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「ごめんなさいね」


散々銀ちゃんと新八をボコボコにして気が済んだお妙と仕切り直しに作ったマトモな鍋を囲む。もう一人お妙は職場仲間の花子とかいう今時いるのかという名前の女を連れてきていた。


「ハーゲンダッツで花子ちゃんにも元気出してもらおうと思ったんだけど…」
「私、散々止めたネ。全くしょーがない奴等アル」
『躊躇なく入れたのはお前だろーが』


バシンと神楽の頭をたたく。


「まァ、鍋もいいんじゃない。花子ちゃんも食べてくださいな」
「…………」
「アラ、お鍋は嫌い?花子ちゃんは大阪出身よね。お好み焼きとかの方がよかったかしら」
「オーカサ?」
『大阪ね。もしかして出稼ぎ?』
「だったら私もアル。仲間ネ」
「花子ちゃん?」
「アカン、ごめん」


ずっと喋んないから何かと思いきや泣き始めた。


「江戸に来てから人の優しさに触れたことなんてあんまなかったもんやから。アンタみたいな人もおったんやな、こんな近くに…」
「花子ちゃん…」
「オーカサどーしたァァ!!元気出せヨオメー。飲め!コレ飲め!負けんなァ!!都会に負けんなァ!」


何のキャラだよ。


「花子ちゃん、よかったら私に話をきかせてくれない?人間あんなことする時って視界が狭まっているものだわ」


なんでも花子、橋から自殺しようとしていたそうだ。


「でも、他人に話したり、案外簡単なことで気持ちなんて変わるものでしょ?」


そこまで言ってお妙は花子に笑いかけた。


「それに私にもできることがあれば力になるし、私達同じ店で働く仲間じゃないの」
「…お妙ちゃん」


なんやかんやでお妙は他人想いだからね。暴力的なところが大きく出て怖いが。


「…ホンマに?お妙ちゃん、ホンマに力になってくれるん?」
「ええ、私でよければ」
「あの…それならな…言いづらいけど、おか…」
「金は貸さねーぞ」


マジの目で即答したお妙。


「………ハハ、まさか。話…きいてくれる?」


涙を流す花子だがさっきと明らかに種類は違うだろう。


『インチキ宗教?』
「そやねん。エライもんにひっかかってしもて」


鍋を食いながら花子の話を聞いていた私に花子は頷く。


「私、江戸へは踊り子になる夢掴むために来たんやけど、そのために貯めてた資金も全部巻き上げられてしもた」
「どうしてそんな?」
「だまされてん!!あいつら人の弱味につけこんで」


で、花子に見せられたのは額につけた毛の生えたホクロ。


「なァに?それは」
「なんか夢叶えた人は身体のどっかに毛が生えたホクロあったゆーてな、高い金出してつけボクロ買うてん。やのになーんも起こらへん、ホンマだまされたわ」


ーーーーガボッ!


「あづァづァづァづァづァづァづァづァ!!」


花子の顔を鍋に押し付けるお妙だが、まあ気持ちは分かる。


「おのれはバカかァァァ!!そんなちっさい黒豆で人生左右されてたまるかァ!!そんな汚らしいホクロを携えてダンス踊るつもりだったんかァ!!毛をそよがせながら踊るつもりだったんかァァ!!」
「ぶごォ!!ぶふォ!!」
『お妙、死ぬ。それ以上やったら死ぬ』
「オーカサァァ!!はいあがってこい!泥の中からはいあがってこい!」


死ぬ間際でお妙は手を放した。


「よーしよーし。よくやったオーカサ、次は30秒いってみよう」
『それでさ、他にはどんな被害にあったの?』
「…それからその夢幻教に入信させられて、コツコツ貯めたお金全部お布施でもっていかれてもうた。あ…あと新聞の勧誘とか断り切れんで9紙ぐらいとっちゃったり、あとよーわからんけど消火器二十本くらい買わされたり」


涙を流しながら花子はお妙にしがみつく。


「もう江戸は恐いわァァ!!私こんなコンクリートジャングルで生きてかれへん!」
「『おめーはナマケモノしかいないジャングルでも生きていけねーよ!!』」


なんなんだコイツは!


「大阪は人情の街や。勿論タチの悪いのもおるけど、みんなどこか他人とは思えんあったかいモンもっとる。けど、江戸モンはみんな冷たいねん。他人は他人って一線ひいとる。ウチ…もうここでやってく自信ないわ」
「死ぬ程苦しいなら地元に帰った方がいいんじゃない?踊りなんてどこでだって踊れるんだから。はなから人に頼りきって生きてる人は、どこいたってうまくやっていけるとは思えないけど」
「…………」
「でも、まだ江戸に残って夢を追うっていうなら私はいつでも力を貸すわよ」


私は障子を開けた。


「江戸には江戸の人情ってものがあるんだから。ねェ?銀さん」


縁側に腰掛ける二人もちゃんと話は聞いてた。てか、お前ら勝手に先にアイス食ってんじゃねーよ。ちょ、私には?


「俺ァやらねーよ。宗教だのなんだの面倒なのは御免だ」
「そーっスよ。姉上一人で何とかすればいいんだ」


新八によれば創始者の斗夢は信者からお布施と称して金を巻き上げるただの詐欺師。一度はいれば抜けるのは難しく、総本山に行ったきり戻って来ない奴ばかりだとか。


「花子さんはまだ無事。やめられただけでもマシですよ」
「そーそー。わかったらお前は大阪へ帰りなさい。通天閣の周りで踊り狂ってなさい」


それだけ聞くとただの変人だな。


「アラ、それは残念。夢見る女の子はけっこう貯めこんでるものなのよ。お金とり返したら報酬もはすんだろーに」
「ケッ。バカ言っちゃイカンよ。なァ新八君?十七、八の小娘がなァ」
『そこの天パに幾ら貯めこんでたか教えてやりな』


花子が銀ちゃんの耳元で金額を伝えた。


「……え?マジでか」




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