娘の彼氏はとりあえず殴っとけ
「うがァァァァ!!」
「神楽ァァ!!」
何この仕打ち!痛いんだけど!なんか神楽の目がイッちゃってんだけど!!とりあえず、銀ちゃんは神楽を見事に助け出した。
「ペッ。ったく、食い維意地がはったガキだよ。親の顔が見てみてーな、オイ」
「……俺も見てみてーよ。お前のような無茶苦茶な男の顔を」
「男は下の毛が生えたらもう自分で自分を育てていくもんだ」
「クク、ちげーねェ」
『……さて、そろそろしまいにしますか』
武器を構えてニヤリと笑う。
「いくぜェェェ!!お父さん!」
「誰がお父さんだァァァァ!!」
ーーーードゴォォン.
核へと攻撃すると、えいりあんの動きが鈍くなった。
「とっつぁぁぁん!!射撃を止めろォォォ!!もう撃つ必要はねェ!!」
そうそう。ゴリラの言う通りだよ。じゃないと私ら死ぬ。
《泊める?ふざけるな栗子はまだ十七だぞ。彼氏と二人で誕生日を祝いたいとかぬかしてやがったが、アレ外泊する気だよ。絶対許さねェ。全力で邪魔してやる。ケーキの上で全力でランバダを踊ってやる》
何がランバダだこのクソ親父ィ!!
「泊めるじゃなくて止める!アンタ、娘のことしか考えてねーのか!!」
《うるせーな。どうせもう今さら中止できねーんだろ!早く逃げろォ!!おっさんしらないからな!おっさんは一切責任はとりません!》
無責任!!
「はァ!?逃げろたってどこに逃げろっての!?」
「メガネメガネメガネ」
「下は無理だ。上だ上!!」
「酢昆布返せェェ!!」
「ぐぉぶ!!」
えええええ。ちょ、まだ酢昆布!?今!?
銀ちゃんを蹴りつけた神楽はそのまま銀ちゃんを殴り続ける。ちょ、怖いよ。
『やめろって神楽!今それどころじゃ…いだ!ちょ、保護者の方ァァ!!』
「神楽ァァ!!しっかりしろ、オイ、ダメだって出血が!!」
慌ててパピーと一緒に神楽を止めにかかるけど、意識が定まってないのか全然大人しくなってくんない。と、思うといきなり動きを止めた。
なんだ?
神楽の視線は、親父の頭部だった。
「あー、酢昆布だ」
「『?』」
ーーーーブチン.
……え゛。
「ぎゃああああああ何すんのォォォォ!!お父さんの大事な昆布がァァ!!」
『おいィィ何食ってんだ!出せェェハゲるぞ!そんなもん食ったらハゲるぞ!』
「ハゲるかァ!お前ホント後で殺すからな!」
ーーーーゴゴゴゴゴ.
「アレ?なんだこの音」
ん?
「あれ?」
目前に広がる真っ白な光。
「あれ?」
ーーーードォン!!!!
凄まじい爆音と爆風。頭抱えて小さくなっていたけど、特にどこも痛くない。なぜかと顔を上げると、両足踏ん張ってボロボロの傘を構える親父の姿があった。
まさか…傘一本で、あの砲撃を防いだ!?
