魔封街結社
ふと、顔を上げる。時計の時刻は上司が報せてほしいと言っていた時刻だ。如雨露へなみなみと水をつぎ、デスクでパソコンと向かい合いっぱなしのボスへと差し出した。
「はいどうぞ」
差し出された如雨露とかけられた声に気づきクラウスは顔を上げ、笑いかける名前に礼を言った。
「ありがとう。すまない、夢中になっていて」
「何見てるんですか?」
ひょい、とクラウスのパソコン画面を名前は見る。画面は観葉植物のオンパレード。
「新入りをどうかと思ってな」
これ以上仲間を増やすのかこの人。
すでに植物で溢れているクラウスの領域を名前は見つめるしかない。
「新入りと言えば…そろそろ来る頃じゃありませんか?今日来る新入りの方」
早速植物へと水を与えるクラウスは一つ頷く。
「ああ。ザップが迎えに行ってくれている…」
ピクリと、クラウスは正面扉へと顔を上げる。吊られて名前も顔を向けた直後、扉が開かれた。
「ようこそ。君が新しい同志か」
名前の先輩にあたるどうしようもなくクズでクズなザップの隣には、新入りらしき少年が目を丸くさせている。クラウスは紳士に挨拶する。
「歓迎しよう、クラウス・V・ラインヘルツだ」
ーーーーヒュ.
少年の隣からザップが消えた。
ーーーードカアァァン.
振り下ろされたザップの蹴りをクラウスは驚くことなく腕で防ぐと、ザップの胸倉を掴み視線を走らせる。
そこは植木鉢、そっちも植木鉢、ならば…。
ーーーーゴン.
背骨に膝蹴りを決めてやり意識を飛ばして、クラウスはザップを丁寧に床へと置いた。歴然とした力の差に名前からはため息が出る。
「…全く。いい加減懲りればいいのに。その見上げた根性もっと別のところで使ってくださいよ」
「…………」
「あ、ダメだ。完全に伸びてるよこれ」
床に倒れるザップは白眼をむいていた。
「…あの…」
「あー、あれ気にしないでください。結構日常茶飯事なんで」
「この男は隙あらば私を倒そうとして来てね。それも心底殺すつもりなので厄介なのだ」
「あー…やっぱりそうなんですか…」
「あ、私名前・レ・ポーカー。今日からよろしくお願いしますね」
「ど、どうも」
ーーーービュウ.
「…?」
突然入り込んだ風に、少年は不思議そうに窓へと振り向いた。テラスから、何かが部屋へと入り込む。
ーーーードスン.
「どげッ!!!」
「…おっと。靴底が汚れたかな?」
黒スーツの美女、もといチェインがザップの顔面を容赦なく踏んで着地。こちらも毎度のことなのでクラウスも名前も何も言わないが少年は呆気。
「彼女はチェイン…チェイン・皇。諜報活動のエキスパートだ」
呆然とする少年へクラウスが紹介する。
「な…にを…しやがるんだこのヤロウ!」
「床に寝てる奴が悪い」
「床にあるものは何でもかんでも踏むのかおめえは!!立体でも!!」
「バカ言わないで。踏んでいいものだけに決まってるでしょう」
「………!!」
クラウス、名前、少年は閉口。
「雌犬…てめえたやっぱり勝負しねえといけねえみてえだなあ」
「喚くなって銀猿。ミスタークラウスから片付けると言っておいて敵わないから方針転換?二流のやることはこれだからウスラ寒いよ」
「何だとおおおお(泣)ヒデエとおもわねえかジョニー!!あの女はおっぱいがでかければ生きとし生けるものの頂点に立ってると思ってやがんだぞ」
「…?」
泣きながら見知らぬ少年に喚くザップに、チェインは不思議そうに名前を見下ろす。
「新入りだよ。ほら、この前言ってた」
「…え…?新入りってジョニー・ランディス?ジョニー・ランディスなら来ないわよ?」
きょとんとしながらチェインは言う。
「ていうか…来れないわ」
クラウス、ザップ、名前は目を瞬かす。
「何言ってんだお前。現にここに…!!!」
見れば少年は土下座をしていて、ますます意味がわからない。
「どういう事だ?」
「さっき通達があったのよ。ハドソン川で死体が上がったの」
チェインがパソコンを立ち上げる。
「あのな雌犬。こちとら写真を見て…」
「どれよ」
「これだよ」
「……………」
猫のような口元に温和そうな糸目に首にはゴーグルが、ザップが持っていた写真。パソコンの画面には、ふさふさの髭に額に波線一本と頭にゴーグル。
つまり、上下逆さまに見れば少年に瓜二つだが実際のジョニーとは別人だ。
「…あーなるほどって嘘おおおおおおお無理あるだろこれえええええ」
ザップもクラウスも名前も写真と実物の衝撃事実に大ショック。
「どんな騙し絵だよこれ…ザップさんが間違えるのも無理ないですよ」
ということは少年はニセモノ。
「オイこら!!これは一体何のつもりだ!?そこへ直れ討ち取ってくれる!!」
「ごめんなさいッ!!あの場でどうしても助かりたくって…!!何より…ザップさんがライブラの名前を口にしたので…!!」
土下座したまま足蹴にされながらも少年は言う。
「…知りたいことが…知らなきゃならないことがあるんです…!!裏の世界に通じている皆さんなら分かるかと思って…!!」
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