×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


外見だけで人を判断しちゃダメ




「おー栗子」


大江戸遊園地の前で時計を気にしていた栗子は、その声に顔を上げた。


「ワリィワリィ、遅れちまって。待ったァ?」


チャラチャラと効果音を背負いながら男がやってきた。奴の名は七兵衛。


「いえ、私も今来たところでございまする。全然待ってませんでございまする」
「あ、なんだよよかった〜。実は電車がさァ〜……」


ひっそりと、茂みに隠れてその様子を見つめる。


「…野郎ふざけやがって。栗子はなァ、てめーが来るのを一時間も待ってたんだよバカヤロー。どーしてくれんだ、俺が手塩にかけて育てた娘の人生を一時間も無駄にしてくれやがって。残りの人生全てで償ってもらおう。やれ田城」
『ウッス!あ、そこの瞳孔開き気味の人、ちょっと土台になってくれますか?』
「待たんかいィィィ!!」


んだようるせーな。構えたライフルをおろす。


「お前何ィィィィ!?奴ってアレかァァ!?娘の彼氏ィ!?」
「彼氏じゃねェェ!認めねーよ、あんなチャラ男。パパは絶対認めねーよ!」
「やかましーわ!俺はお前を警察庁長官なんて絶対認めねーよ!」
「土方さん、俺もアンタが真選組副長なんて絶対認めねーよ!」
「おめーはだまってろ!!…あと、さっきから気になってたんだが、そいつ誰?なんでスーツに野球帽?」


消したい奴がいると依頼を受け、殺し屋らしくグラサンにスーツだ。


「こいつは田城だ。以前にも一緒に死線をくぐり抜けた戦友で、なかなかに腕が立つ奴だ。今回も力を貸して欲しくて呼んだ」
『田城ッス。殺し屋タシロ13と呼んで欲しいッス。よろしくお願いしまッス!』
「漫画の見過ぎだ。おい挨拶でなんでライフル構えんだ」
『殺し屋なんで』
「上等だ、土台の件諸共しょっぴくぞテメー。冗談じゃねェ、こっちは仕事休んでまで来てやったってのに、娘のデート邪魔するだァ?やってられねェ、帰る」
「オイ待て。俺がいつそんな事頼んだ。俺はただあの男を抹殺してほしいだけだ」
「もっとできるか」
「やれ田城」
『ウッス』
「まてまてまてまて」


チッ、なんだよ。帰るんじゃないのか?


「あんなチャラ男が栗子を幸せにできると思うか?いや、俺だってなァ、娘の好きになった奴は認めてやりてーよ。悩んで…色々考えた…それで…抹殺しかねーなっていう結論に…」
「色々考えすぎだろ!マフィアかお前は!」
「警察なんてほとんどマフィアみたいなモンだよ」
「長官がとんでもねー事言ったよ」
「それになァ、娘のためなら仏にもマフィアにもなるのが父親ってもんよ」


こんな父親嫌だけどな。


「近藤さんよォ。この親バカになんとか言ってやってくれ」
「誰が近藤だ。殺し屋ゴリラ13と呼べ」


なんかガチャガチャやってると思えば、グラサンとライフルを用意したゴリラ。真似すんな。


「何やってんのアンタ…アンタも漫画の見過ぎか?」
「13とは不吉の象徴。今年に入って13回女に振られた」


どんまい。


「オイとっつァん、田城クン。俺も手伝うぜ。栗子ちゃんは小さい頃から見知って俺も妹のように思ってる。あんな男にやれん。俺は男のくせにチャラチャラ着飾った軟弱者が大嫌いなんだ。栗子ちゃんは俺みたいな質実剛健な男が似合ってる気がする」
「いやお前みたいな奴はいやだ」
「栗子ちゃんは俺みたいな豪放磊落な男が似合ってる気がする」
「いやお前みたいな奴はいやだ」


言い方変えたっていやなもんはいやなんだよ。


「いくぞとっつぁん!!田城クン!!」
『ウッス!』
「おっ……おい!!ヤベーな、アイツらホントにやりかねねーぞ。総悟、止めにいくぞ」
「誰が総悟でィ」
「!」
「俺は殺し屋ソウゴ13」
「おいいィィィ!!」
「面白そうだからいってきやーす」


