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零れない、失わない
追いていかれない距離
目覚めて一番始めに見えたのは見慣れない天井で、一瞬「あれ、また未来にトリップしちゃった!?」と固まること数分
徐々に記憶の理解力が追いついてきた綱吉は眠った気のしない眠りからけだるい睡魔を追い払ってのっそりと起き上がった
夢の内容はちんぷんかんぷんでしかなく、功断についても謎が増えただけだと超直感が告げた‘神様’に対する引っ掛かりに泣きそうになる
お願いだからこれ以上事態をややこしくしないで下さい
半分功断半分骸が綱吉にくれたヒントを考えると雲雀恭弥が‘暴れる’という最悪の事態は再会を果たしてからなのだ、知力体力ともに今は失いたくもない
「ヒバリさんについてもよく分かんないままだしなぁ………」
実際問題綱吉は何一つとしてこれから起こることを飲み込めていなかった
何と無く嫌な予感だったりぼんやりとした予想だったりはあるのだが感覚的なものであり説明するなんて以っての外、行き当たりばったりに任せるしかない
あまりの情けなさにすんと鼻を鳴らして立ち上がった綱吉は布団を畳んで端に寄せると枕元に用意されていたトレーナーとジーンズに着替えて廊下に出た
どうやら一番最後に起きたらしく、他の部屋もしんとしている
耳を澄ませば一カ所に全員が集まっているのかワイワイと賑やかな声が聞こえてきて楽しそうだなぁと口元が綻んだ
とんとんと足音を潜めることなく、むしろ少し焦って近寄れば昨夜小狼と名乗った少年が「あ」と目を丸くして出迎えてくれる
最初の出で立ちからして当たり前ではあったが三人揃って動きやすい綱吉の普段着は着慣れていないのか、どこか民族衣装を着たような印象を受けて微笑ましい
おはよう、と綱吉が笑えば硬派にならない程度に引き結ばれていた小狼の唇が和らいで目元が緩む
「おはようございます。すみません、気持ち良さそうに眠っていたので………」
「疲れてるかなーって思って休んでてもらおうと思ってたんだけど起きちゃったんだねー」
「ファイさん」
「おはよー、ツナ君」
ひょっこりと顔を出して小狼の濁した先を引き継いだファイに綱吉は慌てて頭を下げれば呑気な笑い声が気の抜ける声音で流れる
彼の声は魔術師だからだろうか、ひどく心地好い音楽を耳にしているようだった
反対に黒鋼は興味なさそうに綱吉を一瞥してムスッとしたまま顔をそらされた
嫌われたのかとガーンと口を開けてしまった綱吉に「黒様機嫌悪いんだよー」とファイが笑顔で教え、小狼が苦笑いする
曰く、モコナは完全なる小狼の味方であり、彼の願いが達成されない限りはずっとずっといつまでも同じ場所にいるのだとか
元いた世界に一刻も早く帰りたい黒鋼としては面白くない話だ
しかも不本意であれ何であれ手伝うのが一番の近道なのも確か
ということは
「(………ヒバリさん、怒るよなぁ)」
ふっと、最難関でありながら一番最初にやって来るというかやって来ているらしい仲間ーーーだと綱吉は思っている、怖いけどーーーを脳裏に描き出して意識を飛ばしたくなった
未来の時はまだよかったのだ
強い相手や倒さなければならない敵ははっきりしていたし、何だかんだで人は少なかったので群れに遭遇することもなかった
だが、ここはそうかというといっぺんに歯切れは悪くなる
何せ異世界、未知の領域だ
「羽根が見付かるまで………ってオレ、羽根がどんなのか知らないんだけど」
オレも覚悟以上に頑張らなきゃみんなが死ぬ
綱吉の悲壮で哀れな決意を知らない小狼とファイがそういえば綱吉は知らなかったと思い出したのか簡単にぱぱっと説明をしてくれる
それを聞いた綱吉の感想は説明以上に簡単だった
「ヒバリさん探しながらは絶対無理」という弱気なのではなく本気の答え
どちらも片手間片手間に見付けられる可能性は非常に低そうだ
「ええと………それって、昨日の話だと誰かの体にーーー」
「入ってる可能性はあります」
「だよねー………」
何も知らない小狼の頷きに表情を引き攣らせながら綱吉は羽根を感じ取れるのだというモコナとおはようの握手を交わす
願わくば、なんて神頼みより強く誰かに祈る
頼むから最強にして最凶のヒバリさんにだけは羽根が宿っていませんようにと
もしさくらの羽根まで雲雀恭弥が身のうちに持っているならば真剣な話、魔王に征服されるよりも質が悪い
助かるのは恐らく自然に生きる小動物達だけだ
「あ、その………小狼君、ファイさん、黒鋼さんも」
平穏って何だっけ、と振り返りながら声をかけた綱吉に三人の目が集まる
うろんな眼差しにまごつきそうになりながらも雲雀が来るのなら、これだけは必要条件として聞いておかなければ対処が出来なくなってしまうのだと浮かぶ惨劇
もとい、知っておかなければいざという時に守れない
だから、綱吉にとってもこれは大切な質問で
「三人って、戦闘スキルはそこそこはあるって………考えてもいいよね?」
素手でも
見た目だけなら、見た目も含めて一番弱そうな綱吉の意外な変化球としか思えない質問に、三人は耳を疑って「は?」と異口同音で聞き返したのだった
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