03





 過去よりも未来よりも
  大切なものは今ここにあるから




「で、でも、オレだけ………」

「あなたはそれでいいのよ」



やっとのことで絞り出した声もやんわりと跳ね退けられて綱吉は戸惑う

願いがあるのは綱吉だって同じなのに、どうして対価を免除されてしまうのか

「払え」と言われたら言葉に詰まったかもしれないが「払わなくていい」と言われても理不尽なのではないのかと思う

何より



「(黒い人の視線がめっちゃ怖いんですけどーっ!!)」



ギンギラと殺気混じりに見られてそれはもういたたまれない

早くここから抜け出したいと妙に縮こまって息を潜めていた綱吉に、やがて睨んでも無意味と理解したのだろう、黒い忍者の恰好をした人は偉そうに顎を上げて次元の魔女を返りみた



「俺の対価ってなんだよ」

「その刀」

「なっ!銀竜はぜってー渡さねぇぞっ!!」



よっぽど大切な刀らしい、劇的反応で食ってかかる人物に綱吉はええとと考える



「(山本の時雨金時みたいな………?)」



物凄く頷けた

それは手放したくないよなと親友の顔に綱吉は遠い目をする

山本も爽やかな笑顔全開で断るはずだ

が、次元の魔女は容赦を知らないらしくずいずいと黒い人に歩み寄って行った



「いいわよ。そのかわりそのコスプレな恰好でこの世界を歩きまわって銃刀法違反で警察に捕まったりテレビに取材されたりするがいいわ」

「あ?けいさ?てれ?」



どうやら聞き覚えがないらしくハテナを浮かべる黒い人……もとい黒鋼に綱吉は苦笑いを浮かべた

確かにコスプレだ、そして確実に誰かに通報される、警察とテレビは困る

次元の魔女はわざとらしい笑顔で頬杖のように顎に手をやるとにやりと続けた



「今、あなた達がいるこの世界にはあたし以外に異世界へ人を渡せるものはいないから」

「んなデタラメっ!」



それってめちゃくちゃ困るんじゃ……と綱吉がハラハラとやり取りの行方を案じていれば「本当だぞー」と白い人が沈黙を破って黒鋼に言う

マジかよ!?と尋ねられた言葉にはへにゃりと気の抜けた笑顔を浮かべるだけでほわほわとしているだけだったが、彼が右手に持つ杖が発言の信憑性を高めていた



「どうするの?」



答えなど決まっているはずなのに意地悪く尋ねた次元の魔女が早くと促すように手を上向ける

その様子を物凄い形相で振りかぶった黒鋼はたたき付けるように両手を差し出した

魂の片割れを



「くっそー!絶対『呪』を解かせたらまた戻って来てとりかえすからな!」



その怒鳴り声は本当に悔しさに満ち足りていて、やっぱりオレも対価を渡さなくちゃ釣り合わないと綱吉は嬉しそうにするでもなく刀を手にした次元の魔女を見る

山本でも絶対、怒った

大切なものを対価に支払わなければ願いをかなえられないーーー願いをかなえて、かなって、大切なものをまた失っているなんてどうすればいい?

綱吉の気持ちは我が儘で感情的で子供だ

だけどこんな方法しかないなんてと歯痒く思う



「あなたの対価はそのイレズミ」

「イレズミーっ!?」



言い渡された一瞬、白い青年の表情が凍り付いた

え、とツッコミを入れてしまった綱吉が目を見開けば青年が杖を軽く掲げる

すぐに微笑んだ顔はさっきまでと同じはずなのにぎこちなくて



「この杖じゃダメですかねぇ」

「だめよ。言ったでしょ、対価はもっとも価値のあるものをって」




妥協は出来ないと言い切る次元の魔女にまた一瞬微笑みを消してフードを外し、再度笑う



「仕方ないですねぇ」



柔和なのに、仕方ないと言っているのに、割り切れなさを秘めたトーン

対価は背中に刻まれていたらしく、ふわりと浮いたイレズミは次元の魔女の側で止まった

一人、一人と綱吉の前で対価が奪われていく

あなたは払わなくていいと言われた綱吉だけが何も大切なモノを捧げさせられず、といって蚊帳の外にもいない

ぎゅっと拳を固く握り締めた綱吉の前で最後の一人も奪われるべく問い掛けられていた



「あなたはどう?自分の一番大切なものをあたしに差し出して異世界き行く方法を手に入れる?」

「はい」

「……あなたの対価が何かまだ言ってないのに?」

「はい」



立て続けの質問に、それでも少年の声は躊躇わなかった

果てなく曇りのない瞳と返答に綱吉がかける言葉を見失う中、次元の魔女は他の二人にはしつこく尋ねなかったのにもう一つ厳しい言葉を放つ



「あたしができるのは異世界へ行く手助けだけ。その子の記憶のカケラを探すのは、あなたが自分の力でやらなきゃならないのよ」

「………はい」

「………いい覚悟だわ」



最後の質問にもきっぱりと頷いた少年に次元の魔女は心からであろう褒めを落とす

一方で綱吉は長々と続けられた問答に胸騒ぎを覚えて身を震わせた

感じていた嫌な予感は警報を強くするばかりで、ともすれば会話に口を挟んでしまいそうで必死に意識を制御する

次元の魔女は頭を巡らせて、そう。ともう一度言ってから後ろを振り返った



「来たわね」



ってふえてるしーーーっ!!と驚愕の顔をして叫びながら走ってきた学生服の少年に綱吉は強烈な既視感を覚える

この人となら苦労も分かち合えて凄く上手くやれそうだ

なんて名前なんだろうと気にしつつ、次元の魔女が学生服の少年から取り上げた白いぬいぐるみみたいな物体に興味を向けた

可愛い、けど



「この子の名前はモコナ=モドキ。モコナがあなた達を異世界へ連れて行くわ」

「ぬいぐるみじゃないのーっ!?」

「ぬいぐるみを渡しても意味がないじゃないの」



いや、確かにそーですけど

至極最もな次元の魔女の言い分に、だからってその小さいのが異世界旅行の切符ですと言われてもなかなか飲み込めない

あんぐりとしてモコナを指差す綱吉を尻目に不思議現象には慣れているのか、黒鋼がかったるそうに学生服の少年が抱いている色違いモコナに目をつける



「おい。もう一匹いるじゃねぇか。そっち寄こせよ。俺ぁそっちで行く」

「そっちは通信専用。できることはこっちのモコナと通信できるだけ」



………黒モコナ(仮)って何の役に立つのだろう

便利なのよと言い切る次元の魔女には悪いが白モコナに比べると機能性は劣っている

あれー?と綱吉は首を傾げながらも、本当に黒い方は旅についてこないと超直感で確信したので一先ず置いておくことにした

残念ながら色々とたくさんのことを一度に考えられるほど、綱吉の頭は良く出来ていない



「モコナはあなた達を異世界に連れて行くけれどそこがどんな世界なのかまではコントロールできないわ。だからいつあなた達の願いがかなうのかは運次第」



けれど

次元の魔女が希望を紡ぐ



「世の中に偶然はない。あるのは必然だけ。あなた達が出会ったのも、また、必然」



綱吉がここにいるのも、夢を見たことも

そしてこれから起こることも



「小狼、あなたの対価は………」



どくりと綱吉の鼓動が跳ねた

鼓膜のすぐそこで警鐘がわんわんと木霊する

夜空の瞳は小狼と呼ばれた少年を見下ろして、先程とは違い絶望を歌う



「ーーー関係性」





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