栗子と七兵衛を追いかけ、私らはメリーゴーランドに乗りライフルを構えるが、全っ然狙いが定まらん。


「野郎…やりやがるな、コレを選ぶたァ。馬が上下に動くもんだから狙いが定まらねェ。なんか気持ち悪くなってきた」


うん。スコープ見つめ続けてるから気持ち悪い。


「オイ、それよりいつになったらコレ奴等に追いつけるんだ。距離が一行に縮まらねーぞ」
「縮まるかァァァ!これメリーゴーランドだぞ!!この土台ごと一緒に回ってんだよ!永遠に回り続けろバーカ!」


後ろから多串君が叫ぶ。バカって言った奴がバカなんだよバーカ。


「メリーとパント?なんだそれ?遊園地なんてきたことねーからよくわかんねーよ。大人の遊園地はいったことあるけどな」
「いいからよォ、早まった事すんじゃねーぞ。要はあの二人の仲引き裂けばいいんだろ?他に方法はいくらでもあるだろ」
『なんなんスかさっきから。仲間に入りたいんスか?殺し屋同盟に入りたいんスか?』
「おめーらが血迷った事しねーか見張りにきたんだろーが!」


次に乗り込んだのはコーヒーカップ。


「俺はあんたらみてーに外見だけであの男の人間性まで否定する気にはなれねーよ」
「どー見ても悪い男だろアレ。だって穴だらけだよ!人間って元々穴だらけじゃん!そこに自ら穴を開ける意味がわからん!」
「お前が言ってる意味もわかんねーよ」


私もわかんねーよ。


「ああいう年頃の娘はねェ、ちょいと悪そうなカブキ者にコロッといっちまうもんでさァ。そいでちょいとヤケドして大人になってくんですよ」
「総悟、お前年幾つ?」
「オイ、おじさんはこんなに悪そーな顔してるのにモテた例がねーんだけどどーしてくれんだ」
『とっつァんの場合はヤケドどころか全身の80%が焼けただれそうッス』


道端で会ったら近寄りたくない。警察関係者とか、未だに疑ってるから私。


「まァ、良くも悪くも愛だの恋だのは幻想だってことさ。あんたの娘もあの男にあらぬ幻想抱いてるようだが、そいつが壊れりゃ夢から覚めるだろ」


そう言う多串君は青ざめた顔で口元押さえてた。なに、酔った?ざまァ。


「幸い、ここはうってつけだぜ」


次に向かったのはジェットコースター。誘う栗子に渋っていた七兵衛を沖田クンが脅して無理矢理乗せる。


「オイ、ホントに大丈夫なのかこんなんで?」
「大丈夫だよ。総悟は人をいじめるのが趣味の超ド級のSだぞ」


最悪の趣味だな。

七兵衛の後ろに座った沖田クンは刀で脅しながら脱糞を要求。脱糞野郎なんて栗子も別れるだろうという作戦だ。

ーーーーグン.

動き出したジェットコースターは、やがて山なりに昇ると急降下。めちゃくちゃ悲鳴。


「ぬお…思ったよりキツ…」
「ふんご!どうだ様子は!?」
『そうッスねェ…!』


ーーーーブワ.


「「『え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!』」」


ーーーードガゴッ.


「「『ぶっ!!』」」


飛んできた沖田クンの両腕が私とオッさんに、足が後ろの多串君に直撃。


「ぐぉぶ!」
『いってェェェェ!!』
「てめェェェェ何してんだァァ!!」
「ベルト締めんの忘れた!ベルト締めんの忘れた!」


はあァあ!?何やってんだアホか!


「はわわわわ」
「オイッッ、なんだコイツ!さっきと別人じゃねーかテンパリまくってんぞ!」
『超ド級のSじゃないんスか!?』
「Sだからこそ打たれ弱いの!ガラスの剣なの!」


座席になんとかしがみつく沖田クンは目を回してしまっている。


「たたたた助けてェェ!!土方コノヤロー!!」
「ぐおっ!」


助け求めながら多串君の髪を鷲掴んだ沖田クン。痛そー。


「お前バッ…」


断末魔のような悲鳴は、楽し気な悲鳴に揉み消された。

やがてプシューと、音を立ててジェットコースターはスタート地点で止まった。なんとか助かった沖田クンへと多串君は肩を貸す。

大丈夫か沖田クン。生きてるか?


「あーーーー恐かったでございまする。大丈夫でございますか?七兵衛さ…!」


栗子は、七兵衛の異変に気づいたようだ。


「七兵衛様…座高が…少し高くなっているでございまする」
「へ…へへ。ヤッベー。お前絶対引くだろ、ヤッベー。オレ、ちょっともらしちゃった」


その衝撃に栗子は顔全体を引きつらせてドン引き。まァ、これで栗子も七兵衛と別れるだろう。私ならその場を無言で立ち去って二度と会わない。


「よかった〜」


よかった?


