…じゃねっとじゃくそん!!」
「まえだたいそん!!」
『ばくしょう!!』
「うるせーよ普通にしろ!」


これが普通だよ。


「あームズムズする。今年の花粉は例年にもましてヒドイなァ。もう街中みんな花粉症でグジュグジュになってますよ。どーなってんスか?」
「スギ花粉じゃねーらしいよ今年は。なんかどこだかの星の植物らしくてタチ悪いらしい。ブェークション!」


うるせー。と思ってるそばから私もくしゃみ。


「あーチクショ。この作品は…フィクショーン!!…です。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません」
「余計な気を回さんでいいわ!」
『なんかバーさんも寝こんじゃって店休んでるらしいよ』
「こりゃ当分家出ねー方がいいな」
「あっ。ティッシュきれた。新八買ってこいヨ」
「話きいてた!?」


ティッシュないと今私生きてけない。銀ちゃんと二人押し入れやタンスを探す。


「いいから買ってこいヨ。どうせティッシュ買ってくるしか能がないくせに」
「なんだとォォクソ女ァァァ!!お前やっぱ星に帰れェェェ!」


うるせー。

押し入れには見当たらず、タンスを探す銀ちゃんへと声をかける。


『銀ちゃーんティッシュあった?』
「トイレットペーパーあったぞ」


トイレットペーパーも必需品だけど、この際仕方ない。


「ぶェくしっ。あーなんか内も外も変わんねー気がしてきたぜ。一体どこから入ってくんだこの花粉?」


トイレットペーパーもらいに行くと、障子が開け放たれていた呆れてしまう。


『いやそりゃ障子開けてれば花粉ウェルカム状態だよ』


誰だ開けたバカは。


『ん』
「どした?」


窓の外に、木々が生い茂る家が建っていた。呆然と立ち尽くす私の隣に並んだ銀ちゃんは目をこする。


「あり?うそ?あり?」


ーーーーピンポーン.


「『!』」
「ハーイ」


トイレットペーパーをめぐった戦いに敗れた新八が鼻血出しながら引き戸を開ける。


「どうも初めまして。となりに越してきました、屁怒絽です」


訪ねてきたのは天人…なのはいいけどさ。なに、その強面という強面が凝縮したような恐ろしい顔。


「今日はごあいさつにあがりました。僕、花屋をやっていまして、お近づきの印にこれどうぞ」


一輪の花が植えられた鉢を手渡され、震える手で受け取る。


「いろいろと御迷惑をおかけするかもしれませんが、なにとぞよろしくお願いします」


くわって、顔に影を作って屁怒絽は去って行った。血の気を引かせて、私と銀ちゃんと新八は顔を見合わせる。


「恐ェェェェェェェ!!」
『恐ェェェェェェよ!なんだよアレさァァ!!となりのヘドロメッチャ恐ェェェェ!!』
「オイひょっとしてアレかァァ!!アレ、ヘドロの森かおいィィ!!」
「うわ。なんスかアレ!?メッチャ花粉飛ばしてるじゃないスか!」


なんの建物かと思えば屁怒絽の家かよアレ!


「江戸の花粉症騒ぎはアレが源だったのか…どうりでみんなほったらかしにしてるハズだ。クレームつけたら殺されそうだもん」
「オイオイとんでもねーのが引っ越してきちまったな」
「でも、お花屋さんって言ってたヨ」
「バカ言ってんじゃねーよ。どう見てもあのツラ地球征服しにきたツラだろーが」


いや決めつけすぎじゃね?確かに恐いけど。


「昼間は花屋で夜は本業の地球征服してんだよ。花粉で人々を弱らせてから地球征服するつもりなんだよ」
「マジでか!」


銀ちゃん、漫画読み過ぎだよ。


「あっ。そういえばその花…」


全員の視線が私が持つ植木鉢に向かう。

ーーーードタバタドタゴオァシァ.


