冬に食べるアイスもなかなかオツなもんだ
「オイオイオイなんだコリャ」
依頼主の家で振舞われた豪華な食事。目の前には美味しそうな食事が広がるが、その中にお皿に乗った渦巻き状の謎の物体。
「コレどう見てもかたつむりじゃねーか。何?いやがらせ?」
「コレ、アレですよ。「えすかるご」だかなんだかいう高級料理っスよ。多分」
「マジでか」
『え?こんなのが高級料理?こんなかたつむりの殻がデッカくなったコレが?』
「ちょっとちょっと。コレ今回の仕事は期待できるんじゃないスか。いきなりのもてなしがコレだもん」
「バカヤロー舞いあがってんな。こんなモン食ったら大恥かくぞ。俺達はなァ、マナーを試されてるんだよ。見ろ、お手伝いさん半笑だろ?」
「ホントネ」
『え?でもそしたらこのでんでん虫何に使うのさ?』
「皿だよオメー。これに食い物乗せて食うんだよきっと」
「皿って…皿の上に乗ってるじゃないスか既に」
「コーヒーカップだって皿の上に乗ってんだろーが。なんかそんなんがオシャレなんだよ」
『そんなオシャレ聞いたことねーよ』
「お前らホントッ田舎モノな。わたしの見とくネ」
神楽がえすかるごだかでんでん虫だかに手を伸ばした。
「すいませーん水おかわりィィ!!」
ブーメランか手裏剣かのようにえすかるごがお手伝いさんの顔面に命中。あー。
「あー、なるほど。お手伝いさん呼ぶ時に使うんだ。だから円盤状なんだ。お手伝いさん、俺は箸もってきて」
『呼ぶたびにストレス発散できて便利だね。さすが金持ち。私ご飯ちょーだい』
「コレ、ちょっと違うんじゃないですか?」
「あってるって。半笑いやめたじゃん…アレ?泣いてる?」
悲鳴も何もあげないから容赦無く殴っていると、くちゃくちゃと咀嚼音が聞こえてきた。振り向くと、いつの間にか向かいの席にジジイが頭にエスカルゴ乗せてさっさと飯食ってた。…何こいつ。
「誰だアレ、オイ。え?かたつむりの妖精?」
『なんでかたつむりの妖精がいるんだよここに。つーかアレ妖精と言うより仙人でしょ』
「かたつむりの仙人だって聞いたことねーよ」
「頭の上に乗せてるヨでんでん虫」
「え?あーゆーカンジなの?あーゆーカンジでいいの?」
なるほど、あーゆーカンジか。
「万事屋さ〜ん。すいませ〜ん遅れて。ちょっと母の体調が悪くて…!何やってんですかァァアンタらァァァ」
あれ?違った?落ち着いて飯食ってたらやって来た依頼人が驚愕とドン引きしていた。どうやら頭にエスカルゴは乗せるものじゃないらしい。て言うかお手伝いさんも言ってよ、一緒に頭にエスカルゴ乗せないでさ。
「スイマッセン。僕らこういうのあんまり慣れてないもので」
「アッハッハッ。いや、いいんですよ。それよりさっそく父と仲良くなったようで安心しましたよ」
「え?父?」
「ええ。実はそれ僕の父でして」
かたつむりの妖精でも仙人でもなかったようだ。未だにエスカルゴ乗せてんのに。
「今回あなた達を呼んだのは、父の世話をしてもらおうと思ってのことなんです」
隣を見ると銀ちゃんのご飯をジジイが横取りして食ってた。
「てめっ!エスカルゴジジイそれは俺の…」
「誰がピタゴラスの定理じゃああああ!!」
銀ちゃんの頭にジジイはフォークを突き刺した。
「ギャアアアアア」
『ピタゴラスの定理に何か恨みでもあんの?』
「すいません。あの、ウチの父ちょっと、痴呆の方が進んでおりまして」
今じゃこんなだが、昔は江戸一番の花火師として有名だったとか。倒れた母、つまり奥さんの面倒を見ると引退して以来夜中に徘徊したり外に出たきり二、三日戻ってこなかったりと、手に負えなくなったと。老人の介護なんてめんどーな仕事だが、お金のためにも頑張るか。
「よーしよーしジャンクロードワンダム。今日も毛だらけだなお前。なんで顔まで毛生えてんだよーしよーし」
「ヘェ、ジャンノクソーマンダムっていうんだ。カワイイネ」
「違う違う。ジャンクソーマミレだ」
「ヘェー。クソマミレジャンっていうんだ。カワイイネ」
「そうそう。マイケルJドックスってんだ」
最後全然違うぞ。
「…気が合うみたいですね」
「話はかみあってねーけどな」
『にしても男ってのはモロいね。女は旦那が先立ったって元気にやっていくのに、男ときたらみるみる弱ってしまうもんねェ。情けない』
「おいあのエスカルゴジジイはそーかもしんねェけどな、全国の男がそうだと思うなよ。俺はぴんぴん遊びほうけるね」
「ていうかまだ奥さん死んでませんよ」
あれ、そうだっけ?
「三年前に倒れてからもうずっと寝たきりなんですって。その面倒見るって花火やめたってのにそのせいでボケちゃうなんて…やっぱり花火好きだったんだ。そう思うとなんか、おじいちゃんもかわいそ…クソジジイぃぃぃぃ何やってんだァァァ!!」
今同情してたくせに態度が急変した新八の視線の先を見ると、ジジイが塀の向こうに伸びる木に登っていた。
「愛人に会いにいくんだって」
「いるかァァァァんなもん!!また屋敷ぬけだしてフラフラするつもりだよ降りてこいィィ!!」
「キャホゥゥ」
『ありゃダメだ。降りる気ゼロだよ』
「どけ」
「!」
銀ちゃんが木刀を構えた。
「わたァァァァ!!」
「え゛え゛え゛え゛!!」
木の根元を木刀で叩きおると、ジジイごと木は池の中へ沈んだ。
『よし。これでジジイも外に出ようなんてしないでしょ』
「油断もスキもありゃしねーな」
「ねーねー、やりすぎじゃないですか。世話ですよ世話。抹殺じゃないですよ抹殺じゃ」
わかってるよ。すると池の水面が揺らぎ始めた。
「あっ!!まだ諦めてませんよ!!」
「何!!」
ジジイが池から復活してきた!と思ったら捕まえる前に俊敏な動きで走り始めた。
「キャホゥゥゥ!!」
「んだこの元気!?ホントに老人か!!」
このジジイといいお登勢さんといい、近頃の年寄りは元気すぎるよ!
「キャホゥゥゥ!!」
どこに隠し持ってたのかエスカルゴをジジイは手裏剣よろしくに投げてきた。
「わたァァァァ!!」
「ほァァちゃア!」
『うるゥァァあったァ!」
「ぶほっ」
顔面に喰らった新八以外の私らはそれぞれ武器で弾き飛ばす。その弾き飛ばしたエスカルゴは屋敷を破壊。
「ちょっとォォォ家メチャクチャになってますよ!」
いいんだよ。全部あのジジイのせいにすれば。屋敷の方に逃げ出したジジイに向かって私と銀ちゃんは木刀と鉄扇を投げた。
「ぬおおおおお!!」
逃がすか!!
「「『わたァァァァ!!』」」
ジジイが入って行った部屋の障子を蹴破り突入すると、そこには家族が勢ぞろいしていて、畳にはばあさんが眠っている。ちなみに木刀と扇は家族の背後の襖に突き刺さっていた。あれ?真顔の私らの後ろで新八がこの世の終わりのように顔全体を引きつらせていた。
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