「実は、私もでございまする。私だけだったらどうしようかと思っていたでございまする」


え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛。


「マジかよ〜スゲー!!おそろいじゃん!奇跡じゃん!」
「やっぱり私達、何かで結ばれているでございまする」
「えー何何、腸で結ばれてるみたいなカンジ?」
「いやだァ〜もォ〜でございまする」


マジかよ、オイ…。


「オイぃぃぃぃどーゆー事だァァ。ますます仲良くなってんじゃねーかァァ!!」
「おめーの娘こそどーなってんだァ!?普通もらすか?一体どーゆー教育してんだ!!」
『あっ!次のアトラクション行ってるッスよ!』
「え゛え゛!?あの状態で!!」
「オイ近藤さん早く!近藤さん!」


いつまでも立たないゴリラを急かす。

アレ?なんかゴリラ…座高が高く…。


「…トシ、誰にも言うなでございまする」


え゛え゛え゛え゛え゛え゛。

遠くを見つめて涙を流すゴリラが哀れで仕方なかった。


「なんてこった。まさかアレで引かねーなんて」


仲良くソフトクリーム食べる二人をベンチに腰掛け見張る。


「我が娘ながらなんて恐ろしい」
「いやホントに恐ろしいよ」
「なんだお前まだウンコの事言ってんのか?お前他人に言ったら殺すからな」


うわ物騒。でもホントに殺りそうだし、むしろ殺ってしまえ。


「とっつァん、安心しな。アンタの娘はもらしてなんかいねーよ。見ろ、野郎は着がえたってのにあんたの娘はそのままだ」
『ケツに挟めたまま歩いてんじゃないッスか?』
「多分な」
「んなワケねーだろ!オメー娘がかわいくないのか!?アンタの娘はなァ、野郎を傷つけないためにあんなウソ言ったんだよ」
「何?」
「トシ、それはアレか。栗子ちゃんは脱糞なんかじゃ全然引いてないと…お前はオレが脱糞してどん引きしてたのに、栗子ちゃんはそんな汚い部分もふくめて奴を包みこんでいると…そーゆーことか?」
「近藤さん、俺も引いてますぜ」
『自分もッス』


どん引きだわ。


「待ち合わせで一時間待ちぼうけくらっても笑ってたことといい、こいつァ本気で…」
「とっつァん!アレ見ろィ」
「!!」


沖田クンの声に何事かと顔を上げる。


「ヤベー、観覧車にむかってますぜ。間違いねェ、チューするつもりだ」
「何!?そうなのか!?」
「観覧車っつったらチューでしょ。チューするためにつくられたんですよあらァ。ね?お嬢」
『うんうん、わかってるね沖田クン』


…アレ?

顔引きつらせて沖田クン見るとしてやったり顏でほくそ笑んでた。


「そうなの!?しらなかった!栗子ちゃんが危ない!こうしちゃいられねェ!!四の五の考えるのは後だ!!いくぞ!!」
「オイ、大至急アレ用意してくれ!」


沖田クン、君いつから気付いてたの?

走り出しながら沖田クンを恐ろしい目で見ていた。そして、オッさんが電話で用意するよう頼んだヘリに乗り込む。

ヘリまで用意するとかガチじゃん…。

栗子と七兵衛が乗ったゴンドラまでヘリを近づけると、プロペラの音に二人が気付いた。


「きゃああああああ!」
「なっ…なんじゃありゃああ!!」
「殺し屋侍13。お命ちょうだいする」


ゴリラに合わせて私らもライフルを構えた。その時だった。


「!!」
「なっ」


あれは…。


「トシぃ!!」


ゴンドラの屋根に、多串君の姿が。


「トシぃ?誰だそれは。俺は愛の戦士、マヨラ13」


んだ、マヨラ13って…。

グラサンかけてバズーカを構える多串君…あれ?こっちに構えてない?


「人の恋路を邪魔するバカは、消え去れ」


ーーーードッ.


「!!」
「うおっ!プロペラがっ…」
「「「『あああああ!』」」」


幸い、落下した先は水の中だった。

あのヤロ…。水の中から顔を出して、多串君へとライフルを構える。


「あのォ、もうこんな脱糞ヤローとは別れるでございますから、私とつき合ってもらえないでございまするか!!」


直後、多串君と七兵衛が水の中に落下した。

愛なんてこんなもんだよ。

アホらしくなって構えたライフルをおろした。


next.

back