『おいィィィィ私を置いて逃げんじゃねェェェ!!』
「あっ、定春早く架珠から離れるアル爆発するヨ!!」
「えっ!!爆発すんの!?」
「定春のことは諦めろ。早くしねーと毒ガスが!」
「えっ!?毒ガス出るの!?」
『ねえ私の心配は!?』
「定春ゥゥ!!そんな、これでお別れなんてひどいヨ!!」
『ねえ泣いていい!?誰か助けてえええ!』
「回覧板デース」


投げ置いて行ったぞあのヤロ。


「キャサリンてめー回覧板なんて回してる場合じゃねーだろうが!地球が征服されっかもしんねーんだぞ!」
「あっ!!銀さん!大変だ!!」


なに?


「回覧板次…となりのヘドロさんちだ!!」


…なに!?

回覧板回すの遅れればお登勢さんが煩いから、泣く泣く届けに行く。が、まずは様子を見ることにしてこっそり隠れて伺う。


「ホントに花屋やってますよ」
「誰が買いにくるんだよあんなおっかねー店」
『…でもなんかスッゲー楽しそうだな』
「ほんとアル。とても地球を征服しにきたようには見えないヨ」
「そりゃ楽しいだろうよ。地球を征服するための尖兵たる悪魔の花を育てているんだから」
「それよりどうやって回覧板渡しましょう?」


四人でグーを構える。


「ジャンケーンポン!」
「うわっ、マジすか!?うわっ、僕っすか!?」


お前だよ新八。チョキだしてよかった。


『別に直接渡す必要はないよ。回覧板だし』
「なにより危険だしな。通行人Aのふりをして通り過ぎざまに回覧板を置き去ってこい」
「通行人AってBもCもDもいないじゃないスか。恐がって誰も歩いてねーよ。明らかにAが浮くよ」
「心配するな。通行人ならいる」


と、いうわけで。


「ちゃーん」


着替えた神楽が乗った乳母車を押す銀ちゃんは同じように着替え笠をかぶっている。

つーかいねーよ、そんな通行人B。むしろ主役だろそれ。目立つわ。


「ああ、なんてことでござる」


めっちゃヘドロ見てっけど、続けるんだね。


「妻が死んでからというもの息子が…」
「ちゃーん」
「しかしゃべらなくなってしまった」
「ちゃーん」
「「ちゃん」とは父の意を指す。母を失って拙者しか頼るもののない今これは仕方なきことだが、このまま直らなかったらどうしよう…でも直すのもなァ。ちゃんちゃん呼ばれるのもなんか尊敬されてるみたいで気分いいし」


黒子の格好してマイクを持った私は歩き出す。


『父はしらなかった。大次郎の口癖「ちゃーん」とは「父」の意ではなく、母がよく父に言っていた「あんたさァ、ホントちゃんと働いて!マジ家計キツいんだけど」の「ちゃん」であることを。大次郎は別に父が好きとかそーゆーのは全然なかった』


ナレーションを終えてチラリとヘドロを見ると、あれ?目頭押さえて…泣いてる?

今だと、新八は察して回覧板を手に走り出した。

ーーーーブチン.


「!!」


ーーーーゴス.

鼻緒が切れて転けた新八の手から回覧板が飛び出し、ヘドロの目に直撃したのを見て私らは終わったと思った。

だって、招待された家で正座する私らを待たせてさ、シャー、シャー、て包丁を研ぎ始めちゃったもん…。


「…ヤバイよ。刀研いでるよ。日本昔話みたいになってるよ」
「ちゃーん。私達食べられちゃうの。ちゃーん」


ごめん今フォローする言葉がでないくらい私も銀ちゃんも泣きたい気分だから。


「いや〜、回覧板ぐらいでわざわざ三人出むいてもらってスイマセンね〜。ゆっくりしていってください。今、かるくつまめるものを用意いたしますので」


つままれる。

このままでは確実に、つままれる。


「…あの、ヘドロさん?いや、ヘドロ様」
「いやヘドロでいいですよ」


新八が勇気出して声を出す。


「あの…さっき、すみませんでした。回覧板ぶつけちゃって。草履の鼻緒が切れてしまって」
「いやァいいんですよ。事故ですよ事故。それより鼻緒が切れるって不吉の予兆というではないですか。何かよからぬことが起こらなければいいのですが…お気をつけ下さい」


よからぬことをしようとしてる!

