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今なら私殺されても文句言えない、てくらい目の前がぐるぐるする。死神にも会えそうだよ。つーか今目の前にそれらしき奴がいるけどさ…。
『お茶が飲みたかったらそこ行って右ですよ。もう勝手にしちゃってください』
私はもう寝ますから…と言おうとすれば、本格的にヤバかったらしく視界がぐらりと傾いた。
ゲ、まじ…。
『……団長、素速いですね』
「名前と違うからね」
『……』
喉元まででかかったお礼の言葉が声になることはなかった。
倒れかけた私はいつの間にか隣にいた団長の腕に支えられていた。せっかくちょっと団長…と感動してたのに台無しだ。
「ちょっと風邪引いたくらいでこれじゃあ、今日は鬼ごっこ出来ないみたいだね」
やっぱお粥持ってきただけじゃなかったのか!!よくよく考えればコイツ私の部屋のドア蹴破って現れていたぞ。
「仕方ないなァ」
『わっ、あ…ッ!?』
団長はふぅ、と息を吐くとひょいと私を腕に抱え上げた。そのせいで私は団長を見下げ、団長は必然的に見上げる形になった。
え…か、顔ちかっ…。
だいたい団長、無駄に見た目だけはいいんだよ。見た目だけは…。
――――ガッ!!
『い゛ッ!!!』
たァァァァァ!!!
『なっ…んで頭突きイイ!?』
「なんか失礼なこと考えられた気がして」
そう言った団長のぴょんっとたった触角がちょんちょんと反応しているのが見えた。
お前の触角はなんなんだ!?
『う゛っ、ゴホゴホッ!』
「ほら、風邪引いてんのに騒ぐから」
『もとはと言えば誰のせ…ごめんなさいすみませんだから壁に投げつけないで下さい』
歩き出した団長に慌てて掴まると、団長は私をベットにそっとおろした。
何時もなら投げ落とすのに。
「キッチン借りるよ、お粥作ってあげるから。とりあえず水でも飲んどきなよ」
『え、ええっと…』
戸惑う私を残して、団長はさっさとキッチンスペースへと行ってしまった。
…なんだ、団長が看病紛いなことをしてくれている?あの、団長が?
『阿伏兎ー…団長が怖いよー』
ぽつり、と私は苦労仲間の同僚に呟いた。
それから数十分後、ぼけーっとしていた私の嗅覚を刺激するなんとも美味しそうな匂いがしてきた。
「はい、お粥出来たよ」
『…………。』
「なに?ジロジロと見て」
『……団長、料理出来たんですね』
素直に感心していたら心外だなぁ、と団長は言う。
「俺だってお粥くらいは作れるよ」
『…しかも美味しい』
まじかよ。
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