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メニューが多いラーメン屋はたいてい流行っていない





運が回ったのかパチンコで大勝ちしたので、久々に馴染みのラーメン屋を訪ねることにした。


『幾松さァん』


引き戸を開けて、カウンターの前に立っていた長髪の男と目があった。


『すみません間違えました』


ピシャン!と開けたばかりの引き戸を入らず閉める。………いやいやいや、幻覚?


「人の顔見て帰るとは失礼な」
『人がお前の顔を拒否ってるのに出てくんなヅラ』
「ヅラじゃない桂だ」


どーでもいい。


「いらっしゃい架珠ちゃん」
『どうも…』


一気にテンション下がった。帰りたいけど、もうなんか食べて行く空気だし。


『つーかヅラ、アンタなんでここにいんのさ』
「ヅラじゃない桂だ。実はかくかくしかじかでな。それ故ここに……」
『おい、かくかくしかじかがどこでも通用すると思うなよ。わかるかァんなので!』
「架珠ちゃん、こいつと知り合いかい」
「海よりも深く炎よりも熱い仲だ」


真顔で言い始めていたヅラを蹴り飛ばし床に踏みつける。


『海の底に沈むか火炙りかどっちがいい』
「架珠、俺はそんな激しいプレイは好まんと何度も…」
『幾松さァん火を貸してー』
「ちょ、やめ、油臭ッ。ごめんなさい調子に乗りました油をかけないで」
「うちの店を燃やす気かい」


どぼどぼとヅラに満遍なく油をかけていく。マジこいつ早く捕まるかくたばってくんないかなァ。切実に願っていると引き戸を開ける音が。


「い〜くまっちゃん。げ〜んき?」


下品な笑み浮かべて隙間から声をかけた男を見るなり、幾松さんは頭が痛そうに溜息した。誰?


「なんだよつれねーな。かわいい弟が遊びに来てやったんだぜ」
「ハン、弟だ?冗談よしてくれ。大吾が死んで、アンタと私はもう何のつながりもありゃしないよ」
「つれねーこというなよ。一人残された兄嫁を心配して、こうしてちょくちょく見に来てやってるってのによォ」


ぞろぞろ入ってきた弟含めた三人はカウンターに腰掛ける。


「ここは元々兄貴の店だぜ。奴が死んで俺がこの店もらうはずだったところを、お前がどーしてもっていうからゆずってやったんだ。ちょっとくらい分け前もらってもバチはあたらんだろ」
「また金かィ?もういい加減に…」
「いらっしゃいまっせー。メニューの方はお決まりですか?」
「おいィィィ勝手に何やってんだってか何料理屋!?」


なぜかラーメン屋にバーテンダー服を着たヅラのチョイスを疑う。つーかお前ほんっとコスプレ好きな?


「オイオイいつからバイトなんて雇ったんだ?」
「バイトじゃない桂だ」


いやそこツッコまなくていいよ。


「メニューの方は?じゃっ、三人ともチャーハンで?」
「いやチャーハンなんて一言も言ってないから。別に俺達ゃメシ食いに来たわけじゃねーんだよ。去ね去ね」
「では当店お勧めのコースはいかがでしょう。Bコース?」
「ああもうBコースでもオフコースでもいいから、少し黙っててくれ。俺は幾松と大事な話があんの」
「じゃっ、幾松殿ォ、チャーハン三つお願いしまーす」
「結局チャーハンかいィィィ!!」


うん。分かるその気持ち。


「チャーハンは前菜です。Bコースは他にメインディッシュとデザートがあります」
「きいたことねーよこんな充実した前菜!」


前菜の時点で胃もたれしそうだな。


「うるせーなほっとけよ。それより幾松、早く金よこせ。困ってんだよ」


もうストレートに金要求し始めたよこいつ。


「……金はこないだ渡したので最後だって言ったろ。それに、私聞いたんだから。アンタら攘夷だなんだとウソぶいて、明里屋の金蔵襲撃したらしいじゃないか」
「国を救うという大事の前では強盗なんざ小事よ。俺達攘夷志士には金が必要なんだよ!」


本物の攘夷志士がいる前で知らないとはいえよく言えるな。なんて思ってたら幾松さんが弟をビンタした。あまりの勢いに弟の口からチャーハンが飛び出した。汚ッ!


「何が攘夷志士だァ!?金がほしいだけのゴロツキが、カッコつけてんじゃないよ!!外で屯してる真選組も、アンタらなんか相手にもしてないだろーよ小物が!!」


床に倒れ込んだ弟に怒鳴る幾松さんの目には、涙が浮かんでいた。


「だから嫌いなんだよ、あんたらみたいな連中!あんたらみたいのがいなければ大吾も…」
「んだァァこのアマッ!」
「メインディッシュお持ちしました」
「うるせーんだよあっち行っ…てまたチャーハンんんん!?メインディッシュもチャーハン!?」
「エビチャーハンです。デザートの方は冷えたボソボソのチャーハンになっております」
「チャーハン三昧じゃねーか!!何ィ!?そのチャーハンへのあくなき執念は!?どこから湧いてくるの!?」


冷えたボソボソのチャーハンとか願い下げなんだけど。何そのフルコース。


「はうっ!!」


今迄さんざん騒いでいた弟が、いきなり顔中に汗を滲ませ腹を抑えた。


「なんだ!?急に腹が!!」
「俺も!」
「ヤベッ、これ…便意を通りこして殺意だ!!」


ヅラの奴チャーハンに下剤でもいれたな。


「か…厠!!」
『入ってまーす』
「てめェェ」


まあ、だから私も先回りして厠に閉じこもってたけど。苦しむ奴らの顔マジサイコー。


「チャ…チャーハンに何か入れたな!チキショオオオ!!覚えてろ!!ぐおっ!!」
「あっ、ヤベコレッ…あっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


さんざんな目にあって弟共は店を後にした。いやァ、なんとも愉快なことこの上ないね。幾松さんは呆然としてたけど。




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