トイレに入るときはまずノック
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?解雇ォ!?」
ちょ、うるさ。
「うるっせーな、デケー声出すんじゃねーよ。あ〜あ、深ヅメしちゃったよ。てめっ、どーしてくれんだ」
翌日、訪れた新八に事情をざっくり説明すると、これでもかと大声あげられた。普段お通のために大声出してるからか、音痴だからか耳痛いんだけど。
「神楽ちゃん解雇したっていうんですか!!えっ!?じゃあ神楽ちゃんお父さんと一緒に帰っちゃったの!?」
「しらねーよ、帰ったんじゃね?もう一日たってるし。よかったろォ、金ためて実家に帰るとか言ってたのに手間が省けたんだから」
『それにさァ、思春期の女の子がこんなダメダメな男の家にあがりこんでるのはダメだよやっぱり。悪影響だよ』
「そうそう、こんなダメダメな女が同居人とか悪影響だよ。それにね、銀サンだったから無事だったものの、最近はロリコンとかポリゴンとか流行ってんだからよ〜」
ポリゴンは流行ってねーよ。
「俺が親父だったら殺しにいくね、その男を。鼻の穴に指をかけて背負い投げす…」
ーーーーガッ.
「うおりゃあああ!!」
ーーーーゴドシャ.
い゛い゛ッ!鼻フックで新八に背負い投げされた銀ちゃんの巻き添え食って、壁に頭部を重たい音響かせて強打した。
「いだだだだだだ!!とれた!!コレ絶対鼻とれた」
『いってェェェ!!何しやがんだァ!!』
「見損ないましたよ!アンタら、神楽ちゃんの気持ちとか考えたことあんのかよ!」
「あん!?家出娘を親の元に返して何がワリーんだよ!」
『善意じゃん!いい事じゃん!感謝されるべきじゃん!!』
「お前らは…ホントッ、バカな!ダメだわお前らホントッダメだ!」
『んだとダメガネ!』
「てめっ、眼鏡割ってただのダメにしてやろーか!?」
「アンタらなんにもわかってないよ!!神楽ちゃんがどれだけ万事屋を大事に思っていたか!神楽ちゃんがどれだけ、アンタらを…」
勢いが収まってきたかと思うと、じわりと新八の目に涙が浮かんだ。
「もういい。二人がそういうつもりなら、僕もやめさせてもらいます。仲間だと思ってたのは、僕らだけだったみたいですね」
背を向けた新八の声は、失望したような声色だった。
「やめたきゃやめな」
戸を開ける新八へと銀ちゃんが言う。
「てめーも神楽も、こっちから頼んで来てもらった覚えはねェよ」
動きを止めていた新八は、そのままパタンと戸を閉めて、万事屋を出て行った。
「いてて腰が…ったく、なんだってんだどいつもこいつも。ん」
ん?気配を感じて振り向くと、隣の部屋から定春が襖の隙間からこちらをそのつぶらな瞳で見つめていた。え、ちょ、なに?
「………なんだ、文句あんのかコラ。エサ抜くぞあん?出ていきたきゃお前も出てっていいんだぞ。大好きな神楽ちゃんももういないんだからよ」
襖を開けてやると、定春は鼻を動かしながら銀ちゃんへと歩み寄って行き袖元をしきりに嗅ぐ。
「んだよ、そんな所にいねーよ」
噛み付くかと思いきや、定春は袖元から封のされた手紙を見つけ出し器用に咥えて取り出した。
『うわ…めざといねェ。匂いでもすんのか?』
「……なァ架珠、これでよかったんだよな」
定春の口から手紙を受け取りながら銀ちゃんが問いかける。そんなん聞かれても…。
『…分かんないよ。だって私、親子喧嘩も家出もしたことないし』
「俺も親子ってのがどーいうもんなのかなんて、よくわからねーが……これでよかったのさ」
これでよかったのかなんて私には分からない。でも……きっとこれでよかったんだ。そう思うから、神楽を傷つけてまで親父と一緒に帰らせたんだから。
next.
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