失われた絆
※屋敷につく前でまだ骸が眠る前。乱文雑文注意
眠い。と目を擦った骸に己の上着を布団代わりにして抱き上げたベルフェゴールは帰り道につきながら、ふと思い出したように船を漕ぐ幼子の顔を覗き込む
「なぁ、骸」
「なんですか、ベル」
「お前さ、なんであそこに居たんだ?」
これは純粋な疑問だった
布に穴を開けて腰で縛りましたと言うような斑に血のついた質素な服を着用している骸の様子からして屋敷の者だったとは考えにくい
何よりベルフェゴールを暗殺者、人殺しと歌った声には嘲りも憎悪もなかった
事実を確認し、受け入れた者の相槌
うつらうつらとしていた骸は億劫そうに身じろぐと重たい瞼を開き、ベルフェゴールをオッドアイにひたと映し出すと紅い右目に触れる
「しんじられないかもしれませんが、ぼくにはねんねんはっきりとしてくる、いわゆるぜんせのきおくがあるんです」
「六道を廻った記憶だろ?」
「……なんでベルが知ってるんですか!?」
半ば予想していた切り出しに思わず口を挟めば相当驚いたらしい、がばっと起き上がりそうな勢いで尋ねられ「しまった」と内心思うがもう遅い
じぃっとベルフェゴールを、否、ベルフェゴールの本質を見極めようとするような眼差しは逃がさないと言っていて
「だってオレ王子だもん」
昔の骸なら騙されるわけのない、というよりは誰も騙されず呆れるしかない理屈をきっぱりと自信満々に返せばベルフェゴールを仰いでいたオッドアイが輝く
あ、またなんかミスったかも……とベルフェゴールが何か訂正する前に小さなてのひらが頬に伸ばされて、にっこりと笑った
「ベルはすごいです。おうじだからいろいろとしっているんですね」
王子で暗殺者でボンゴレなのだからその特異さについての情報にも優れているわけで、まあ、間違ってはいないはず
「ししっ」と笑いながら頷けば、骸は説明の手間が省けて嬉しかったのかにこにこと笑っていた
生前は見ることの叶わなかったひたすらに無邪気な笑顔
はっきりと過去を思い出していない故のモノだからかも知れないが、この笑顔こそをボンゴレのボスである沢田綱吉は六道骸に浮かべさせたかったのだろうと温かい体温にベルフェゴールは目を細めた
「あ、でも………」
ぬけているんです、と骸が小さく小さく呟く
ほとんど眠りかかっているのだろう、くわぁと欠伸をしながらベルフェゴールに全体重を預けて見えない星を探すかのように手をさ迷わせ、ぱったりと落とした
「ひとつまえの、ぼくだけ……くらやみ……で、ちっとも、みえないんです………」
「骸?」
「かすかに、なら……ほしのひかりていどになら………どのかこも、みえるのに」
存在していたのに抜け落ちて、朧げでも見えるはずなのに霧が晴れることがない
たどたどしく、もう思い出せないのだと言ったっきり眠りについた骸にベルフェゴールは唇を歪めると立ち止まった
それは、もう
「………王子忘れるなんて、ダメな奴」
骸の中には二度と共有していた時間と景色が戻らないことを意味していた
例外なく、骸を慕っていた柿本千種や城島犬、クローム・髑髏にフランのことも
六道骸が忌み嫌っていた世界で見つけた掛け替えのない大切な、利用するために手を伸ばしていたのだとしても確かに光であった者達でさえ、零に戻ってしまったということだった
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