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 一つ、落とされたカケラ
  王の色彩、紫の炎が始動する




しん、と居心地の悪い、と言うよりも「何を聞いているんだ?」といった沈黙が綱吉を見詰めて離さない

明らかに「いや、お前が一番弱いだろ」としか取れない、悪く言えば保身に走りたいのだろうかと心を推し量るような値踏みの眼差し

それは綱吉がかつて何度か見たことのある裏を暴くためのもので

オレ、嫌われた?と綱吉は内心物凄く落ち込みながらも、それでも知らなければどうしようも出来ないことをどうにかして聞き出すためにわたわたと意味もなく手を振った



「そっ、その、オレの仲間のことなんだけど」

「ツナ君の仲間?」

「う、うん………」



雲雀恭弥を仲間と呼んでいいのかと悩みながらも取り敢えず頷き、急な話の転換にもきちんと質問をしてくれたファイに綱吉は躊躇いがちに唇を舐め、どの程度話せばいいだろうかと手を下ろす

雲雀の強さは口で説明して用心出来るものではない

何より雲雀は雲雀のルールにしか沿わず、そこには道徳も倫理も協調性もない、いわば理不尽な秩序を強大な力で堂々と敷いている絶対王政だ

そしてその秩序を維持するに相応しい有り余る力を有している



「なんだかいなくなったオレを追い掛けてきたみたいで、此処で一人合流するみたいなんだけど………」

「「「けど?」」」

「ええと………戦闘狂まではいかないけど戦いが好きで、群れるのが極端に嫌いで、気に入らなかったら問答無用で咬み殺すんだ。仲間でも」

「………え?」

「仲間でもー?」



最後に何気なく付け足されたとんでもない内容にぽかんとして聞き返す小狼と、間延びしながらも不思議そうにしてくてんと首を倒すファイに綱吉は目を逸らす

黒鋼の眉間にも取れないのではないかと心配になるくらいのシワが刻まれていたが、綱吉からしても雲雀の説明はそれ以外に言うことは何もないのだ

オブラートに包むことも出来ない、味方でも何と無く命の危機を感じる守護者

悪い人ではないのだが、誤解されるような説明しか出来ないことを、それがまた事実であるだけに何とも言えない気分になりながら綱吉は頬をかくと説明を続けた



「うん。と言うよりあの人はオレ達に力を貸してくれる時もあるけど、基本的に群れること自体が大嫌いで一人を好むから、オレは仲間だって思ってても向こうは違うっていうか、や、違うんだけど………」



どうしよう、凄く困った

本気で悪い方向にしか話せない

冷や汗をかきながらしどろもどろに呟く綱吉に三人の目が微妙な生温さを帯びてくる

まるで綱吉の境遇を哀れむような、慰めるような視線だ

だから違うんだけどーっ!と思いながらも否定出来る材料がないので綱吉も苦笑を浮かべると曖昧なまま弁護をやめた

会えば雲雀の人格など直ぐに分かるはずで、縛られることのない生き様に三人とも雲を描くはずだ

なら、と綱吉は本来するはずだった説明をすぱっと切り出す



「その人は雲雀恭弥って言うんだけど、オレの知る限りヒバリさんに勝ったことがある人は片手にも満たなくて、正直に言うとただ単純に強いだけなら絶対に勝てないんだ」



雲雀が膝をついた戦いは少なく、二度目には必ず打ち倒しているのだ

吊り上がり気味の黒い双眸は前だけを見据え、強さを追い求める性格は誇り高く、抜き身の刃にも似た雰囲気は殺気がなくても綱吉を始めとする人々を理由もなく震え上がらせる



「ヒバリさんは弱い相手でも手加減はしないし、弱いからって見逃すこともしない。でも、強くてもヒバリさんの好奇心と闘争心を煽るだけで戦いは避けられないから」

「………それって、もしかしなくても阪神共和国の人達を傷付けることも、」

「平気でする………かな」



雲雀の愛する並盛でないのだから、なおさら

あはは、と空笑いをした綱吉に、それは洒落にならないだろうと他の面子の頬が引き攣る

何よりあの雲雀のことだ、よりによって群れの多そうなこの国で不機嫌になっていないわけがない

心をささくれ立たせた彼が鬱憤晴らしにトンファーを振るう確率は考える間でもなかった

綱吉が戦えば済む話なのかもしれないが、出来ればしばらく大人しくしていたいというのが本音だ

三人は綱吉を弱いと思っていて、それを実は強いんですなどと言っては実際に戦ってみろと言われるに決まっている

が、綱吉が持っている死ぬ気丸には限りがあり、また綱吉はそれの作り方を知らなかった

この旅がどうなるか分からない以上、むやみやたらと乱用することはできなくて



「………要するに、だ。俺達に此処の奴らも守れってことか?」

「う……そうなります」



黒鋼の低い唸り声にびくりと肩を揺らしながらも綱吉は肯定の返事を返す

返し、もう一言何かを言おうと口を開き



「ーーーっ」

「ツナ君?」



ばっと、覚えのある気配に体を弾かせた

それは間違えようのない、戦う時に燈す炎の波動

ファイの呼び掛けにも答えずに目を見開いていた綱吉はぎゅっと唇を噛んでから小狼にがばっと頭を下げた



「ごめん、今日手伝えない!」

「え、あ、………は、い?」

「ヒバリさんが近くにいるから何か起こる前に止めてくる!!」



民間人相手に雲雀ほどの人物が炎や匣を使うことは考えにくかった

後ろから聞こえる呼び声にも振り返ることなく走り出した綱吉は家を出ると直感のままに進み続けた

片手にはあまり使いたくない死ぬ気丸を握り、直感に任せて角を曲がり、



「って何これーっ!!」



どうなってんの!?と叫ぶ綱吉の目の前にはトゲトゲの小さな体が数え切れないくらいの個体になって歩き回っている



「ちょ、え、嘘………っていうか、もしかして骸が言ってた属性のって」



こういうことだったのだろうか、いやでもだからどうなるの?と呆然とする綱吉にたくさんの目がいっぺんに向けられる

つぶらな眼差しは雲雀の持つ匣兵器のロール以外に他ならなかった




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