不吉を起こそうとしている!


「…あの、ヘドロ様?いやヘドロ伯爵」
「いやヘドロでいいですよ」


今度は銀ちゃん。顔青ざめて冷や汗出てるけど。私もだけど。


「あの…おもてなししてくれるのは嬉しいんですが、さっき父が危篤との連絡が入りまして、すぐ帰らなきゃ…」
「なんですって!どうして早く言ってくれないんですか?あの、心配なんで、僕も行っていいですか!!」


ついてくるつもりだ!

地獄の底までついてきて私らを危篤にするつもりだ!


「あの…やっぱりいいです。けっこうどうでもいい親父だったんで」
「えっ!そうなんですか…せっかくウチの花をもってお見舞いにいこうと思ったのに。お葬式の際はぜひウチの花を使ってください。精魂こめて育てた花なので、きっとお父様を極楽浄土へ導いてくれるはずです」
「……あの、ヘドロさんって…どうしてお花屋さんなんか?」
「ん?ハハ、似合わないでしょ」


い…言えねえなんとも。


「いえ、そーゆー意味じゃ」
「ハハハ、いいんです。自分でもわかってますから。こんな見てくれじゃあね…昔からこんな外見のために他人から恐がられていたものでね。せめて心だけでも花のようにキレイになりたいと。だから少しでも花と近くにいられる仕事がしたくて…でも、やっぱり向いてないみたいだ。お客様なんて一人もこないもの。坂田さん達だけですよ。恐がらずに僕と接してくれた人達は…」


すいません。メチャクチャ恐いんですけど。

でも、なんか見てくれに比べて別に悪い奴ではなさそう?少なくとも地球征服はしなさそうだ。


「銀さん…ひょっとしてヘドロさんホントはいい人なんじゃ」


いきなり、腰の木刀に手をかけ銀ちゃんは構えを取る。


「俺が奴を引きつける。その間にお前らは逃げろ」
「銀さん!」
『急になに?』
「アレを見ろ」


アレ?

銀ちゃんの視線を追うと、冷蔵庫があった。さらに、その冷蔵庫の手前左隅。


「あれは、ジャンプをしいて冷蔵庫の高さを調節して…?」
「ジャンプはなァ、男たちが夢と冒険に心ふるわせる本だ。それを…あんな使い方する奴にいい奴なんているわけねェェ!」
「『何ィィィ!その理由!?』」


すっげー私的な理由だな!


「ヘドロォォォォ!お前に地球は渡さねェェ!!」


飛びかかろうとした銀ちゃんだが、岩を片手に振り向いたヘドロの目がキラッと光った。直後、銀ちゃんの真横を通過した岩は屋根を突き破る。


「大丈夫ですか坂田さん?」


銀ちゃん引きつった笑み浮かべたまま倒れてる…。


「いや〜あぶなかった。あやうくてんとう虫を踏むところでしたよ。殺生はいけない」


いやいやいや…。


『に…にげろォォォォォォォ!!』


私の声を合図に新八と神楽も走り出す。

ーーーーガッ.


「あーーーーダメですよ」


進行方向のスレスレ壁に、鉈が突き刺さって硬直する。


「あやうく植木を倒すところだった。殺生はいけないってば」


もう引きつった笑いしか出ねェよ。

ーーーーそれからも地球は征服されなかったし、相変わらず花粉は舞い続けたけど、万事屋はしばらくくしゃみ以外の音を立てないよう静かに過ごした。


next.

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