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 まだ未成熟な心と強さ
  眺め、さらし、暴き出せ




最初に辿り着いた国ーーー阪神共和国

大阪を連想させる国名に綱吉は一瞬フリーズしかけたが、ここでいう阪神共和国とは虎の形をした四季のある島国らしい

知識は大阪に片寄りが見受けられるがほとんど日本とは変わらず、一応野球なるスポーツもあると聞いた綱吉は遠い目をした

一番最初に会うのが雲雀ではなく山本だったら絶対観戦をしに行くと目をキラキラさせて記憶のカケラ探しではなかっただろう

記憶のカケラを感じ取れるモコナ曰く、この国にさくらの羽根はあるそうだ

その時、さくらの羽根は持つ人に大きな力を与えるために争いになるかもしれないとここの管理人である元巫女の女性に忠告されたとか

明日から聞き込みをかねてモコナを探知器に探しにいく予定なのだが一つ問題があるのだと小狼が『功断』について説明をしてくれた

阪神共和国には太古から存在する八百万の神が住まい、その神が一人一人の心の強さに応えて憑くーーー守護霊、守護神として異邦人関係なく宿るらしい

何とも気前のいい神様だ

それに、と綱吉は元から魔力も武器も持たなかったために結果的に幸運だった小狼を見ながら思った

もし功断が憑かなくても、もし綱吉があまりにダメダメ過ぎても匣兵器の天空ライオンであるナッツがいる

闘いは恐らく黒鋼が自主的に好戦的に執り行うだろうから形態変化を使う必要もないだろう

『功断』がどのようなものかイマイチみなければわからない以上油断は出来ないが、戦争やら紛争があるわけではないらしい世界にひとまず安堵した

『功断』も使う人によって性質が異なってくるらしく、闘いに使うも使わないも本人の自由

綱吉としては助かる世界だった

そして現在



「オレまた夢の中ーっ!?」



全然眠たくなかったのに布団に入った瞬間ばたんきゅーになったらしい

夢と自覚できる夢の中で綱吉は自身の図太さと何度も眠れる体質に絶叫を上げた

いつからか非日常に揉まれて綱吉の精神もだいぶ頑丈に育まれたらしく、リボーンがやって来たばかりのダメダメライフ絶賛真っ只中な頃からは考えられない進歩だ

どうしよう、喜べない



「次はだれなのー………」




またクロームの時のように誰かがやって来るのだろうかと、見渡せど見渡せど何もなさ気な空間に情けない顔をしながら眉を下げる

正直仲間が、友達が出来てから一人になったことはほとんどないのでこういった場所に何の前触れもなく放り出されても困るし淋しいし物悲しい

孤独だ、とますます眉を下げた綱吉は、ふと寒気を感じて振り向いた

背筋をはい上がるような、悪寒にも似た、けれどどうしても嫌えない感覚

いつからいたのか、最後に目にした時と変わらない食えない微笑みを湛えたオッドアイに綱吉の頬が引き攣った



「む、骸?お前がオレを呼んだの?」

「ええ、まあ」



忠告がありまして、とクローム同様不吉な宣言をかます骸にじりじりと後ずされば軽々と一足で詰められて三叉槍を足元に打ち付けられる

復讐者の牢獄にいるせいで本調子を出せない骸はそのハンデをものともしていないらしく怯える綱吉にクフフと笑い声を零した

それはあたかも檻の中にいるモルモットを上から見守る観察者のようで居心地が悪くぞっと鳥肌が立つ

出会った頃から彼の微笑みは変わらない



「クロームから聞いているでしょうが君が一番初めに会うのは雲雀恭弥です」

「あ……うん、聞いたから知ってるけど」

「ただし、」



つらつらっと何でもないことのように告げられた言葉に綱吉は固まった

ぎぎっと見上げた顔は涼しげで余裕で厭味ったらしいくらい落ち着き払っていてーーー他の守護者達に訪れる避けられない未来を心底楽しがっている

反対に綱吉はさあっと一瞬で青ざめた



「いや、あの、骸………」



それが本当なら雲雀によって次元の魔女はボコボコにされるのではなかろうか

冷や汗を流す綱吉に骸はでしょうねぇと愉快そうな相槌を打つ

自由を得られない囚人としては守護者達に降り懸かる、多分恐らく災難な内容はこの上ないゴシップネタなのだ

今こうしている行動もかなり負担がかかっているのだろう、骸の体は揺らぎ、透け、リアルな幻覚実体とは言い難かった

ともすれば粉々に砕け散ってしまいそうで、綱吉の無力さを代弁しているみたいでぐっと唇を噛み締める

聞き出したいことは山ほどあって、けれどどれを聞いたところでこの男は答えない

ならばとススキ色の瞳に炎が宿る



「骸、お前はオレの功断が何か知ってたりするのか?」



もしくは、雲雀の

何もかも先を見透かしているような骸は綱吉の質問にオッドアイを細めると肩を竦めた

わかりませんか?と唇が嘲笑うように持ち上がる



「僕は僕ではない」

「……………え?」

「沢田綱吉、あなたはこの空間に呼ばれた原因は僕が呼んだからではないのかと心のどこかで考えたから僕はここにいる。雲雀恭弥を思い浮かべたならばここにいたのは彼だった」

「は?」



何だろう、話が一気にややこしくなった

目を瞬かせる綱吉に骸はーーー正確には半分は骸の存在が三叉槍を撫でるとつまりと結論づける



「君の功断はそういった性質です」

「………それって、どういう?」

「霧に似ていますよ。最も本来ならば思い浮かんだ相手ではなく強烈な印象を持っている相手が出るはずなのですが、夢ですからね」



多少の違いはあるのでしょうと頷く骸に綱吉はぽかんと相手を見遣る

ということは、目の前にいるのが、骸の成分が抜けたもう半分が功断であると言うのか

功断はーーー神では、なかったのか



「(あれ………神?)」



ツキリと何かが引っ掛かり、違和感に惑う

何かを間違えていると、何かを思い違えていると超直感が歌う

頭の先から痺れていくような思考に沈んでいく綱吉を見ていた半骸は三叉槍を振ると空間を引き裂く



「雲雀恭弥の功断はーーー呼ばない方がいいでしょうね」




強すぎる祈りが引き寄せるのは必ずしもいいモノではない

独り言ともつかぬ骸の助言に「ヒバリさんだしなぁ」と綱吉も苦笑するのだった

どうやって彼を探し出そうかーーーそれは骸にヒントを貰った

何か裏があるのだろうが今はいい

問題は



「どうやって見分けるか、だよなぁ」



雲雀恭弥には属性の縛り

雲の効果はーーー増殖

とりあえず雲雀恭弥本人ではなく‘雲雀恭弥に関わりのあるもの’が増えることだけが救いだった




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