どうでもいいことに限ってなかなか忘れない
「みんなァァ!!」
『新八』
病院にて。遅れてやってきた新八に私、神楽、お登勢さん、キャサリンは顔を上げた。
「銀さんは!?銀さんは大丈夫なの!?」
「病院でデゲー声出すんじゃないよバカヤロー!」
「オメーもなババア!」
「オメーモナクソガキソシテ私モサ!」
結局お前ら全員うるさいんだよ。
「心配いらんよ。車にはねられたくらいで死ぬタマかい」
『ジャンプ買いに行った時にはねられたらしいよ』
「いい年こいてこんなん読んでるからこんな目に遭うアル」
「コレヲ機会ニ少シハ大人ニナッテホシイモノデスネ」
『まったくだよ』
アッハハハハと私らは笑う。
「…なんか、大丈夫そうで安心しましたよ」
「いやーそう言ってもらえるとはねたこっちとしても気が楽ッス。マジスンマセンでした。携帯でしゃべってたら確認遅れちゃって」
なよなよした金髪の男がヘラヘラ笑っていた。
『てめーかァァ銀ちゃんはねたのはコノヤロォォ!!』
「銀ちゃん死んだらてめェ絞首刑にして携帯ストラップにしてやっからなァァァ!!」
「オルァァァ!!飛べコルァァ飛んでみろ、出せるだけ出さんかい!!」
一斉に三人で犯人を全力で足蹴にする。
「やっぱダメかもしれない…」
私らを見て新八が呟いていた。
「うっせェェェェ!ここどこだと思ってんだバカどもがァァ!!」
「いや、君もうるさい」
銀ちゃァァァん!!
「おいィィィィ!!まだ入っちゃダメだって!!」
病室に移り改めて銀ちゃんと対面。
「なんだィ、全然元気じゃないかィ」
「心配かけて!もうジャンプなんて買わせないからね!」
ベッドに上半身を起こす銀ちゃんは頭に包帯を巻いているものの、大した様子無くて安心した。
「心配しましたよ銀さん…えらい目に遭いましたね」
「…誰?」
『は?』
警戒したような目を銀ちゃんは私らに向けてきた。
「一体誰だい君達は?僕の知り合いなのかい?」
…………え゛?
「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!記憶喪失!?」
白目をむいて固まった私らに医者はそう言った。
「ケガはどーってことないんだがね、頭を強く打ったらしくて。その拍子に記憶もポローンって落としてきちゃったみたいだねェ」
「落としたって…そんな自転車のカギみたいな言い方やめてください」
「事故前後の記憶がちょこっと消えるってのはよくあるんだがねェ。彼の場合自分の存在も忘れてるみたいだね…ちょっとやっかいだな」
本当にやっかいだよ…僕とか言っちゃってるもん。
「てめェ嘘ついてんじゃねェぞ。記憶喪失のフリして家賃ごまかすつもりだろ」
「先生。さっきから病室に老婆の妖怪が見えるんですが、これも頭を打った影響なんですか?」
「坂田さん、心配いらないよ。それは妖怪じゃない。ここは病室だぞ、幽霊くらい出る」
「先生、違います」
まあ、変わりないからいいじゃん。
「人間の記憶は木の枝のように複雑に絡み合ってできている。その枝の一本でもざわめかせれば、他の枝も徐々に動き始めていきますよ。まァ、あせらず気長に見ていきましょう」
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