06




 本当だと足る証拠のない話
  嘘になるのは信じなかった時




夢を見ていた

深い海の底に沈んでいるような、いつもとは違う夢



『…………………』



曖昧な声が囁いたのは意図も掴めない、脈絡もない言葉

けれど

すうって眠りから目覚めた少女は数回瞬くと胸元で手を握り締める

夢の余韻に浸る瞳はこぼれ落ちそうに大きくて、夢見がちに瞼を閉ざす



「わかりました………骸様」



そっと呟いた少女ーーークローム・髑髏は立ち上がるとテキパキと大切な人の命令に応えるべく用意を始めた




その頃、並盛中学校の屋上には祝日の朝早くから数人の生徒が呼び出され集められていた

真っ青に晴れ渡る空の下、ある人物は不機嫌そうに、ある人物は脳天気に笑って、ある人物は背筋を伸ばし、ある人物は眠たそうに、ある人物はつまらなさそうにして呼び出した小さな影を見下ろす

地上の重苦しい空気とは裏腹に爽やかな風が一迅吹き抜けた



「緊急事態だぞ」



常の余裕は何処へやら、固い声で一言流暢な日本語でそう言ったスーツ姿の赤ん坊に全員が視線を向ける

呪われた赤ん坊が一人晴のアルコバレーノはくいと帽子を指先で上げると守護者を見渡した

心なしか表情も固い




「ツナの奴が行方不明だ」

『!?』

「行方不明………?どういうことさ」



黒い短髪と吊り上がり気味の瞳が特徴的な少年以外が弾かれたように顔色を変える

十代目が!?やら、ツナが行方不明ってどーいうことだ?とか、冷静な質問に続いて吹き荒れる混乱にアルコバレーノのリボーンは口を閉ざした

つまり手がかりゼロの理由も分からない状態であるということ



「朝になったら消えちまってたんだ。ツナの奴、何したか知んねーがオレも気付かなかったぞ」

「リボーンさんが………!!」

「へぇ、赤ん坊がね」



それはあってはならないこと、有り得ないことだ

呪われた赤ん坊の名は、アルコバレーノの立場はそんなに甘いものではない

銀髪の見るからに不良な獄寺の叫びと片眉を上げた鋭い目つきの雲雀にリボーンもお手上げだと頷く

渦中にいるはずなのに何も見えず、自分達の知らない所で何かが確実に動き出しているのだ



「極限見回りはしたのか!?」

「したぞ」



リボーン独自の情報収集も駆使して、それでも見付からなかったからこうして十代目ボス候補の守護者達が集められている

家にいないというよりは並盛に沢田綱吉なんて人物はいなかったのだとばかりに、その存在は忽然と消えてしまっていた

まるで未来にリボーンが飛ばされた時のようだと獄寺がぞっとして顔を強張らせれば横にいた背の高い少年ーーー山本が大きく伸びをして焦る面子に首を傾げてから手を叩く



「っし、もう一回見てまわっか。とにかく動かなきゃ始まんねーし、もう一回俺達でツナを探してみようぜ」

「………僕は群れるつもりはないよ」

「まーまー、そう言わずに。雲雀も協力してくれよ」



ーーー山本何言ってんのーっ!?

と、唯一激しく突っ込んでくれる綱吉がいない上に獄寺もパニック状態なので命知らずなことをいう山本を止める者は誰もいない

ただでさえ屋上に呼び出され、守護者達といさせられ怒りと苛立ちが臨界に達していた雲雀がトンファーを構える

一触即発の空気にリボーンが銃の引き金に指をかける中、その小さい声は静かに全員の耳に届いた



「……待って」

『!?』

「雲の人も雨の人も………ダメ」

「クロームか?」



いつからいたのか、ぎゅっと鞄を抱きしめてスカートを揺らす少女に全員が振り返る

話はだいたい聞こえていたらしい

潤みすら讃えた眼差しをひたむきに向けてきたクロームは少しだけ眉を寄せると視線をリボーンに据える



「ボス………捜さなきゃ」



でも………とクロームが呟き、それを躊躇いと取った獄寺がダイナマイトを今にもぶっ放しそうな顔付きで振り返る

リボーン達もクロームの言いたいことがわからずにじっと待つこと数秒、獄寺の視線にゆっくりとした瞬きを一度してから少女は「骸様が」とか細い声を押し出した



「『次元の魔女に聞きに行きなさい』って骸様……言ったから」

「!?………骸の奴、何か知ってそうだったか?」

「わからない……今日会った夢の中で聞いただけ………ボスがいなかったから……そうだと思っただけ」



ふるふるとリボーンの問いかけに首を振ったクロームは真実それ以外耳にしなかったのだろう

恐らく『次元の魔女』が何かも分かっていないクロームに謎が増えただけだと獄寺が舌を打ち、山本が困ったように笑う

骸の名前にさらに機嫌を悪くしていた雲雀は、けれど次の瞬間楽しげな声を上げた



「ワオ、これはなんだい?」



釣られ、守護者達が目にしたのはーーー自発的に、幾人かの指輪に燈された炎

属性ごとの煌めきが屋上で燃え上がる

沸き上がる炎は留まることを知らず、守護者達の体を飲み込んだ



******************




「ーーー来るわね」



空を見上げていた次元の魔女は何もない空間に目を向けると去り際に質問された、大空の優しい眼差しを思い出す

どうして、と問うたススキ色の少年に重なる面影は温かな光の色



「後継に恵まれたのね、あなたは。そして彼自身も味方に恵まれた」



空間がたわみ、金属音にも似た甲高い音が鳴り響く

第二の客の到来に次元の魔女は浮かべかけていた笑顔を掻き消した




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