「ぼっ…坊主さん」
「クク…俺も焼きがまわったようだ」
「いや、髪の毛も焼きがまわってるけど」
残った左側の髪の毛、焼けてチリチリだよ。
「他人を護って、くたばるなんざ」
ぐらりと、親父の体が傾いたかと思うとその場に倒れてしまった。
「お…おい!」
「坊主さん!」
『ハゲッ!おいハゲ!』
「ハッ…じゃない、坊主さん!!」
「ハゲェェ!!右側だけハゲェェェェェ!!」
とりあえず、犠牲は親父の残り少ない毛髪たちだけで、私らは無事だった。えいりあん退治も終わり、滅茶苦茶になってしまったターミナルはしばらく運休だそうだ。
「おい、神楽は?」
「救護班に手当て受けてる…けっこうな深手だったんでな」
寝転がる私の隣でえいりあんの死骸に向かって仲良く銀ちゃんとハゲは用を足す。
もっと離れた場所でやれよ。空気読めよ。
「アンタも手当てしてもらった方がいいんじゃねーのか?」
「だからこの左腕は元から義手だって言ってんだろ…新調しなきゃな」
「腕じゃねーよ頭だ」
「どういう意味だ」
「そーゆー意味だ」
「そーかあーゆー意味か?殺すぞ」
綺麗なつるつる頭になっちゃって。
「かァー。とうとう腕だけじゃなくて毛までなくなっちゃったな〜」
『そのうち生えてくるよ』
「腕が生えるかよ」
『腕じゃねーよ頭だ』
「そーか頭か…アレ?お前ら頭の事しかしゃべってねーじゃねーか殺すぞ」
だって頭が印象深すぎて。
「……まァでもな、こいつは両方俺にとっちゃ戒めなのかもしれねーよ」
「戒め?」
左腕へとハゲは触れる。
「こいつァ、自分のガキにやられたのさ」
「『!』」
「神楽じゃねーぞ。上にもう一人いてな。こいつがとんでもねェ性悪でよう。いや…性悪というか、夜兎の血を忠実に受けついだというか、闘争本能の塊のようなガキでな」
はるか昔、夜兎族には「親殺し」という、親を越えてなんぼなんて野蛮な風習があったと。それを、その神楽の兄は実践しようとしたのだ。
「天下の星海坊主の首を、殺ろうとしやがった。驚いたか?だが、俺達夜兎ってのはそういう種族なんだよ。その時になァ、俺も気づいちまったのさ。俺の首を狙うガキを前にして、止めるではなく本気で息子を殺そうとしている俺の中の血によォ」
神楽が止めなければ、確実に殺していたと言う。
「あん時の俺を見る奴らのおびえた眼は、今でも忘れらんねー」
親父は一旦言葉を区切る。
「そんなことがあってから、俺は家に寄りつけなくなってなァ。神楽もいつか奴のように、俺の命を狙ってくるんじゃねーかって。その時俺は、自分の中の獣をおさえることができるのかって。不安で仕方なくてな」
変わる度胸も信じる度胸もなく、幼い神楽と死にかけた母親を残して逃げまわったのは、家族を壊すのが恐かったから。結果、家族はあとかたもなく消えてしまったが。
「神楽に俺と同じ思いはさせまいと、こんな所まであいつを追いかけてきちまったが、俺はまた同じことをくり返そうとしていたんだな」
ーーーー「神楽のことは信じてやってくれよ」
「お前に言われてハッとなったよ。あの時俺を止めてくれたのも、いつも俺を支えてくれたのも神楽だ。俺はそんな神楽を、何一つ信じちゃいなかったんだ。俺は結局自分しか見ちゃいなかった。自分を見て神楽を見たつもりでいた。俺と神楽は違う…アイツは…アイツは、俺なんかよりずっと強い奴なんだよ」
話す親父を私らは見つめる。
「…それを俺って奴は…完全に父親失格だ…いや、親父と思ってるのは俺だけで、アイツは俺みてーな奴のこと、親父とさえ思ってねーかもしれねーな」
ーーーーピッ.
「!」
「手紙」
親父に銀ちゃんが差し出したのは、神楽が親父に宛てた手紙。
「なんか、いっつもコソコソ書いてたぜ。まァ、アンタ住所不定みたいだから、いつもウチに返されてきたけどな」
バレてないと思っている神楽に、私らも流石にからかう気にはならなかった。
「渡す機会があるかもって内緒で全部押し入れにとってあるが…今はコレしかねーや。おっと、安心しなァ。中身を見るような野暮なマネはしてねーよ。ついでにアンタも、これ見てグダグダ言う程野暮じゃねーよな」
立ち上がった銀ちゃんに私も起き上がる。
「じゃーな」
「!!オイ!」
『…父親なんてよくわかんないけどさ、アンタは失格なんかじゃないよ』
「自分を想ってくれる親がいて、他に何がいるよ。俺ァほしかったよ。アンタみてーな家族が…」
「お前ら…」
目を見張る親父に背を向け歩き出す。
『皮肉なもんだね。ホントに大事なモンってのは、もってる奴よりもってない奴の方がしってるもんさ』
「だからよォ、神楽のこと、大事にしてやってくれよな」
まァ、言うまでもなくするだろうけどさ。
銀ちゃんと二人、夕暮れの中帰っていると、背後から荒い足音が聞こえてきた。
なんだ?
振り向くと、その足音は新八だった。
「言っとくけどねェ、僕はずっと万事屋にいますからね。家族と思ってくれていいですからね」
…なんだあいつ。
しかめっ面で涙流しながら、さっさと先を歩いて行った新八に、私らは顔を見合わせため息。
「やめるとか、言ってなかったっけ…」
『ね』
…別に嬉しくないわけでもないけどさ。
next.
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